ぼくの魔力量は結構凄いらしい

 


「こっちです! ちゃんとついてきてください!」


 ルーシー先生が、ぼくをどこかに誘導してくれようとするが、この魔法学校にはぼくが興味を惹かれるものがありすぎて、きょろきょろしてしまう。


 そして全然関係ない方向に、歩いて行ってしまいそうになるのだ。


 そのたびにルーシー先生は、ぼくを連れ戻し、今ではしっかりと腕を掴まれている。


 初めは手を繋がれていたのだが、ぼくがするりと手を放してしまうので、腕を組まれたのだ。


 決して逃がさないという意思を、強く感じる。


「さあ、ここが私の研究室です。鍵を開けますから、どこかに行かないでくださいね?」


「大丈夫だよ」


 ぼくははっきりと頷いた。


「……ああ、手のひらサイズの羽の生えた人間がプカプカと宙を浮かんでいる」


 これが妖精なのかな? ぼくの好奇心は自然と惹きつけられてしまう。


 目の前の何かに興味を惹かれ、自然と……。


「だから、行かないでください!」


 ぼくの足が不思議生物を追いかけようとすると、またもやルーシー先生に腕を掴まれ、怒られた。


「さあ、中に入りますよ」


 ルーシー先生が研究室の扉を開け、ぼくを連れて中に入る。すると懐かしい印象を覚えた。


 親戚の兄弟の一人が大学に通っていた時、退屈だったぼくを大学に遊びに連れて行ってくれたことがある。


 お世話になっている教授に会わせると、連れていかれた研究室もこんな感じだった。


 たくさんの本棚に、パソコンや仕事に関係のない私物。


 人間の生活感に溢れている。


 だが教授の部屋よりも広く、適当に積まれている本の数が桁違いに多い。


 いつか燃やしてみたい、きっと気分がいいに違いない。


 教授の部屋は十畳ほどだったが、ルーシー先生の部屋はその五、六倍はある気がする。


 だが、寝泊まりをしているような様子はないので、ここに住んでいるわけではないようだ。


「さて、こっちに来てください」


 部屋の奥に連れていかれると、ぼくの目から見てガラクタばかりが置いてあるスペースがあった。


 ルーシー先生はそのガラクタの一つを手に取り、ぼくに見せてくる。


 それは、ぼくの見たことのある物の範囲で言うと、血圧計に見えた。


 一体、こんなものでどうしようと言うのだろう?


「なんだこれは?」


「えっと、普通の人から見たら血圧計に見えるでしょうが、血圧ではなく魔力量を測れるんです」


「はあ、腕に巻いて圧迫することで?」


 それは血圧計の正しい使い方だ。


 ますます疑わしい、舐められているのだろうか。


「そんな疑いの目で見ないでください! 基本的に一般の文化と魔法文化は重なり合っていますから。奇抜な外見の魔道具より、似たような外見の魔道具を作るんです。一般人へのカモフラージュにもなりますし」


「魔道具?」


「まあ、魔法使いが使う道具だと思ってくれればいいです」


 素人のぼくでも、とても大雑把な説明だということを肌で感じる。


 それに、そんなものがあるのなら魔法使いなんていらないだろう。


「だから、そんな目で見ないでください! これでも私は先生なんですよ、凄い魔法使いなんです」


 ……それを自分で言うんだ。


 ぼくの目はさらに段々と冷たくなっているのだろう。


 そろそろ、見限って部屋から逃げ出すべきかもしれない。


「とにかく、これを使ってみてください。魔力量と生命力は密接な関係なんですからね」


 それはつまり、血圧を測ることは生命力を量るようなものなのだから、形が似ていてもいいだろうと言いたいのだろうか。


「じゃあ、ぼくの腕につけて」


「えっと、自分で出来ますよね?」


「うん、でもつけて」


 有無を言わさない。


 そんなぼくの言葉に呆れながらも、渋々とルーシー先生はぼくに従う。


 袖だけを自分でめくり、血圧計、魔力計を腕につけてもらった。


「では、行きますよ」


 ルーシー先生は、リモコンのような物のスイッチを入れることによって、魔力計を動かした。


 やはりこれは血圧計ではなく魔力計らしく、別に腕を圧迫されたりせず、ぼくのデータがリモコンに送られるようだ。


 そして、ルーシー先生はぼくではなく、自分が持っているリモコンを凝視していた。


 どうやら目を丸くしているようだ。


「凄い、既に一年生の魔力量なんてあっと言う間に超えています。これなら……」


 どうやら、魔力計に表示されている数値のようなものが、ぐんぐんと上がっているみたいだ。


 ぼくにも一緒に見せてほしい。


 そして一年生の魔力量が、どのぐらいかも教えてほしい。


「……本当に凄いです。どうやら魔力量が多すぎて、壊れてしまったみたいですね。これは、少なくても私の百分の一ほどの魔力があるようです!」


「それは、凄いのか?」


 ルーシー先生の百分の一とは、はたして凄いのだろうか?


 基準が全くわからない。


「えっと、ですね。ムゲンくんにわかりやすく言うと、この魔法学校を実力で卒業できる生徒の平均ぐらいです」


 実力で卒業と言うのが恐ろしい、それ以外での卒業だと金と権力だろうか?


「ええ。大体、そのぐらいがボーダーラインですね。卒業には最低でも、この魔力計で九割の数字を出さなければなりません。優秀な生徒ならムゲンくんと同じように、魔力計を壊してしまう結果になります」


「それで? もっと大きな数値を量れる魔力計は、ないんですか?」


「ありますけど、私は持っていません。それにこれ以上の優秀な魔力計は、専門教室に置いてあるような大型で、高級品じゃないと」


「じゃあ、専門教室の許可をとってきて」


 いま直ぐにな。


「それは無理ですよ。その魔力計がある専門教室は六年生にしか使用許可が下りませんし、私のような新米教師じゃ無理です」


「はあ、世界最高の魔法使いってやっぱり大したことないんだな?がっかりだ」


「や、やっぱりって何ですか! がっかりってなんですか」


 何ですかと言われても、薄々感じていたことを口にしただけである。


 思ったより役に立たないことが、とてもがっかりだ。


「……むう、それは違います。私が世界最高の魔法使いと言う称号を使って、ごり押しすれば出来ないことなんて一つもないんですよ?」


「じゃあ、なんで無理なんだよ?」


 出来るならやってくれよ。


「それは、私の性格的な問題と言いますか。そういうやり方はあまり好きじゃないんです」


 なんて役に立たない先生なのだろう。


 力があるのに使わない。


 自分自身の問題ならそれでいいのだが、それではぼくが困るのだ。


 ぼくは自分の魔力量に、強い興味があるのだから。


「で、でもいいじゃないですか。これだけの魔力量があれば十分私の弟子になってもらえます。私のオリジナル魔法。その初歩の初歩なら習得できると思います!」


「いや、その話は終わったよね? ぼくを弟子にはしないって言ったじゃないか、ここに来たのはぼくの魔力量を図るためだよ?」


 ぼくがはっきりとそう言うと、ルーシー先生は絶望した顔をする。


 あまり都合がいいことを言わないでほしい。自分でぼくが弟子になることを拒否したくせに、都合がいいと言うものだろう。


 頭を下げたわけではないが、ぼくの頼みは断られたのだ。


 ……だが、まあ。このまま帰るのはつまらないかもな。


 それに、まだ興味があることはあるし、話が終わったわけじゃないのだ。

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