第四章 第二話

 緋蝶は昼食の片付けを終えたあと蔵書室におもむいたが、暁には会えなかった。桜教殿を探し回ったものの、暁のかげも見付けられない。らくたんしつつ、自室の前でため息をついた。

「とうとう今日も会えなかったわ。どうしよう……」

 つぶやきつつ戸を開けて、思わず目を疑った。

「何をしているんですか? りゆうじん様!」

 竜神が部屋の真ん中でだらしなく座っていた。

退たいくつすぎて仕方ないから遊びに来たんだ。月白はお前の教育でいそがしいと言ってすぐにげるから、あいつで遊べなくなってしまった。責任をとれ」

「何を言っているんですか。人で遊ばないでください」

 声を上げると、竜神がかたすくめた。

「僕は神だぞ。人で遊ばずに、何で遊ぶんだ。災害を起こしたり、いくさだって起こしたりできるのに、それをせず月白と遊ぶだけでまんしているんだ。めてくれ」

 ひどい言い方だが、ある意味彼からしたら正論なのかもしれない。

「……人や災害や戦でなくても、楽しむ事はできると思います」

「ほう、たとえば?」

「たとえば……人を幸せにするにはどうしたらいいか考えるとか。それを実行するとか」

 神だからこそできる事を提案したが、鼻で笑われた。

「どうして神であるこの僕が、人を幸せにするために何かを考えなければならないんだ」

 やっぱり神様の思考は理解できないと思いつつ、戸を閉めて彼の前で正座した。

「儀式の準備はどうだ? 教育は順調か?」

 顔がくもりそうになったが、何とか笑みをかべた。

「はい。何とか」

 暁にまったく会えていないという事を口にするのは、はばかられた。

「ふーん。暁にきよぜつされているのか」

「え!? どうしてわかるんですか? まさか、頭の中とか読めるんですか?」

 思わず両手で頭をさわった。竜神が声を上げて笑う。

「そんな事は読まなくてもわかる」

「頭の中は読めない……とは言わないんですね」

 日照りを起こしたり雨を降らせたり、人のかみや目の色を変え、突然姿を現したり消したりするこの神様は、いったいどれほどの能力があるのか考えると、背筋が寒くなりそうだ。

 竜神がじろじろとこちらを見つめた。

「お前のかりぎぬは橙幻が仕立てたものだろう。橙幻とは着物を用意してもらえるくらいうまくいっている。部屋に入る時の立ち居いが、最初に会った時とは格段に違っているから、東雲にも教育してもらっている。苑紫も桜教殿の警護とけんの準備を熱心にやっているようだ」

 するどい観察眼に、思わず目を見張った。

「月白は教育を理由に僕と遊べないと言っている。お前と一緒にいるのをよく見かけるし、うそではないだろう。だから月白にも教育をしてもらっている。それでもお前に順調かと聞いたら、顔がわずかに曇った。つまり、残り一人の暁とうまく関係が築けていないという事だ」

 図星すぎて、何も言い返せなかった。竜神がゆっくりと立ち上がる。

「暁はなかなかごわいぞ。あいつはがんだからな。だが、味方につければ誰よりも心強い」

「どうやったら、味方になってもらえるんですか?」

 わらにもすがる気持ちだった。竜神がふっと笑う。

 その表情は見た目のねんれいよりも、ずっと大人びて見えた。

「何も考えず、暁のふところに飛び込め」

「懐に……飛び込む? それっていったいどういう意味ですか?」

「自分で考えろ。お前があたふたしてじよてい教育を受ける様を見るのは、一番の退屈しのぎだ。せいぜい僕を楽しませてくれ」

 手をひらひらさせながら、竜神が戸に向かった。

 そしてすうっと吸い込まれるように、戸をすりけて出ていく。

「もう、意味深な事ばかり言って。暁様の懐に飛び込むって、会えもしないのにどうやって?」

 竜神が消えた戸に向かって、思わず呟いていた。


    ● ● ●


 桜教殿に住む女帝候補と花賢師は、雫花帝の許しがない限り、外に出てはいけない決まりになっている。だから暁が母に呼ばれて大内裏をおとずれたのは、久しぶりだった。母の部屋はせいりよう殿でんにある。生まれ育った場所だが相変わらずごこが悪いと、暁はたんそくした。

