第13話 犬猿の仲とは…
「あーわるいな雅、黙ってりゃよかったか?」
秀治さんが申し訳なさそうに言う。
「いえ、気にしなくていいですよ。俺はそのまま仕事してますから。俺が出てきても水を差すだけですし」
俺は何事もなかったかのように返事をする。
「いやぁ、それがな…」
すると調理場に早苗が入ってくる。
「はやくみーくんおいでよぉ〜」
「いやいや、今仕事中。お金発生してるんだしサボるわけにはいかねーだろ。それに早苗お客さんなんだからここに入ってくんな!」
「いや、俺が呼んだんだ。」
秀治さん、アンタが呼んだのかよ。
「これは店長命令だ。4番席の接客してこい!あと由香も」
店長の意図がなんとなく読めた。
「はい、わかりましたよ。」
「うん、雅はやくいこ!」
俺と由香と早苗の3人はみんなのいる座敷の4番席に行く。
席順は奥の席から沙織、神坂、美夢、斎藤。向かいの席の奥から早苗、克義、師匠、由香そしてお誕生日席に俺。何故この席配分なのかと言うと忙しくなった時すぐ戻れるよう俺と由香は外側の席になった。正直右に沙織、左に美夢という両手に花の構図の神坂に対して静かなる怒りがこみ上げていたのは内緒にしておこう。
「んで、鶴中の同窓会と1Aの歓迎会ってことで合ってるな。」
「うん、本当は真里ちゃんと幸地君も誘いたかったんだけど今日は2人でデートだからそっとしてあげようとして」
「おいリス、なんで2人の気遣いできんなら俺の仕事の邪魔すんだよ」
「そんなことないよー、だって今は店長の指示で私達の「接客」するんでしょ?」
「けっ、屁理屈言いやがって」
「もう雅ったら怒んないの」
由香が俺を宥める。てかさっきからボディタッチ凄くないか?由香に酒でも入れたのか?そして俺は由香のグラスに入っているキウィスカッシュを口にする。
「ちょ、ちょっと!」
「いや、酒入ってないか確かめただけだ。」
慌てる由香を横目に俺は何事もなかったかのようにグラスを由香に戻す。
「も、もう。雅もなんかお母さんに飲み物頼んだら」
「わかった、叔母さん。由香と同じやつお願いします。」
それを聞くと素早く用意して10秒かからず俺の元に飲み物が置かれる。
「あいよ!」
「ありがとうございます」
「そういえば雅って由香ちゃんとどういう関係なの?」
「従兄弟だけど、言ってなかったっけ?」
「え?そうなの?」
美夢に聞かれると俺が答える。
「ああ、小さい頃からこの店にはお世話になってな。料理も叔母さんや秀治さんから教わったんだよ」
「だから雅の料理って美味しかったんだね」
「まぁ口に合っていると助かる。あっ、そうだ叔母さん!」
「はいはーい」
「さっき俺が作り置きしていたチャーハン三人分お願いします。」
「はいはいー、人数分の取皿とレンゲ持ってくるわね」
「あと、ヒソヒソ…」
「あっ、わかったわ。」
するとあらかじめ叔母さんが取り皿に分けてきたチャーハンをみんなに配る。
「これは、神坂君と克義君と由香ね。あとこれは沙織ちゃんと美夢ちゃんと早苗ちゃん。こっちは幸太君と若菜ちゃん」
それぞれ違う味付けのチャーハンを配る。
「どういうつもりだ後藤」
「それは食ってからのお楽しみだ」
「ふん!」
「文句は食ってから言え!」
神坂の邪険に何事もなかったかのように返す。そしてみんなが口にすると。
「おい、美味いぞ。ちょっと早苗のも食わせてみろ!」
「うん、あっ優しい味がする。かっちゃんのは…ん?しょっぱいかな」
「味が濃い、お前まさか…」
「なんとなくだがスポーツする神坂、克義、由香には塩分多めの高菜炒飯、早苗達には若干味薄めで卵多めの黄金炒飯、そして師匠と斎藤は…」
それをみんなが聞いて驚く、俺はあらかじめ好みに合わせてチャーハンを提供した。
「ああ、なんか豪華だよ。これ本当に雅が作ったの?凄いよ!友達として鼻が高いなぁ」
「後藤君、あたしの嫁に来ない?」
「おい、冗談もその辺にしとけよ斎藤。それは蟹あんかけチャーハンだ。秀治さんがズワイガニの余りの身を持ってきてくれたからそれをチャーハンにしたってわけ。」
「えーずるーい。確かに黄金炒飯も美味しいけどなんで幸太君と若菜ちゃんだけ」
「師匠の幸太はまぁ当然として…まぁ斎藤とはいろいろあったからな。これで今までの事は無かったことにしろとは言わんがお詫びの印も兼ねてだ。これからも仲良くしてくれ」
「ば、バカ。別にもう気にしてないわよ。それに後藤君に結構ひどい事も言っちゃったし。今は信頼できる友達だと思ってるよ。…なんか気を使わせちゃったみたいだね、ごめんね」
「ううん、気にすんなって。謝るのは俺の方だし。これからも仲良くしてくれるか」
「うん、勿論だよ!これからもよろしくね」
別にそこまで今は険悪ではなかったが彼女とはぎこちないというか少なからず他の奴とは距離があった。だからあいつを特別扱いする事でお前とも仲良くしたいという俺なりのアピールだったが気に入ってもらったようでよかった。
「若ちゃん私も食べていい?」
「うん、いいよね雅君?」
「おう、若菜」
「はい、さなちゃんあーん」
「うへへーカニうまぁーい」
「そ、その!私もいいかな?」
「はい、さおりちゃんあーん」
「あ、ずるい!美夢にも!」
「はいはい、がっつかないの!」
「幸太、俺もいいか?」
「うん、どうぞ!神坂君は?」
「俺はいいや。おい後藤!」
「なんだよ?」
「いや、美味かった。んじゃそろそろ俺は帰るわ」
神坂が帰ろうとすると…
「ちょっとまったぁ!俺のラーメン食わずして帰るたぁいい度胸だ!」
「はいー?」
「シメのラーメンだよイケメン、お前も食ってけ!」
「はい、わかりました。」
「お父さんの塩ラーメン、美味しいよ!」
由香が笑顔で神坂にそういうと一旦立ち上がった腰を下ろす。
そして人数分、8人前の塩ラーメンが出てくる。って俺の分は?
