第三章 第一話
目の前にある大きな木造の門を見上げて、
門には立派な武官が二人いて、眼光
「緋蝶様、ここは
門の奥には、
(こんな貴族様の
本音だが口にはできなかった。一度決めた以上は何があってもやり
一度荷物を取りに帰りたかったが、苑紫に竜神の顔を見た以上、雫花帝の許可なしに外に出る事は許されないと言われた。
「緋蝶様、女帝候補と花賢師は、教育中は雫花帝の許可なく、桜教殿からは出られません。これは教育に集中するとともに、女帝候補と花賢師の身を守る為でもあります。もちろん、外から来る者達も、雫花帝の許可がないとここには入れません」
苑紫の言葉にうろたえた。正直に言うとまだ混乱しているし、桜教殿から簡単に出られないと聞いて足が
「緋蝶。お兄さんの居場所を
(
竜神はつかみ所がない感じはするが、約束は守る方だと東雲は言っていた。
いまはその言葉を信じるしかない。顔を上げて、大きく息を吸い込む。
「行きます」
声を上げると、苑紫が小さく頷いた。
「では、どうぞ」
門を
「奥の建物が桜教殿です。そこで教育を受けて頂きますが、その前に一つ伝える事があります。正確には一月後の
東雲が
「どういう事ですか?」
苑紫が東雲に向き直った。
「これは東雲にも知っておいてほしい事だが、一月後に行われるのは、花蕾東宮として竜神様に認めて頂く儀式だ。そこで招かれた貴族達が緋蝶様に質問をする。それに答えられなければ、雫花帝としての資質はないと判断すると竜神様が仰っているそうだ」
「それって、儀式で花蕾東宮と認められなかったら、命はないって事ですよね」
皇族と認められないなら、
「はっきり言うとそうです。そして緋蝶様が花蕾東宮として認められなければ、
「責任があまりに重くて、押しつぶされそうです……」
自分の
改めてそう考えると、
「その責任を
厳しい言葉だったが、不安に
「……そうですね。わたしが不安がっていたら、どんなにみなさんが
苑紫が、わずかに口角を上げて頷いた。
「その意気です。我々にできる事なら何でもしますので。あとは緋蝶様がどれだけやる気を起こされるかです。頑張ってください」
苑紫は厳しいが、まじめで噓がつけない人のようだ。
(こういう人は信頼できる気がするわ。厳しいけど、その人の為になる事をあえて口にするんだから。
「わかりました。……あの、一つだけお願いがあります。いまの話だと、わたしはまだ皇族ではありません。ですからわたしの事は緋蝶と呼び捨てになさってください。あと、わたしには敬語を使われなくても大丈夫です」
苑紫が困ったような表情になった。
「しかし、あなたが皇族の血筋である事には変わりません。それならば敬意を
「でも、緋蝶様なんて言われると、こそばゆいというか、
東雲が
「呼ばれ慣れていないからでしょう。苑紫、私からもお願いします。緋蝶の心の平安を保つ為にも、教育をする間だけでも彼女の希望を
考え込んでいる苑紫に向かって、両手を合わせる。
「お願いします!」
頼み込むと、苑紫がふっと笑みを
「────いいだろう。あなたがそう望むなら。教育の間は敬語で話したり、
口調を変えてくれた苑紫に頭を下げた。
「ありがとうございます!」
再び歩き出した苑紫に続きながら、次に頭に浮かんだ疑問を口にした。
「五人の花賢師がいると言われましたよね。みなさんどんな事を教えてくださるんですか?」
「我々はそれぞれ、得意な分野がある。たとえば、東雲は作法に
見つめると、東雲が微笑んだ。確かに東雲は
苑紫が歩きながら、自分の胸に手を当てた。
「私は
苑紫が庭から建物に入る為の階段に足をかけた。そして前方の戸を手で示す。
「ここに、他の花賢師達を全員集めている。まずは
心臓がきゅっとなって、
(東雲様のお
息苦しささえ感じながらも頷くと、苑紫が戸を開けた。
「よろしくお願いします!」
中を見る
「ここに来いと伝えたはずなのに、どうしてあいつらは言う事を聞かないんだ……!」
冷静で落ちついた声しか聞いた事がなかったから、
「君と私以外は、自由
「緋蝶。全員首根っこを
きびすを返した苑紫に慌てて声をかけた。
「待ってください。わたしからご
「だが……」
「教えを
苑紫がちらりと東雲を見つめた。
「その方が早いと思います。来いと言われて、
「……わかった。せっかくだから桜教殿を案内しながら、彼らを見付けよう」
ため息をついた苑紫が部屋を出たので、そのあとに続いた。
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