 山吹の部屋に通されると、大きな姿見があった。その鏡が目に入って思わず眉根を寄せる。

 数ヶ月前まで髪も目も黒かった。それが竜神の力であいいろの髪と赤いひとみという、異形の姿に変わった。

 鏡を見るといつも思うが、大内裏一の美男子とうたわれた父に年々似てくる顔こそ、竜神の力で変えてほしかった。前髪で顔をかくしているのは、このようぼうきらいだからだ。

 ぜんとして、その場に正座した。を見つめると、声がする。

「いらっしゃい、暁。久しぶりね。最近顔を出してくれないからさびしかったわ」

「桜教殿にいるので、許可がないと出てこられません。寂しいなら、花賢師から外してください。そうすれば、いつでも話し相手になりますよ」

 御簾がするすると上がった。しん殿でんなどのおおやけの場では、たとえ親子でも御簾を上げて雫花帝と話したりできない。しかしこの清涼殿は私的な場なので、直接顔を合わせる事が許されている。親子なのに、顔を見て話をする事すら容易ではなくて、息がまりそうだ。

 ひじけにもたれた母は、四十をすぎているはずだが、少女のような印象があった。

「あなたが花賢師となる事は竜神様が決められたの。わたくしの一存で外したりできないわ」

 山吹がとなりに目を向けて、何度かうなずいた。笑みを浮かべている母を見て、ため息をつく。

 母の隣には、竜神がいるのだろう。自分には姿も見えないし、声も聞こえない。

 しかし彼は確かに存在していて、自分がいても母と話をする。子どものころは母が独り言を話しているようで不思議だった。それが竜神と話すという尊い能力だと教えたのは右大臣だ。

 母が竜神と話している時には、決してじやしてはいけないと教えられてきた。

「暁、桜教殿での暮らしはどう?」

「別に良くも悪くもありません」

 女帝が君臨するこの国では、皇子として生まれた自分の存在は、さほど重要ではないと知っている。かん達やたみが望んでいるのは女帝となる女の子どもだ。

 だが母が産んだのは自分一人だった。父がくなってから、母は新しい夫を選べと周りにかされていた。だが母は身体からだが弱く、夫に先立たれてからは精神的にも不安定になっていた。

 だから新たに夫を選んで子どもを産むのは絶望的だった。

「相変わらず、無愛想ね。そういうところはあの人そっくり」

 山吹の目が細められた。息子むすこの顔を見て、いつしか母は父をなつかしむようになった。こんなつらかんきように母一人残して死んだ父が嫌いだ。だから母にそんな目で見られるのは辛かった。

「緋蝶が暁になかなか会えないって苑紫が報告してきたわ。力になってあげて。いとこなのよ」

 緋蝶の顔が頭に浮かんだ。初めて会った時は、東雲のしきで下働きをしていた。

 女帝候補をむかえに行くよう山吹に命じられて、苑紫に連れて行かれたのだ。

 だが会うのも面倒だったので、人がいない裏庭で夜桜を楽しんでいたところで、大きなかめをふらふらになりながら運んでいた緋蝶を見かけた。

 助けを呼べばいいのに、がむしゃらに一人で運んでいるのを見て、何をしているのかと気になった。酒の入った瓶を割って𠮟しかられているところを助けたのは、自分でもどういう風のき回しだったのか覚えていない。ただ、ほうって置けなくて勝手に身体と口が動いていた。

 あの時は彼女が女帝候補だなんて知らなかった。

 それを知ったいまはもう、助けようなんて気持ちにはなれない。

「女帝制度には反対です。しよみん育ちのむすめをどう育てたって、雫花帝になれるはずがない。あの娘だってとつぜん重い責任を負わされて辛いと思います。違う手を考えられてはいかがですか?」

