第三章 学院の先生編
ルシルの親友
「確か、うちの師匠の親友だっけ。彼女も気持ちよさそうに寝ているね」
「お前を待ってたら寝ちゃったんだよ。まあ、この人も少し目を離すとどこでも寝てしまう人だけど」
なんか、とても共感を覚える。
「ほう、ぼくとは気が合いそうだ。でもこっちも暇じゃないんだ。用事があるなら早く起こしてくれ」
「たっぷりと寝てたくせに、何か用事があるの?」
「お腹がすいたんだ」
ぼくは、はっきりと言った。
「本当に自由だね!もう、わかったよ。先生、起きて」
アイラが先生とやらを揺り動かす、すると割と簡単に目が覚めたようだ。
「ん?あー、おはよう。無限くんは起きたのかい?」
「ええ、忙しいから早く用事を済ませてほしいんだって」
「?何か用事でもあるのかい?ルーシーからは暇だって聞いているけど」
「お腹がすいたんだって」
「はっはっは!そうか、それは忙しいようだね」
先生は、笑いながらぼくの方を向く。アイマスクで両目を隠しながら。
「はじめまして、わたしはエイヴィー・マクファーソン。ルーシーとは昔からの親友なんだ。ヴィーって呼んでね。仲良くしてくれると嬉しいな」
「はあ、どうも」
「うーん、弟子たちから君の話を聞いてからずっと思ってたんだけど、もしかして無限くんはわたしたちのことをルーシーから全く聞いてない?」
「何一つ聞いてない」
双子の弟子たちから軽く話を聞いているだけだ。
「そっか、だったら今日の接触は軽めにしておこう。わたしは君たち1組の担任になったんだ。そして君とのお近づきの証に、君のことをこの右目で見せてほしかったんだ」
「右目?」
「うん、私の右目は全てを見るんだよ。過去、現在、未来、才能や人間性もね。その中でも君の本質を見せてほしいと思っているんだ」
「本質、ねえ」
「そう、ルーシーと学園長からも頼まれているしね。意味不明な君のことをわたしに量ってほしいって。具体的に何かをしてほしいとは言わない。ただわたしの右目で君を見せてほしい。かまわないかな?」
まあ、別にみられて困る物もないし。
「いいよ」
「ありがとう」
ヴィーはアイマスクを取り、左目を手で押さえながらぼくを右目ではっきりと見た。
その金色の瞳は、あまりにも神秘的で……。
「っつ!」
突然、ヴィーは頭痛が走ったかのように頭を押さえ、もう一度アイマスクを着けなおした。
「成る程、成る程。君はそういう存在なんだね……」
「大丈夫、先生?」
アイラが心配そうにヴィーに駆け寄る。
「何かわかったの?」
「あ、ああ。色々とね。少なくても学園長が懸念していたような存在じゃないことはよくわかった。君はただ、無垢なだけなんだね。赤子と変わらない。可哀想に、誰にも何も教えてもらえなかったんだ。いや、君が何も理解出来なかったのかな?」
赤子と同じだなんて、失礼な話だ。
「それと、わたしの右目と似たような印象を受けた。君は、世界と言うものから排斥された存在と言うことだ」
「失礼な。今まで普通に一般社会で暮らしていたよ」
「そうなのかい?だとしたらわたしには不思議でならないな。とてもじゃないけど、君は普通に生きることが出来るような性質をしていないよ。っつ!」
ヴィーはまた、頭を押さえた。
「すまないね、頭痛が酷い。いつもはこんな風にならないのだが、おそらく情報量が桁違いに多かったんだ。脳が処理できてないんだと思う。早めに帰らせてもらうよ」
「体の調子が悪いのか?なら仕方ないね」
引き止めるのは悪いだろう。
「ありがとう。だけど、一つだけ予言をしてあげる。……君はきっと、楽な人生を送れても幸福な人生を送ることは出来ない。基本的に全てのことをよくわかっていないからだ。君は、わたしと同じで曖昧に生きている。仕方がないことだけど」
それは間違いない。自分でもわかっていることだ。
ぼくにわかることなど、たった一つもないのだと。
「だからいいかい?幸せになりたいのなら何かを欲しがるんだ。君はまず、自分の意思と言うものを理解しなければならないよ」
ヴィーはそう言って、双子に連れられて帰っていった。
「それと、ルーシーは凄い怒っているからね。気を付けて」
ルーシーが怒っている?なんで?
まあ、ぼくには関わりのないことだろう。
★
ルシルの部屋に帰ると、鬼がいた。
「ムゲン君!一日中寝ているとはどういうことですか?一時間ごとに担当の先生から苦情が来たんですよ!私は平謝りだったんですから!」
成る程、それが原因で怒っていたのか。
だが、眠たかったのだから仕方がない。
仕方がないことに文句を言うのは間違っていると思う。
「聞いているのですか、ムゲン君!そもそも学校と言う場所は、勉強する場所なんですよ!」
ルシルの言葉の全てを無視して、リビングでテレビをつける。
どうやら今日の夕飯はシチューのようだ。美味しそうな匂いが漂っている。
「もう許しませんからね!今日はお説教ですよ!」
だが、残念なことにぼくのお腹が満たされるのは、もう少し後のようだ。
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