第11話 宴も酣
私は森本由香、ツバメの巣の看板娘の1人である。でも私よりお姉ちゃんの方が看板娘なんだけどね。少し話を戻そう。バイトが終わり私と沙織は一度解散して準備してからくるとのこと。先に家に帰るとすでにうちの店が開店している。バイトの上がりとここの開店時間が一緒だからまぁ無理ないか。
今日は中学時代のクラス会なので楽しみである、それにさっきお姉ちゃんから雅君も出勤してるから早く帰ってきてねとメールが届いたから少し胸を弾ませて帰路に着く。
私は着くとすぐさまシャワーを浴びてお気に入りのコロンを軽く振る。つけすぎるとお父さんに怒られるからほんのりうっすらと。
そして上はシャツ、下はデニムのショートパンツを履いてラフな格好に仕上げる。でも足を出しすぎると見られるんだよね。でも雅が来ているから少しだけ頑張ってみた。あとは長めの髪を簡単にアップにしてまとめる、あまり時間をかけすぎると待たせちゃうからね。
これでよしっと。そして最初に来たのは克義ことかっつんとその彼女でうちの友達の早苗だ。
「いらっしゃーい、今日は予約いっぱい入っているみたいだから個室はダメだって。こっちの広場の座敷席ね。」
「あいよー、私は構わないよ!今日は楽しみー」
「はやく秀治さんの料理食べたいなぁ」
「うん、お父さん張り切ってるから楽しみにしててね。ちなみに会費は1人千円だよ」
「いいの?」
「うん、本当は千円だって取る気ないって言ってたけど…まぁ他のお客様にも示しがつかないし形だけでもね」
「いやいやいや、千円で秀治さんの料理食べれるなら破格も良いとこだよ。むしろ諭吉2人用意して足りるか心配してきたのに」
「そんな、バイトしてないかっつんと早苗にそんなぼったくらないって。それにいつもウチと仲良くしてくれてるお礼みたいなもんだからそんなに気を使う事ないよ。」
「そっか、それではお言葉に甘えます。」
「うん、2人とも飲み物何にする?ノンアルコールならカクテルもOKだよ!」
「んじゃあ私はマンゴーミルク」
「俺は烏龍茶で」
「了解、じゃあちょっと待っててね」
私は2人のドリンクを作っている時隣にいるお母さんに声をかけられる。
「由香、今雅君いるけどちょっと忙しいから落ち着いてから声かけて頂戴ね」
「うん、わかった」
まぁ状況は見ての通り満席である。うちの店は4人席の個室が3つ大広間の6〜8人席が5つ、カウンター席が10席と個人経営にしては広めの店である。木曜までの平日は7時から10時にかけて少し混むくらいであるが今日は土曜日、開店からお客様が多い。だから雅の邪魔はできないからまた後で話しかけるとしよう。でもちょっとだけ覗いてみよう。するとチャーハンを作っている雅の姿が見えた。あの真剣な眼差しに胸がキュンとする。その姿もかっこいいなぁと思ったが顔が緩むのが自分でもわかった、私は顔を横に振り自分のドリンクのキウィスカッシュを作ると2人の席にもどった。
「お邪魔してます由香ちゃん」
先に戻ると沙織が来ていたのでお母さんに飲み物を持ってきてもらうことにする。
「うん、さっきぶり!何飲む?」
「じゃあオレンジジュースで」
「あいよー、お母さん、オレンジジュース1つお願い」
「はいよー、沙織ちゃんこんばんわ」
「こんばんわ、いつも由香ちゃんにはお世話になってます。」
「ううん、うちの由香の事よろしくね。」
「はい」
沙織は笑顔で応える、沙織の笑顔は本当に可愛い。嫉妬してしまうくらいに。そんな事を思っていると
ガラガラガラ…
クラスメートの神坂駿である。そう言えば噂で聞いたことあるな…雅と仲が悪いとか。やっぱみんなには雅がいる事言わない方が良いかも。
「さっきぶりー、神坂君は飲み物何にする?」
「森本飲んでるそれうまそうだな。じゃあこのキウイスカッシュで」
「ああ、私と同じやつね。お母さん私と同じのもう一つ」
「はいよー!」
そしてみんなに飲み物が行き渡ったところで乾杯の音頭をかっつんが取る。
「じゃあみなさん飲み物を持ちましたね。鶴中の再会と新しい出会いに乾杯!」
「「かんぱーい!」」
それにみんなは合わせてグラスをぶつけ合う。中学時代の話に花を咲かせる。美味しい料理と共に。お父さんの刺身の盛り合わせときゅうりの一本漬け、雅がおそらく仕込んでくれた焼き鳥の盛り合わせにホッケ、うちの店手作りのフライドポテト。みんな美味しいと言ってくれて一安心。
そして話はだんだんクラスメートの話になる。私は聞き役に徹する。早苗がとうとう雅の話を持ちかける。
「ねぇ駿君さぁ、雅と不仲説があるんだけどなんかあった?」
早苗、アンタ勇者や!いきなりぶっこみやがった。すると沙織が物凄く不安そうな顔をする。かっつんは…電話しに行ったし。すると私、早苗、沙織、神坂君の3体1の男女の構図ができる。
「うーん、あいつの事はよくわかんないからなんとも言えないなぁ。多分あいつは俺の事嫌いだと思うけど…」
微妙な顔をする。すると沙織は慌てて
「そんな事ないよ、なんか変な噂流れてるけど雅君は根はすごく優しいし思いやりもあるしカッコいいし…」
あれ、顔真っ赤になってる。これ、もしかしなくても雅が好きだよね。うわー、やっぱり沙織って雅の事好きだったんだ。早苗からライバルが多いって聞いたけどまさかお前もか沙織!…だとするとこっちは…うわーご愁傷様。神坂君、イケメンな顔台無しだよ。言葉にできそうにない顔をしてますな。こりゃ雅と分かり合える事は無さそうだわ。沙織、フォローを入れたつもりだけど火に油…いや、ガソリン注ぎ込んだなこりゃ。
「あ、若ちゃんから着信だ。あたしも電話してくるね」
逃げやがった。くそー若菜め、ナチュラルに助け舟出しやがってどうしてくれんだこの空気…
すると意外なところから私にも助け舟が
「由香、ちょっと来て」
「え、お姉ちゃん?」
すると姉の由紀は私に耳打ちしてくる。
「今のうちよ、料理の方はオーダーアップ(お客様の注文を提供し終える事)したから今のうちに雅君に会ってきなよ。ほらあのイケメンと美女を2人きりにするチャンスだしなんか神妙な空気になってるしさ、ほらアンタがいると告白の邪魔になるじゃない!」
物凄く私に好都合でこの上ない盛大な勘違いをしてくれたピエロとも言える姉は私に感謝しそのまま姉は私を調理場に連れて行く。
「じゃ、頑張ってね」
「ちょっとやめてよ。」
「本当は嬉しいくせに」
「うるさいなぁ、もう」
ニヤニヤしながら姉が持ち場に戻っていく。そして今に至る。
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