第4話 雅の過去『僕』から『俺』になった日(前編)



「ねぇ、いるんだよね?2人とも入ってきなよ」


なんだよ美夢気づいてたのか。2人がバツの悪そうな顔して入ってくる。


「ごめんね美夢ちゃん。それと後藤君、昔なにがあったのかな?出来れば私達にも話してほしいな」

「ねぇみーくん。もう話してもいいんじゃない?」


俺も観念して鎖のかかったような重々しい口を無理矢理抉じ開けるように俺は語り出す。


「あれは俺が小学生5年生の時だった。」


※過去


当時俺は5年3組後藤雅のお話。ちなみにこの学年は4クラス。私立鶴橋小学校、本来普通の小学校だった。しかしある当時有名だった陣内財閥のお坊ちゃんだった後の問題児『陣内恭介』がこの学校に転校してくる。頭も良く運動神経も良かった表面『良い子ちゃん』だった。しかし裏ではそいつがいじめグループのリーダーになり誰か1人がいじめの『標的』にされていた。まずこいつのやり口は簡単、気に入らない奴もしくは弱そうな奴をターゲットとし同じグループの奴で徹底的にいじめるという単純かつ下劣な行為を平気でやってのける。陣内に『あいつをいじめよう』と誘われた奴は断ると自分がいじめの標的にされる為断る事が出来なかったという。それもそのはず当時陣内はクラスでダントツで喧嘩が強い。腕っぷしは他の児童よりも発達していてその辺の中学生相手なら余裕で勝てるぐらいの実力があった為、誰も逆らえなかった。


子供の頃から俺は父親から厳しく育てられた。習い事は習字、ピアノ、空手、合気道を週1日、他は塾で殆ど休みがなかった。一度小学2年の頃、クラスメートと喧嘩をしてこっぴどく怒られ丸1日間家に入れてもらえなかったことがあった。それをきっかけに二度とケンカをしないと心に誓った。

そんな俺が同じ頃塾で仲良くなった女の子がいた。その子の名前は…桜井沙織、5年4組の女の子、出会ったのは4年生の頃1年間同じクラスだった。密かに彼女の事を想っていたが恥ずかしかったのと習い事が忙しくてなかなか話すきっかけがなかった。しかしある日彼女が俺と同じ塾に通うようになり、そこで帰りみちが一緒だったので勇気を振り絞って「一緒に帰ってください」その俺の一生分の勇気のある一言で「はい」と彼女の言葉が返ってくると何故か急に涙が出てしまうほど嬉しかった。それから1年間一度たりとも塾の帰りで彼女なしで帰ることはなかった、必ず一緒にかえる…俺の1週間の中での最高のひとときであった。話を戻す。


1学期も終わる頃に差し掛かったとある日の塾帰り


「雅君3組なんだよね?陣内君に誰も逆らえないんでしょ?」

「そうなんだ、僕はまだいじめのターゲットになってないから良いけど…僕が本当は止めれば良いんだけどお父さんに怒られちゃうし」

「もし雅君がいじめられたら私が助けてあげる」

「ありがとう、さおりちゃん」


そうだ、桜井『さおり』だった。少し茶色で肩より長めのセミロング。小学生にしては結構発育されている胸はスタイルのいい女子高生とさして変わらない。たまに意識的に視線を逸らさないと凝視してしまうから目を合わせる時はいつも彼女の額を見るようにしている。今思えば当時彼女並みの美少女は矢井田早苗くらいだった。彼女は当時俺の隣、実は美夢が今住んでいる家に過去に住んでいたのだ。



早苗「はっくしゅん」(なぜくしゃみ?それにしてもあれ?さおりってもしかして…そういえば……あの沙織ちゃんと同一人物なのかな?)

美夢(沙織ちゃん、じゃないよね?苗字違うし)

斎藤(もしかして!?…気づいてるのかな後藤君…)



夏休みのとある日、地元の花火大会だった


「ねぇ、待った?」

「さおりちゃん、その格好…」

「似合う…かな?」

青の花柄の浴衣姿に俺は見惚れていた。どこに目の焦点を合わせていいのか、心臓がもたない。しかしここは男らしく堂々としよう。そう思いながら本心を声に出して示す。

「可愛い!うん、凄く似合ってるよ」

「えへへ、ありがとう。雅君の甚兵姿似合ってるよ。そ、そのカッコいいよ?」

照れながらも2人で夜店を回ってりんご飴を頬張ったり金魚すくいで3匹同時に取ったり射的で外しまくったり…楽しかったなぁ。

沙織ちゃんと一緒に土手で見る打ち上げ花火は格段と綺麗だった。


「ねぇ雅君、前髪にゴミが付いてるよ?取ってあげるから目をつぶって」

「うん」


目を瞑ったその瞬間…


「ん?」


唇に柔らかい感触が


「え!ええええええ?」

「声が大きいよ、雅君」


一瞬なにが起こったかわからなかった。そう彼女とキスをした。これが俺の、そして彼女の


『ファーストキス』だった。



「私、雅君が好き!大好きです。」


最初何があったかわからなかった。後々溢れ出す高揚感と優越感、アドレナリンドーパミンありとあらゆる細胞が暴れているように体が熱く…いや、爆発してしまいそうになった。俺は自然と口にしていた。


