第四章 第一話

 おうきよう殿でんに住み始めて数日がっていた。日課となりつつある、午前中の東雲しののめによるれい作法の教えを授かったちようは、庭に出てため息をついた。

「最初に会った時以外、あかつき様とつきしろ様に会えてない。このままじゃまずいわ……!」

 空は晴天だ。竜神のお告げ通り、雨が降ったのは桜教殿に来た次の日から二日間だけだった。

 それ以降は、暑いくらいの日差しが降り注いでいる。これが続けばどうなるか想像してぞっとした。雨を降らせるためには、暁と月白に教えを請うて儀式を通過しなければならない。だから彼らがよくいるはずの蔵書室や社に毎日おもむいているが、かげすらも見付けられないでいた。

「このまま儀式まで一度も会えなかったらどうしよう……。ううん、暗い事を考えては。いまは行動あるのみだわ」

 決意して足を向けたのは、桜教殿の東にある社だった。

「月白様、いらっしゃいますか?」

 鳥居をくぐって階段を上がり、社に向かって声を上げたが、返事はなかった。

 毎日社をおとずれては声をかけているが、一度も返事はない。けんも自分もしずていの許可なしに桜教殿を出られないはずだ。それなのに月白はどこを探しても見つからなかった。

「もしかして居留守を使っているのかしら。だったら、社にいるはずよね」

 そう思って社の戸の前まで来たものの、どうにも足が進まない。

 竜神を祀る場所だけあって、社は神聖なふんをまとっている。そのせいで、ちゆうちよした。

「無断で入るのはどうも気が引けるわ。でも入らないと、話もできないし……」

 どうしようと考えていると、ふいにだれかの声が聞こえた。

「うわっ! やめて!」

 男の声だ。何事かと社をぐるりと回って、声がする方へ急いだ。

 社の裏には小さな池があって、そのみずぎわに誰かがいる。

「やめてくださ……!」

 水際でじたばたしているのは月白だ。何をしているのかと目をこらすと、月白が動いたひように、彼の向こう側にいた子どもの姿をした竜神が見えた。

 竜神は月白の身体をドンッと押したり、くすぐったりしている。

「何をしているのかしら」

 子どもの姿の竜神と十五歳の月白なので、最初は二人でじやに遊んでいるのかと思った。

 しかしすぐにちがうと気づく。

「やめてくださいって言ってるじゃないですか! 竜神様!」

いやだね、もっと遊ぼう。月白」

「俺は遊びたくないんですってば!」

 月白の嫌がっている表情が遠くからでもわかった。それを見てふとおかしな事に気づく。

「あれ? 月白様はりゆうじん様の言葉に言い返していたわよね。竜神様の姿を見たり声を聞いたりできるのは、皇族のひめだけではないのかしら」

 不思議に思ってよくよく見ると、月白の視線は竜神がいる方とは違うところに向いているのに気づいた。竜神がばやく動いて月白を押すので、いまにも池に落ちそうだ。

 それなのに月白は両手をり回してあらぬ方を見ながら、やめてとさけぶばかりだった。

 竜神があきれたような声を上げる。

「どうしてお前の一族は、みんなそんなにれいりよくちゆうはんなんだ。お前は声は聞こえるのに、姿が見えない。お前の父親は姿は見えるのに声は聞こえない。お前はあとりなんだから、ちゃんと霊力が備わるようにきたえてやろう」

 竜神の声は面白がっているように聞こえた。

(そうか! 声は聞こえても姿が見えないから、ていこうできないんだわ。でも、それって……)

