第14話 美夢と由香

「ちょっと待って、美夢ちゃん。」


由紀さんが慌ててこちらに来る。しかし美夢は気にせずに声を上げる。


「…ずっと私が隣にいた?…時間が減った?ふざけないでよ!」


美夢が怒鳴る。俺も美夢と出会って3年間過ごしてきたがこんなに怒っているのは初めてかもしれない。由香も負けずと声を荒げる。


「ふざけてるのはどっち?学校ではいっつもいっつも雅の隣にいるし休み時間だけじゃなくて授業中だっていっつも雅の事ばっかり見てるし今日だって後から来たのにずっと雅のことばっかり」


「それは好きだからに決まってるからでしょ!それに今日はね、由香ちゃん、あんたを見てたのよ!雅の隣で羨ましいなぁって。」


美夢が怒鳴ったあと周りがさーっと静かになる。さらにうっすら苦笑いしながら美夢は続ける。


「知ってる?中学の頃私がいつも遊びに行くと大半は断られるの。従兄弟と遊ぶから。ある日の週末は従兄弟の家でBBQやるんだぁって。ある日の週末は従兄弟京都に旅行に行くんだって。週末のほとんどは従兄弟と過ごしていたわ、すごく羨ましかった。従兄弟が憎くて仕方なかった。だから由香ちゃんが従兄弟と知ってやっと私の敵に会えたと同時にショックだったわ!」


由香は驚く。


「ショックって何よ?」


「入学式から仲良くしたかった女の子がまさかの恋敵で憎くて仕方なかった雅の従兄弟だったからよ!」


「は?なにそれ」


由香は困惑気味に返事をすると美夢は涙を流しながら由香に訴え続ける。


「ずっとずっと悔しくて羨ましくて仕方がなかった。由香ちゃん、本当に羨ましかったんだよ」


すると負けじと由香も声を荒げる。


「う、うそよ!、あたしよりも何もかも優れているくせに!」


「そんなことないわ、もし入れ替われるくらいならなりたいわ!あなたに!」


「え?」


売り言葉に買い言葉、しかし由香が口を閉じる。羨ましかったのが意外だったのだろう。ここでしばらくの静寂の後、第三者が口を開く。


「全く!ホントに良い加減にしなさい!」


今度は由紀さんが声を荒げた。


美夢と由香、由紀さんの声にハッとすると美夢が頭を下げる


「す、すみません。」


由香は呆然として

「お姉ちゃん…」


と、ボソッと呟いた。


2人はバツの悪そうな顔をした。しかし…


「なに2人とも勘違いしてんの?私は貴方たちに言ってるんじゃない。わかるわよね?雅君。黙秘権なんて周りが許しても私が許さないわよ?」


由紀さんは俺の胸倉を掴み睨みつける。


「この愚か者が好きな子はこの2人だけ?逃げずに出てきなさい!」


俺の隣に肩を組み声を荒げる由紀さん。それに対して1人の女の子が手をあげる。


「そ、その!雅君は愚か者じゃないです。そして私は元カノです!」


「へぇ、雅君前に元カノいたんだぁ。それは初耳。で、どうなの?」


「どうなのって言われても…」


「はっきりしなさい!」


「わかりましたよ!」


俺はこの緊迫した空気の中、口を開く。


「俺は…その…3人とも大事なダチなんです!沙織も美夢も由香も!」


「は?」


「え?」


「ふぇ?」


「あの、こういう事言うのはダメなのはわかってます。でも、今は3人とも大事な友達。そう言う事にしてください。」


由紀さんはポカーンと口を開ける。


「今はろくな返事は出来ない。ちゃんとお前らと向き合ってちゃんと答えをだす、それまで待っててくれ!」


俺は土下座した。ここぞというときはこれに限る。



すると少し考えた由紀さんは首を一回縦にうなずくと厳しい目を向け俺に言い放つ。


「まぁ、そこまでの覚悟があるならお姉ちゃんそれ以上何も言わないわ。でもいつまでもダラダラはダメよ?そうね、期限は…遅くても来年の3月一杯までね」


思ったより長かったけどいいのか?


「わかりました。」


「別に期間ギリギリまでとは言ってないわよ?私個人としてはさっさと結論つけて欲しいんだけど、あっちこっち下手に手をつけられてもアレだからじっくり考えなさい。でもね、3人ともいつまでもあなたの事がずっと好きとは限らないわよ?」


「それは、肝に銘じておきます。」


すると他の3人はハッとして俺に言葉を投げかける。


沙織「約束だよ!待ってるからね!」


美夢「ちゃんと約束守ってね」


由香「2人には負けないんだから!」


ああ、とんでもない約束をしてしまった。まぁ引きずる方がどうかと思うし俺自身クリスマスまでには決めたいところだ。由紀さんとの約束どうこうの問題は別としてな。


「さて、雅君の説教はここまでにして…由香!」


「はい…」


「せっかくの飲み会なのに…みんなに迷惑かけたんだから謝りなさい。」


「わかりました。みんな…特に西岡さんごめんなさい。あなたのことが羨ましくて…言いすぎた。」


「ううん、私も言いすぎた。それに私もあなたが羨ましくて…ごめん」


どうやらお互い様だったようだ。こうなったのは俺の責任。いずれちゃんと決めないとな。


「はい、2人とも握手!今後は正々堂々戦いなさい!どうなっても恨みっこなしよ?」


「「はい」」


「そして沙織さん!」


「はい!」


「この2人に奪われないようにあなたも頑張りなさいね!」


「もちろんです、雅君。もう容赦しないから覚悟してね?」


「お手柔らかにお願い…「「「しません!」」」


途中で俺の返事を遮り俺の腕にまとわりつく。だからその大きい胸が当たってんだよ。柔らかいなクソがぁー!


「あ!ずるい!私も」


「私だって!」


いや、あの3人でまとわりつかれても。それを他のみんなに見られてそのうちの1人の神坂が口を開く。


「俺、もう今日帰るわ。ごちそうさまでした!」

神坂はテーブルに千円を置くと苦虫を噛んだような顔をしながら店を出る。


そのあと由紀さんよりもすごい剣幕で小さいけど大きな存在感を持って1人の女の子がすごすごと近寄ってくる。


「みーちゃん、さっちゃん、ゆかちん。1時間後あたしん家ね。異論はみとめねー。」


3人ともポカーンと口を開けている。すると横から斎藤が


「じゃあ私達は先行ってるから。じゃあまた後でね。」


2人は千円ずつ由紀さんに手渡して店を出た。


この後師匠の家に泊まる事になってるんだけどどうしようか。


10分後、関係者と他のお客さん以外全員が店を出て残ったのは森本家と俺のみ。俺も時間なので仕事上がると私服に着替えた。そこに部屋着に着替えた由紀さんが俺に近づく。


「雅君お疲れ様、今回の件、ちゃんと責任とりなさいよ?」


「あ、いや、はい。」


「まぁ、本当はね私もここまで怒鳴るつもりなかったんだけどね…」


「え?」


「ううん、なんでもない(あの元カノちゃんイケメン君にずっと見られてるのに…)今日はしょうがない!雅君が1番悪い!」


「へいへい、どうせ俺が悪いですよー」


ふてくされるが由紀さんはどうやら俺に厳しいようだ。


「お疲れ様でした。また来週」


「ええ、またね」


そうして師匠の家に向かった。



その頃…


私は訳あってアパートで一人暮らし、なのでちょいちょい寂しさを紛らわすために女友達を上げているが今日は反省会を行うところである。


さて、どう料理してくれようか…


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