第3話 美夢「雅、昔なにがあったの?」

時を少し戻そう。


昼休みも終わりにかかった頃、月村はうちのクラスのイケメン神坂駿に連れていかれ談笑している。ああやってみるとベストカップルだな。何気に2人をボーッと見ていると痴女こと西岡美夢が俺の視界を塞ぐように俺の真正面に顔を合わせて見つめてくる。


「なんだよ」

「ねぇ、ジェラシー感じちゃってるの?沙織ちゃんを駿君に取られて」


普段なら真っ先に否定するがなぜかためらった。


「さあな」

「否定しないということはヤキモチだな」


ニヤニヤすんな


「すぐそうやって恋愛に結びつけんじゃねーよ」

「ふーん、私が慰めてあげよっか?」

「あたしも慰めてあげるよ、よしよーし」


美夢と早苗は俺の頭をなでる、飼い犬を宥めるように。そもそも俺は暴れても泣いてもねーからな。


「あのぉ、後藤君」

「なんだデコっぱち」


デコっぱちとは斎藤の事だ。こいつの容姿は綺麗系で目はキリッとした細目で前髪を左右に分けておデコを出している。まぁ好きそうな奴もいるだろうが俺はこの女が苦手なのでヨイショはこの辺にしておく。


「デコ言うな、それともう少し私に優しくしなさいよ。月村さんとの差が激しくていくらあたしでも凹むわよ」

「お前が俺に対する接し方を改めるならな」


強気に返す、どーせふざけないでとか言うんだろうが。


「わかったわよ、善処するわ」

「え」


意外だな


「そういえば本題なんだけど貴方過去に月村さんと何かあったの?」

「え?みーくん月村さんと初対面じゃないの?」

「私も聞きたいなぁ」

「…」

3人組が興味津々に聞いてくるが俺自身思い出せない。


放課後師匠と月村が一緒に教室を出て行き克義も後を追いかけるように出て行く。


「ねぇねぇ」

「絶対そうだよね」


美夢と早苗がヒソヒソ話している


「なんだよ気持ち悪りぃな」

「 よし、今日は雅の失恋ツアーを決行します」

「は?」


フラれてなければ告白すらしてないんだけど。


「後藤君、私も行くわよ」


斎藤がしゃしゃり出てきた。


「あたしたち3人で雅を慰めよー」


だからフラれてねーから。それはそうと連れてこられた場所はアミューズメントパーク『ラウンド2』。1.2階はゲーセンになっていて3階はボウリング、4階以降はスポッチャとなっている。手始めにボウリングをする。


「やったー、ストライク」

「あたしガターだよ」

早苗は185というなかなかいいスコアを叩き出し美夢と俺はそれぞれ138と92という普通のスコアになった。ちなみに俺が138だ。そして斎藤は…


「元気だしなよ若ちゃん」

「うう」

45という圧倒的なスコアを叩き出すと変な空気になったボウリングは1ゲームで終了した。

次に行ったのはカラオケ。俺は下手くそではないが人前で歌うのが恥ずかしいのでパス。


「私から歌うー」


最初は早苗が歌う、あいつはアニソンボカロメインでたまにリトグリやAKB48など今時の歌を唄う。

流れてきたのはプライド革命、ハニワかよ。でもハニワの曲は不登校の頃よく聞いてたっけ。


「はいはーい、次あたしー」


今度は美夢の番だ。こいつはサイサイ(サイレントサイレン)好きで結局半分サイサイしばりだった。残り半分は早苗同様アニソンボカロ、あと懐メロも歌ってたっけ。MANISHってスラムダンク時代だよな?俺の姉貴にスラムダンク勧められて読んでたな。でも良い歌だったわ。


「私も歌います」


斎藤はバラード系が好きなのか西野カナや中島美嘉とか唄ってたっけ。しかし最後に唄ったのがハニワのノスタルジックレインフォール、ビブラートと高音が綺麗に出せていた。断言しよう、声だけならこいつに惚れている。