「違う手とは?」

「俺が皇位をぎます」

 言い切ると山吹が困ったような顔をして隣を見る。何度か頷いて、こちらに目をもどした。

「竜神様が女帝以外は認めないっておつしやってるわ。もうその話は何度もしているのだから、聞き分けてちょうだい。緋蝶が雫花帝にならないと、りゆうじん様は国を去ると仰ってるわ。そんな事になったら、日照りでたくさんの人が死ぬのよ」

 日照りがおそろしいのはよくわかっている。だがいまのように、ただ竜神にすがって生きるだけでいいのかと、ずっと疑問に思っていた。

「なぜ女性でないといけないんですか? 俺は皇位を継げるほどの教育を受けているし、貴族達の動向にもくわしい。都や地方の事も勉強しています。竜神様が、俺よりあの娘が皇位を継ぐのにふさわしいと言われるこんきよはなんですか?」

 山吹がまたしても隣を向いた。そして再びこちらに目を向ける。

「竜神様は、女性の方がいいからと仰ってるわ」

「ですから、どうして女性がいいのか、それをお聞かせください。……貴族達の間でも、男性が皇位を継ぐべきだという意見を持つ者がいます。彼らはしつこくだんという組織をみつに組織し、たんたんと雫花帝や女帝候補をねらっています」

 その組織は、女帝がようりつされるようになった百年ほど前から存在していたようだ。

 彼らは常に、女帝をその座から引きずり下ろそうと、計画を張りめぐらせている。

 実際に母も何度も命を狙われていた。ひようしようきようである苑紫の父親が、彼らを退けてきたおかげで母に危険はおよんでいないが、これからもそうだという保証はなかった。

「俺がこうていになれば、漆黒団も文句はないはず。民達にとっても、良きみかどになれるよう努力します。竜神様さえなつとくしてくだされば、母上が命を狙われる危険をおかして、帝の地位に座り続けなくてもよくなります」

 はっきりと思いを伝えたが、山吹はそっと目をせた。

「……いいえ。竜神様が女帝を望まれている以上は、わたくしは雫花帝として民のためくします。たとえ命の危険があったとしてもね」

 声がやや小さくなった。父が亡くなってから母は心も身体も弱くなった。

 母は口にしないが、帝という重責に押しつぶされそうになっているのだと思う。

 そんな母を助けたいのに、できない自分ががゆくてたまらない。

「暁、もうこの話はおしまいにしましょう。母のたのみを聞いて。緋蝶はらいとうぐうとして認められなければしよけいされてしまうわ。撫子の娘がそんな事になるなんて、わたくしはえられない。このままでは緋蝶はしきで失敗するわ。せめてちようせんする機会だけでもあたえてあげて」

 この世で一番苦手なのは母のなみだだ。母が泣く姿を見ると、もういやとは言えなかった。

「考えておきます」

 それでもなおにはいと言えなくて、そう返事して部屋をあとにした。


    ● ● ●


 緋蝶は急ぎ足でろうを進んでいた。月白が部屋に来て、さきほど暁を蔵書室で見たと教えてくれたのだ。声をかけたら、母親に呼ばれて清涼殿に行くと話したらしい。話が終わったら帰ってくると言っていたので、蔵書室で待っていれば会えるのではないかと。

 知らせに来てくれた月白に礼を言いつつ、今日こそは会わなければと部屋を飛び出した。

 庭に降り立って蔵書室がある建物へと急ぎながら、あわててあとをついてきた茜に目をやる。

「茜は戻ってていいわよ」

「いえ、お一人では心配です。教育を受ける時以外は、なるべくおそばに付きうように言われています。暁様が本当にいらっしゃったら、戻りますので」

 蔵書室がある建物は桜教殿からややはなれている。庭を足早に進むと、息が上がりそうだ。

 もう少しで蔵書室が見えるというところで、ふと前方にひとかげが見えて足を止めた。

だれなの? あなた達は……!」

 隣に来た茜といつしよに目を見開いた。突然建物のかげから、行く手をふさぐようにふくめんをした三人の男達が現れたのだ。こうげき的なふんをまとっていて、警護の武官ではないと一目でわかる。