「ほらほら。ちゃんと僕の姿が見えないと、また池に落ちるぞ」

 月白はくやしそうだが、どうやっても見えないらしく、竜神がいる方角とは反対の方に手をき出したりしている。竜神がさっと反対方向に回り込み、両手を構えた。

「向かって右よ! 大きな木の前にいるわ。池に突き落とそうとしてる!」

 月白はそくに反応した。言葉で示した方をさっと向いて竜神をドンッと押したのだ。

 姿は見えなくてもさわる事はできるらしく、竜神がしりもちをついた。

「こら、緋蝶! 教えるなんてずるいぞ!」

 竜神がすぐに立ち上がり、うらめしそうにこちらをにらんだ。

 あわててけ寄って、月白をかばうように竜神に向かって手を広げる。

「月白様は見えないんでしょう。それなのに、池に落ちるように押したりして。弱い者いじめしないでください」

「霊力を鍛えてやっているんだ。皇族の姫以外でゆいいつ僕を感じ取れるのは、こいつの一族だけだ。だがいつぱん人よりは霊力が高くても、中途半端な能力しかない。危機的じようきようおちいれば、少しは霊力も高まるだろう」

 相手は竜神だが、そんな言い分には腹が立った。

「それは言い訳にしか聞こえません。だって顔が楽しんでいるように見えます」

「え? 竜神様は楽しんでるの?」

 月白がきょとんとしているので、思わず竜神を指さした。

「ええ。楽しんでますよ。性格悪そうな顔で!」

 竜神がかたらして笑った。

おもしろいな。お前は母親にそっくりだ。あいつも見た目は大人しそうだが、気が強くて正義感も強くて弱い者いじめが大っきらいだった。やまぶきは僕に気をつかうが撫子なでしこおこってばかりだった」

「……それは、竜神様が怒られるような事ばかりしていたからでは?」

 思わず口にすると、竜神がこしに手を当てて、ふんっと笑った。

「まあ、そうともいう。……しょうがない、月白。じやが入ったからまた明日あした遊んでやろう」

 月白は声はしっかり聞こえるらしく、びくっとした。

「ええ!? 最近ここに来る回数が多くないですか?」

 月白は明らかに嫌がっているのに、竜神はまったく気にした風はない。

退たいくつなんだ。お前だって緋蝶に教育してないからひまだろう。暇な者同士遊ぼうじゃないか」

 月白がぐっと言葉にまった。

「じゃあ、また明日な」

「待ってください、竜神様。本当にかんべんしてください。毎日毎日池に落とされるし、ご飯は邪魔されてほとんど食えてないし、つくと起こされるし……」

 どうやら月白は、毎日とんでもない目にあっているようだ。

「だから言っているだろう。暇な者同士遊ぼうって」

 二人の話を聞いていて、だまっていられなくなった。

「月白様はわたしに教えをさずけてくださるので、竜神様と遊ぶ暇はありません。しきで失敗したら、わたしの命はないんですから、こっちも必死なんです。邪魔しないでください」

 竜神がふーんとうなずいて、月白に目を移した。

「月白、教育でいそがしいのか?」

 竜神が問いかけると、月白が彼の声がした方を向いた。

 そしてこちらにも視線を向けて、ふてくされたような顔になる。

「……そうです。毎日教育をするので、竜神様とは遊べません」

 竜神が口をとがらせて、ため息をついた。

「つまらん。教育中はさすがに邪魔できないが、すきがあったら遊んでやるからかくしていろ」

 強い風がいて、いつしゆん目をつぶった。再び目を開けると、竜神の姿はどこにもなかった。

「竜神様はいつもとつぜん姿を消すのね」

 呆れたように声を上げると、月白が目を丸くした。

「いなくなったのか?」

 振り返って頷くと、月白が満面にみをかべて、両手でこぶしにぎった。

「やったー! やっといなくなった、これでゆっくりご飯を食べてねむれるぞ!」

 両手を挙げて喜んでいた月白だったが、はっとしてこちらに目を向けた。

 身長はそう変わらない。可愛かわいらしい顔立ちだが、気の強そうな目をしていて、まだまだいまから大人への階段を上っていくのだと感じさせられた。月白は目をそらしつつ、頭を下げた。

「あの……礼を言うよ。竜神様の居場所を教えてくれて、ありがとう。おかげで、今日は池に落ちずにすんだ」

(あら、案外素直なんだわ)