「僕も沙織ちゃんが大好きだ」


すると…


「「僕(私)と付き合ってください!」


同時にでた2人の告白合戦。ふたりでキョトンと顔を合わせる。すると笑い合いながら


「私達って相性ぴったりだね」

「そうだね、僕の彼女になってくれるんだよね?」

「はい、私の彼氏になってください!」



こうして俺達はマセてるかもしれないけど恋人同士になった。そして大きな花火がドカンと打ち上がる。まるで2人を祝福しているかのように。


それから毎日が凄く楽しかった。2学期に入り学校は一緒に登下校、塾帰りには近くのコンビニでアイスを買って一緒に帰る。唯一休みの日曜日は彼女とデート。しかしこの幸せは1ヶ月で幕を閉じることとなる。


2学期初めからいじめを受けていた男子が不登校になった。するといじめターゲットが変わった。その次のターゲットは俺の後の親友となる『師匠』狭山幸太だった。もともと師匠はこのころから頭が良かった。成績優秀で陣内はクラスで俺、師匠に次いで3位だった。当時俺が1位で師匠が2位だった。しかし俺は空手をやっていたせいか俺にターゲットにしなかったのだろう。


ちなみに虐めの内容はまず登校時師匠が下駄箱を開けると周りにも上履きにも画鋲、教室入ると同時にチョークの染み渡った黒板消しが上から降ってくる。机の中には『ウザい、キモい、死ね』といった罵詈雑言の紙が貼られ、トイレに入ろうもんなら上から水いっぱいのバケツを被せられ、給食の味噌汁の中には幼虫が入れられてたり考えられるようないじめは大体されていたのではないだろうか。

心身疲れる師匠に

「もう先生に相談しようよ」

そう俺が言っても

「僕は平気だよ、雅君。先生に言ったところで見て見ぬ振り、さらにいじめがエスカレートするだけ。僕がここで耐えればいいだけ。あとはほとぼりが冷めるのを待てばいい。」

しかし日に日にエスカレートしていった。直接暴行したり師匠にもし先生に言ったらぶっ殺すとか脅していた。

当時から俺は師匠と仲良かった。だからただでさえ他の奴がいじめられているのを止めたかったのに師匠がいじめを受けていた時は我慢の限界だった。

沙織ちゃんに相談して当時沙織ちゃんと仲の良かった男友達、半澤克義とその女友達で顔の広い早苗で作戦会議をした。

「狭山君こないだ見たよ。公園で泣いていんだ。だから声かけたんだ。そしたら、『ありがとう、でも余計な事はしないで、いじめが酷くなるだけだから。』だって。」

「酷いよ、そんな何も悪いことしてないのになんでこんな仕打ちを受けるの?ぐすっ」

さおりちゃんは自分のことのように悲しんだ。

「さおりちゃん、泣かないで」

俺はさおりちゃんの手を取り宥める。

「ありがとう雅君」

俺の手に顔をあて、安堵の表情になる。

「いいなぁ、桜井とラブラブで。俺も彼女欲しいわぁ」

「かっちゃんは女心を勉強した方がいいと思うけどなぁ(私がいるじゃんバカ)」

「どういう意味だよ?」

「そういう意味だよ」

俺と沙織ちゃんが一緒に笑う。

「克義君と早苗ちゃんってお似合いだよね」

「沙織ちゃん、恥ずかしいよぉ〜」

「うーん、チビじゃなければなぁ」

「チビ言うなー、ほんとデリカシーないんだから」

「あーギブギブ、腕噛むなって」

あの時からデリカシー無かったな、克義。

「にしてもいけすかなぁやろーだな。まじぶっ飛ばしてやっからよぉ」

「そうはいうけど陣内君って噂だと中学生と喧嘩して勝ったって言ってたし」

「んなもん口ではどうとも言えんだろ」

「とりあえず証拠を揃えよう。そして僕はあいつを呼び出すから。」

「無理しないでね雅君」

「わかった、心配してくれてありがとう沙織ちゃん。絶対このいじめやめさせてやる。そしてまた幸太君の笑顔を取り戻すんだ」

オー!と円陣を組む。

そしていじめの証拠をかき集め俺は陣内を呼び出した。

「なんだよ後藤、俺になんか用か?」


俺は陣内を小学校の近所の公園に呼び出した。

「もうこんなことはやめろ、そして幸太君に謝れ」

「俺がなにをしたっていうんだ?他の奴がやってたの見てただろ?」

「知ってるんだよ、君が山内君と須藤君に指示しているのを聞いたんだ。それに田中さんや遠藤さんにも…」

クラスの半数だったけど、その後もいろいろ尋問した。痺れを切らした陣内が啖呵を切ってくる。

「証拠はあるのかよ!?」

「証拠ならあるよ、これを先生達に見せたらどうなるかな?」

そこに入ってきたのはさおりちゃんだ。そこには他の連中が師匠の机のバケツに水をかぶせる瞬間、様々な証拠が揃っていた。


「だからどーしたって言うんだよ?また先生か?」

「これを僕の知り合いの弁護士に渡して裁判をかけようと思う。覚悟しろ!」

「へぇ、やれるもんならやってみろよ!?」

「ああ、そうさせてもらうよ。僕は本気だからな」

そしてこの場のやり取りは終わった。しかし、その週の金曜日、この日は塾だったがさおりちゃんがいなかったので1人昇降口に向かう向かう。すると下駄箱に一通の手紙が…ラブレターでは無さそうだ。

宛名のない手紙、中身を開けると…


『桜井は預かった、この女を無事に返して欲しければ狭山のいじめ証拠写真すべてを持って1人でここまで来い』


そこにはどこかの廃ビルの住所が書かれていた。


俺はその時今までで、…いや、人生で1番の激怒と殺意を覚えた。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る