第二章 第三話

「……というわけなんです、東雲様。どうしたらいいのか混乱してしまって」

 緋蝶は小さな畳の間で、東雲と向き合っていた。東雲が大内裏にある一室を苑紫から借りてくれたのだ。ひとまず頭を整理する為にも、東雲に御簾の中であった事を話していた。

「信じられない話ですね。でも苑紫はうそをつく男ではないから、本当に子どもは見えなかったんでしょう。その子どもが竜神様だというなら、緋蝶が皇族だというのはちがいありません」

 それは認めなくてはならないだろう。頷くと、東雲がうでみした。

「緋蝶はどうしたいんですか?」

「いくら教えをさずけてもらっても、わたしが雫花帝になれるなんて思えません。得意なのは食事作りとそうくらいで、国政なんてとても……。このまま帰ったら竜神様の姿を見るという無礼を働いたので、命はないとも言われました。でもわたしにはみかどとして民の命を背負うなんて無理です。命を落とす事になったとしても、断るつもりでした」

 その思いは強いが、山吹の言葉が頭からはなれないでいた。

「ですが主上が、新たな雫花帝を擁立できなければ、竜神様はこの国を去ると仰っていると言われていました。そうなったら、国は滅んでしまうとも……」

 それに……と心の中でつぶやく。

りゆうじん様は兄の居場所を知っていると仰いました。雫花帝になれたら宣託として聞かせてやると。兄はわたしをかばってぞくに捕まりました。きっとまだ彼らの支配下にあると思うんです。わたしは……命をかけてでも兄の居場所を知りたい」

 東雲が口元に手を当てた。

「竜神様はやると言ったら、本当にやる方だと聞きました。このまま帰ったら、本当に緋蝶の命はないでしょうし、紗和国に雨を降らせてはくださらないでしょう。しかし竜神様は約束を守る方でもあると聞いてもいます」

 その言葉が背中を押したように感じた。自分に何ができるのか、それはわからない。だいだいなんて見た事もない場所で、女帝や竜神という雲の上のような方々に会い、混乱しているのかもしれない。しかし、心の中はもう固まっていた。東雲を見つめて、息を整える。

「わたし……花賢師様達に雫花帝になる為の教えを授けてもらおうと思います。どれだけの事ができるのかわかりませんが、精いっぱい努力するつもりです。協力してくださいますか?」

 決意して声を上げると、東雲がやさしい表情で頷いた。

「あなたを雫花帝として育てる為に竜神様に選ばれました。最善の努力をするとちかいましょう」

 だれよりもしんらいする東雲の言葉に、大きな勇気をもらった気がした。

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