 思わず心の中で感心して、目をまたたかせた。

「月白様。その言い方だと、昨日までは池に落とされていたんですね」

「だって声はすれども姿が見えないんだ。どこから来るかわからないから防ぎようがなくて」

 口を尖らせた彼は年相応で何だか親しみやすい感じがした。嫌っているはずなのに、それでもこうして礼が言えるのは、心根は正直でやさしいからだと思う。

 だったらと、月白に向き直ってにっこり笑った。

「さっき、竜神様と毎日教育するって、約束してくださいましたよね」

「それは……」

 まどっているようだが、嫌だとげられないところを見ると、脈はありそうだ。

「取り引きしましょう、月白様」

「取り引き?」

「わたしは竜神様が見えるので、近づいてきたらお知らせできます。教えを授けてくださるなら、竜神様がいたずらしないよう見張ります。だからお願いします!」

 頭を下げると、月白がしばらく考えるそぶりをした。

「……さっき儀式で失敗したら、わたしの命はないって言ってたけど、どういう意味?」

「ご存じないんですか? じよてい候補から外れるような事があれば、竜神様の尊い姿をしよみんが見たという事で、わたしはしよけいされるそうです。わたしも突然女帝候補だと言われて戸惑ったんですが、断って帰ったらやはり処刑だと言われて。それで帰れなくなったんです」

 月白がまゆを寄せて、首をかしげた。

「俺は撫子様のむすめが雫花帝になりたいと名乗り出たと聞いたけど」

「えっ? どうしてそんなでたらめな話が? わたしはもともと東雲様のおしきで下働きをしていたんです。そこにえん様達が訪ねて来て……」

 東雲の屋敷であったけいを手短に話した。

「……というわけで、誤解を解こうとしてだいだいに来たら、結局そのまま帰れなくなってしまって。わたしだって、自分が雫花帝になるなんておそれ多いしちやな話だとわかっています。ただ、断って帰ったら命はないので、女帝候補として教えを授かるしか生きる道がないんです」

 話し終えると、月白の目が点になっていた。

「俺が聞いていた話とずいぶん違うな。かん達はお前が雫花帝になりたいって、大内裏に押しかけたって言ってたぞ。俺はそれを信じてて、暁がつらいだろうって思って……」

 月白がはっと口元に手を当てた。暁と月白は幼なじみだと聞いていた。

 暁は山吹の息子むすこで、皇子ではあるが皇位はげないという複雑な立場にある。彼を心配した月白が、勢いあまってきつい態度をとるようになってしまったのではと察しがついた。

 しかし話してみると、月白は裏表がなさそうな少年だ。幼なじみを思いやる優しい気持ちもきらっている相手に礼を言える素直さも持っている。それならば……と決意して口を開いた。

「わたしに教えを授けてください。気に入られていないのはわかっていますが、わたしも命がかかっています。それに竜神様も教育の時は邪魔しないっておつしやっていたから、わたしといつしよにいればいたずらされずにすむと思います」

 微笑ほほえむと、月白が何度か目を瞬かせた。しばらく考え込んだあと、ぼそっとつぶやく。

「……仕方ないな。教えてやるよ」

「はい!」

 うれしくて大きく頷いた。ようやく前に進めそうな気がして、心の中でほっとしていた。


    ● ● ●


「うまーい!」

 月白の声に、緋蝶は思わず微笑んだ。日課となりつつある昼食会に、新しい仲間が増えたのだ。苑紫が作った料理を勢いよく食べている月白に、東雲があきれた顔をした。

ぎようがなっていませんね。緋蝶と一緒に作法の教育を受けてはどうですか?」

「ちゃんとしなきゃいけない時はできるよ。任せといて!」

 東雲はまだ口を開こうとしたが、両手でそれを押さえる。

「大目に見てください。今日は初めて月白様が昼食会に顔を出したんですし。それに苑紫様の料理はびっくりするぐらい美味おいしいんですもの。うっかり作法を忘れる気持ちはわかります」