 殺気すら感じられる男達に道をふさがれて、きようで足がすくんだ。

 しかし隣でふるえている茜が目に入って、何とかしなければという気持ちがこみ上げる。

じよてい候補、緋蝶だな」

 どう返事すべきかといつしゆんまどったが、まっすぐ男達を見つめて頷いた。

「そうですが、あなた方はいったい何者ですか?」

 桜教殿にいる女性は自分と茜だけだ。ここでちがうと言ったら、茜が狙われるかもしれない。

「一緒に来てもらう。逆らうと痛い目にあうぞ」

 こちらの質問には答えず、男達がにじり寄る。段々と近づいてくるので思わず後ずさった。

「だ、です! 緋蝶様には指一本れないで!」

 茜が震える声を上げて飛び出してきた。そして男達の前に進み出て、こちらをかばうように両手をひろげる。ぶるぶる震えつつ、茜はそれでも彼らをにらみつけた。

「私は緋蝶様のにようぼうです。緋蝶様をお守りするのが役目。たとえ死んでもわたすわけにはいきません。それにそのから模様のもんしようは漆黒団のあかし。あなた方は漆黒団なんでしょう」

 彼らをよく見ると、くろしようぞくかたや背中に、金の糸で唐獅子のしゆうがしてあった。

 漆黒団の事は、苑紫から聞いた事があった。女帝に反対し、男性が皇位を継ぐべきだという考えを持つ貴族達が集まって作った組織らしい。以前から花蕾東宮や雫花帝を狙っていて、山吹も何度も命を狙われているそうだ。男達は、ふんっと鼻で笑う。

「……ああ、われわれは漆黒団だ。女帝候補に一緒に来てもらうぞ。邪魔するなら、お前は殺す」

 男達がさっと刀をき、りかぶった。しかし茜はどうだにせず、目をつぶる。

「駄目!」

 考えるゆうはなかった。勝手に身体が動いて、茜をき飛ばしていた。

 その瞬間、ひだりうで火傷やけどした時のようにするどい痛みが走る。

「うっ……!」

「きゃぁぁぁぁ! 緋蝶様!」

 地面に転がった茜が、左腕を切られて血を流している自分を見て、大きな悲鳴を上げた。

「うるさい、だまらせろ」

「やめて! 茜に手を出さないで」

 血がぽたぽた地面に落ちている。痛かったしこわかったが茜の前に立って声を上げた。

「わたしが目的なんでしょう。だったら、わたしだけ狙えばいいじゃない」

「緋蝶様、いけません!」

「うるさい女どもだ。二人とも連れて行け」

 じりじりと近寄ってくる男達を睨みつけた。

(苑紫様に護身術を習っておけばよかった。茜だけでもがせたかもしれないのに)

 巻き込んでしまった茜に申し訳なかった。何とか彼女を守ろうと、両手を拡げる。

「どけ。お前は生きてらえろと言われているが、無傷じゃなくてもいいんだぞ」

 男が刀を構えた。切られる! と思うと怖くて怖くて、だけどここから動くわけにはいかなくて、思わず両手を挙げて頭を庇おうとした。

「うっ!」

 だが、予想した痛みはやってこなかった。代わりに聞こえたのは、男のうめき声だ。

 慌てて顔を上げると、目の前につやのあるあいいろかみが見えた。

「警護がばんぜんじゃないな。苑紫は何をしているんだ」

 暁がこちらに背を向けて立ち、刀を右手に持って男達に向けた。

ざわりだ。さっさと消えろ。そうじゃないなら、切るぞ」

 暁の声にも雰囲気にも強いあつぱくかんがあった。

 そのしように男達の方が人数は多いのに、恐ろしげに後ずさっている。

ひるむな!」

 だが真ん中にいた男が声を上げると、彼らがはっとしたように、刀を構え直した。

めんどうだな」

 暁がつぶやいたのが、始まりの合図だった。男達を相手に暁が刀を振り上げる。暁が戦う姿は、まるでまいのようだ。着物をひるがえして身軽に男達の刀をかわし、風のようにふわりと刀を持ち上げて、たつまきのように振り下ろす。男達が全員地面にたおれるまでに、そう時間はかからなかった。