「あ、あの秀治さん俺の分は?」
「あー忘れてた。(雅に耳打ち)誰かに食わせてもらえ!モテ男!」
てへぺろじゃねーよ、わかってんだよ意図的に俺の分を作らなかったことくらい。すると隣から
「私の分少し分けてあげるよ、ほらあたしはここの娘だからいつでも食べられるし」
「そうか、じゃあすまねぇ。由香頼むわ。秀治さん器ください。」
「8人分も作ったからもう器ないわ。そのまま食え」
「はぁ、わかりましたよ。由香、構わないか?」
「う、うん。いいよ」
何かお赤らめてんだよ。食いづらいわ。
「やっぱ秀治さんのラーメンうまいな」
あっさりとしながらも味が後から広がる貝出汁にさっぱりとしながらも歯応えのある鳥チャーシュー。麺はスープに合うように細麺にしてある。元ラーメン屋と言うが今ラーメンだけでもやっていけるレベルのラーメンに仕上がっている。
「うーん、美味しい」と沙織
「由香ちゃんのお父さんのラーメン大好き!」と早苗
「もう一杯食べたいなぁ」と克義
「この貝だし、クセになるわね」と若菜
無言で食べる師匠と神坂
無言で食べながらも俺と由香を睨みつける美夢。
すると由香が
「西岡さんどうかしたの?」
あれ、由香顔が怖いんだけど
「別に…」
すると美夢は不機嫌そうにラーメンをすする。
俺が食べたラーメンの残りを由香がいただいて
「それじゃあ仕事もどろっか。」
そして俺を押して厨房に戻る。
「じゃあ雅と私は持ち場に戻るからあとはごゆっくりー」
そして持ち場に戻る、微妙な空気とともに。すると由香は俺の手を繋ぎ俺に問いただす。
「ねぇ、雅って西岡さんとなんかあったりする?」
「いや、特に」
まぁ何もないって言うのは嘘なんだけどな。
「ふーん、今はそう言うことにしといてあげる」
「なんだよ。」
すると由香は苦虫を噛んだような顔をしながら俺に言う。
「実は私、西岡さんの事嫌いなんだ。もし雅が西岡の事好きだったらごめんね」
いや、何となく気付いてたけど何も言わなかった。共通の友達に若菜と早苗がいる。だけどその2人と美夢が仲良くしているところを見ていると絶対仲間の輪に入ってこないからもしかしてとは思っていたが。
「今日も早苗ちゃんが連れてきたときは笑顔を保つのにちょっとね。本当嫌な女だよねあたしって」
「まぁ、好き嫌いはあるからな。そこに俺がどうのこうのいうのは筋違いだろ。俺と神坂なんかがいい例だろ」
「ううん、全然違うよ。神坂君は雅の事分かってないし雅も神坂君の事はよくわかんないでしょ?でも私は違う」
「何が違うんだ?」
「違うんだよ、何もかも!」
すると急に由香が俺の両手を掴む。そして悔しそうに涙を流す由香。
「お、おい!」
「だってわかるもん!あの子は優しくてすごく良い子で可愛くてスタイルも良くて成績も私より上で来ないだ自信があったスポーツテストもあたしが二位であの子が一位。」
「別に気にしなくて良いだろお前だって成績いいしスポーツだって」
「良くないよ!私は中学の頃から陸上やってるのにあんなに胸の大きい女の子と50m走ってタイムは私と一緒の6.7秒。早苗ちゃんだけじゃなくて最初仲の悪かった若菜ちゃんとも仲良くなって…それに何よりも…」
声がだんだん大きくなる、そして
「私と雅との時間がいっぱい減った。彼女の沙織と別れてやっと私が雅と一緒にいられると思ったのに…そしたらいつも雅の隣にはあの女がいるんだもん!私じゃなくて!」
おい。今さらりと凄いこと言ってたよな。元カノが沙織って事も知ってたのかよ!
「幼稚園よりも前から一緒なのは私だけなのに、早苗でも沙織でもない、私なのに、なのにぃ。いつも雅の隣にはあの女があぁ」
由香は俺を抱き寄せる。俺には由香の背中に手を回す事も引き離す事もしなかった、いや出来なかった。柴山さんは黙ってタバコを吸いに行き由紀さんは入り口に立って誰も来ないように見張っていたのが見えた。
そして俺は目の前の由香の慟哭にただ俺は立ち尽くすしかなかった。すると…
「ちょっと待って」
由紀さんが入り口を止めていたがそれを押し除けて入ってきた女子が1人、美夢だった。
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