 とうげんだんの近くにあるあずまには、自分と苑紫と橙幻、そして東雲と月白が輪になって座っている。月白からせんじゆつの教育を受けるようになって数日がっていた。やはり話してみると彼は素直で明るい性格のようで、仲良くなるまで時間はかからなかった。

「月白、けんの練習にも出ろ」

 苑紫が月白が食べ終えた皿を片付けながら、声をかけた。

「ええーっ。剣舞って苦手なんだよな。そもそも剣術が苦手だし。俺は弓の方がいい」

「弓がお上手なんですか?」

「そうだよ、緋蝶。百発百中なんだから。今度見せてあげる」

 まんげに話す月白に、苑紫が目をいた。

「剣舞の練習に来ないやつは、食事を食べる資格はないぞ」

 食べかけの皿を取り上げられようとして、月白があわてて上半身をぜんかたむけてそれを防いだ。

「やるよ、剣舞の練習。儀式で成功しないと、緋蝶がまずいんだろ。剣舞は苦手だけど動きを合わせるぐらいできると思う。緋蝶、俺のかつこういいところ見ててね」

 にかっと笑った月白の頭を、橙幻がぐりぐりでた。

「可愛いな。月白は。どう? 女の子のしようとか着てみない? 絶対に似合うと思うんだ。その姿で何人か貴族を引っかけて、からかって遊ぼうよ」

 東雲が眉根を寄せた。

きんしんですよ。橙幻」

 𠮟しかられても橙幻は気にした風もなく、月白の頭をなで回している。嫌がる月白を助けるためか、苑紫が橙幻のうでつかんで、彼から離してやった。そして改めて、月白を見つめる。

「占術の教育はどうだ? 儀式までに準備は間に合いそうか?」

「多分だいじよう。とりあえず今回はりゆうじん様にささげる祝詞のりとを丸暗記すればいいと思うんだ。緋蝶はおく力もいいし、祝詞はそんなに長くないしさ。それよりも……」

 月白がちらっと目を向けたのは、桜教殿の北にある建物だ。そこには蔵書室がある。

 東雲が心配そうな顔付きになった。

「緋蝶、暁にはまだ会えていないんですか?」

「はい。最初の日に蔵書室で会ったきりです。いつ行ってもいらっしゃらなくて」

 苑紫が腕組みしてため息をついた。

「暁は剣舞の練習にも来ない。儀式まで一度も練習に来ないならまずい事になるだろう。見かけたら引きずってでも連れてくるんだが……。月白、暁と仲がいいだろう。どこにいるんだ?」

「それが最近俺も見てないんだ。会えたら、緋蝶に協力してって言おうと思ってるんだけど」

 月白は最初に敵意を向けてきた時とは別人のようだ。

 竜神のいたずらに相当困っていたらしく、助けた事に本当に感謝してくれていた。

 それに緋蝶が自ら女帝に名乗りを上げて大内裏に押しかけてきたという話を聞いて、うっかり信じたらしい。緋蝶をずうずうしいと誤解し、幼なじみの暁が女帝制度に反対しているのも相まって、こうげき的になっていたようだ。月白がこちらに目を向ける。

「緋蝶、誤解しないでほしいんだけど、暁は悪い奴じゃないんだ。ぶっきらぼうだし口は悪いけどめんどうがよくてやさしい奴なんだ。でも女帝の話になるとたんげんが悪くなるんだよな」

 暁とはまだ数えるほどしか会っていないし、話も少ししかした事がない。

 蔵書室で会った時はしんらつだったが、東雲の屋敷で会った時はかばってくれた。冷たい暁と、困っていたら助けてくれた暁。どちらが本当の彼だろうと考えているが、わからないでいる。