「引くぞ!」

 男の合図で、まだ動ける男が倒れている仲間に肩を貸した。

 そのまま去って行く彼らを、暁は追わなかった。

つかまえないんですか?」

 おどろいて問いかけると、暁が振り向いた。

ぞくを捕まえるのは俺の仕事じゃない。を負った身では逃げ切れないだろう。武官が捕まえるさ。……おい、そこの女房。苑紫を呼んできてくれ」

 暁が目を向けると、茜が慌てて立ち上がりその場を離れた。

 刀をさやもどして、暁がまゆを寄せる。

「出血がひどいな。早く止血しないと」

 こしに巻いていた帯をほどいて腕に巻いてくれようとした暁に、思わず首を振った。

だいじようです。出血はひどいけど、大した傷ではありません。そんな高価そうな帯で止血なんてしたら、もったいないです!」

 つい下働きをしていたころびんぼうしようが出た。暁が目を丸くして、すぐに眉をつり上げる。

「もったいないわけないだろう! 怪我の手当てと布とどっちが大事だと思っているんだ!」

 られて首を竦めた。暁が左手をつかんで、傷にさっと布を巻く。

「すぐに橙幻に見せろ。あいつは薬草にもくわしくて、そこらへんの医者よりりようが上手だ。早めに治療すれば、きずあとが小さくてすむかもしれない」

 どうやら心配してくれているようだ。暁が帯を巻き終わったので、おずおずと口を開いた。

「ありがとうございます。あの人達、漆黒団だと名乗りましたが……」

「黒装束に唐獅子の刺繡があったから、そうだろうな。唐獅子はじやあくなものを退け,国家ちんねんすると言われるせいじゆうだ。漆黒団は女帝を守護するりゆうじんたいこうして、唐獅子が男性のみかどを守護していると主張している。だから唐獅子を紋章として衣類に刺繡しているんだ」

 暁が彼らが去って行った方を見て、息をついた。

「雫花帝より、花蕾東宮や女帝候補の方がねらわれやすいんだ。桜教殿の警護は万全にしてあるが、さすがにだいだいほど厳重じゃないからな。だから護身術も教育の一つとして設けられている。あいつらは女帝制度に反対しているから、すきあらば狙って来るぞ」

 腕組みをした暁がふっと笑った。

「俺も女帝制度になつとくしていない。次におそわれても、もう助けないからせいぜい気をつけろ」

 冷たい言い方だったが、思わずくすっと笑ってしまった。

「何で笑う」

 むっとした暁に、慌てて表情を引きめた。

「だって、言っている事とやっている事がばらばらなので。女帝制度に反対しているだけだったら、そもそも助けてくれなかったと思うんです。反対はしているけど、ほうっておけなかった、という事だったら、暁様はいい人なんだなぁと思って」

 暁が明らかにむっとした。

「俺はいい人なんかじゃない」

「でもおしきでわたしがお酒の入ったかめを割った時も、自分が飲んだって言えって助けてくれたじゃないですか。あの時、ちゃんとお礼が言えなかったんで、ずっと気になっていたんです。あの時といまと二回も助けてくださって、ありがとうございました」

 なおに頭を下げると、暁がいつしゆんおどろいた顔をして、すぐにこちらに背を向けた。

「そんな前の話は、もう忘れた。ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと手当てしてもらえ」

 去って行く背中を見ながら、やっぱり悪い人ではないような気がして、再び頭を下げた。

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