 ただ確実なのは彼から教育を受けられなければ、自分もこの国も終わりだという事だけだ。

 しきまでは二十日ほど。何としてでも暁から教えをさずからなければと自分に言い聞かせた。



 食事が終わり、花賢師達がそれぞれの仕事の為に席を立った。

 緋蝶は最後に残った苑紫が皿を片付けようとしているのを見て、こしを上げる。

「苑紫様、お手伝いします」

「いや、女帝候補にそんな事はさせられない」

「自分で食べた物ぐらい片付けます。料理の腕は苑紫様にはとてもかないませんが、片付けは得意です」

 微笑むと、苑紫が困ったような顔をしつつもしようした。

「では、食器を下げるのを手伝ってもらおうか」

「はい」

 食器と膳を手早く重ねて持ち上げる。自分の頭よりずっと高く積み上がっているので、落ちないようきんこうを保った。苑紫が目を丸くする。

「力持ちだな」

「こういうのは、力はそんなになくても大丈夫なんです。慣れと要領です」

 しきで働いていた時、うたげなどのあとはこれの何倍もの量の食器や膳を運んでいた。

 最初は落としたりして𠮟られていたが、いつしか片付けの名人と言われるようになった。

 苑紫も残りの食器を持って立ち上がる。外に出て、苑紫と並んでちゆうぼうを目指して歩いた。

 となりを歩いていた苑紫が、ふいにくすっともらしたのに気づく。

「何かおかしいですか?」

「そうやって、いつも慌ただしそうに働くところが、撫子様によく似ていると思ってな」

 撫子とは母の事だろう。もえという名前だと思っていたので、どうもしっくりこなかった。

「母をご存じなんですか?」

「ああ、ひようしようきようだった父に連れられて、子どものころからだいだいに出入りしていたからな。撫子様は私を弟のように可愛かわいがってくださったんだ」

 兵部省とは軍政をつかさどるところだ。その兵部省で一番身分が高いのが卿だった。

「私が八歳の時だ。当時十八歳だった撫子様がとつぜん大内裏からいなくなって。いつしよに姿を消したのが兵部省の武官だった。身分は高くないが心優しい男だったと思う」

(きっとそれが父さんね。け落ちしたって聞いたけど……)

 父と母はどのように知り合って、どのようにこいに落ちたのか。そして父と母はどうして身分を捨ててまで一緒になったのか。それはいまとなっては、だれも知らないなぞだ。

「撫子様は、ずっとしよみんとして暮らしておられたのだろう。苦労されたり、つらい思いはされなかっただろうか」

 いつも冷静ちんちやくな苑紫だが、いまはめずらしく心配そうにまゆを寄せていた。

「母は元気でしたよ。毎日よくしやべって、よく笑って、父さんとしょっちゅうけんして。でも、とても仲がいいふうだったと思います」

 もう八年も前にくなったので、顔もうっすらとしか覚えていないが、父と母がおたがいを大事に思っていたのは、子どもだった自分でも感じ取れていた。

「母は働き者でした。得意のい物で家計を支えていて、いま考えても皇族だなんて思えないんです。……苑紫様、もしですよ。もしわたしが竜神様の姿が見えるのは何かのちがいで、本当は皇族の血を引いていなかったら、どうなるんでしょうか?」

 人違いだったと竜神が解放してくれればいいが、姿を見たのだからそつこく打ち首だと言われたらどうしようと思っていた。

 おびえているのがわかったのか、苑紫が微笑ほほえむ。

「緋蝶は撫子様によく似ている。顔立ちも性格も。撫子様も、自分の事は自分でやると言って、てきぱき動かれていた。……大丈夫だ、緋蝶は撫子様のむすめだ。私が保証しよう」

 苑紫が微笑んだ。だまっているとおおがらな体格や武官特有のはくりよくがあってこわい印象の苑紫だが、笑うととても優しいふんになる。男らしい顔立ちも相まって大人のいろただよっていた。

「私は子どもの頃に撫子様にめんどうを見てもらった。恩返しがしたかったのに、撫子様が亡くなられたと聞いて……。だからせめて撫子様の娘である緋蝶が望みをかなえられるように手伝おうと思う。何かあったらすぐに言うんだ。私にできる事なら何でもしよう」

「ありがとうございます。苑紫様」

 力強い言葉はたのもしかった。東雲以外にも心強い味方がいるとわかってうれしくて微笑んだ。

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