「ねぇ、雅も一曲だけで良いから唄ってよ」

「うーん、まぁ一曲だけならいいか」


そこで俺の選んだ一曲


UVERworldの『君の好きな歌』幼稚園の頃からUVERworldが好きでそれだけが理由で不登校の時もずっと聴いてたバンドの1つだ。柄にもなく熱唱すると、なんか変な空気になった。


「なんか惚れちゃうかも」

「みーくん歌上手いんだ」

「声だけは大好きよ」


最後の奴、声だけは両想いだな。俺も意外だったので頷きながら静かにマイクを戻す。

俺以外の3人で何曲かたらい回しにして結局8時手前までカラオケルームにいた。最後に4人でプリクラを撮って解散。俺が真ん中だったので3人の6つの膨らみが体に押し寄せてきた。2人ほどではないが何気に斎藤も巨乳なんだよな。


「もうこんな時間かぁ、金曜日だしあたしんちに泊まる?」

「あたしは泊まるー」

「私も良いですか?」

「もちもちー」

「俺は帰るわ」

「あー雅は泊まり確定だよ?」

「へ?」

「だってお母さん雅のお父さんに連絡済みって」

「はぁ?」

聞いてねーぞ

「雅の父さんが今日は泊まってきなさい、なるべく粗相のないようになって伝えといてくれだって」

あ、そっすか。そういえば美夢の家になってから行くの何回目だろう?実は美夢が住む前に隣に以前別の幼馴染が住んでいた。名前はええっと…「!!!」


一方その頃


「雅まだかなぁ?」

「そろそろ来るってさ」

「なんで私にじゃなくて連絡が早苗ちゃんに?」

「あ、なんとなくわかった。」

「え?なにがわかったの若菜ちゃん」

「えっとー、言いづらいんだけど…友達としては早苗ちゃんの方が連絡しやすいんじゃないかな?たまに後藤君と美夢ちゃんってぎこちないよね?」

「そうなの?」

「あぁ、若ちゃん知らないんだっけ?みーちゃん一回みーくんにフラれてるんだよ。」

「ぇ?ええええええええ!」

「ちょちょちょっと言わないでよー」

「なんでなんで?こんな美人さんをあのヤンキーが?許せん、ゆるせんぞぉぉぉぉぉぉおおお」

「いや、あの掘り返さないで」

「それでねそれでね、振り向かせてやるって言ってファーストキス奪ったんだよー」

「やめてえええええ!」

居間で3人が女子トークをしている間にすでに俺は来ていた。そしてそのまま美夢のお母さんに台所に連れていかれ俺は夕食ならぬ夜食の準備を手伝っていた。さっきの会話は聞こえないフリをしておいた。少し前の話、俺は中学3年のクリスマス美夢とデートした。お互いプレゼントも交換したのに、一緒にケーキも食べたのに、街の綺麗なイルミネーションも見たのに、それでも俺はあいつの告白を断った。正直すごく嬉しかった、OKしたかったのだがそれなのにあの頃の思い出がよぎった。小学5年生の頃のあの初恋がどうしても忘れられなかった。そしてあいつの顔を思い出した。でも名前が思い出せない、いや、思い出したくないのが本音だろう。美夢にはすごい申し訳ないと思っている。可愛くて明るくていつも元気で断る理由なんてないのに…俺はあいつの告白を受け入れられなかった。俺も好きだと思う。だけどどうしても頭からあの子のことが忘れられない。

「雅君、気にしないでね。あの子可愛いから彼氏だってすぐできると思うしあなたが気負う事なんてないのよ」

「本当にすみません」

「まぁ雅君に美夢の事もらって欲しかったのが本音なんだけどね、雅君好きな人いるの?」

少し胸に突き刺さる。

「好きな子っていうか、以前好きだった子がいてまた会えるのが叶わないと思いますけど今のこの状態で美夢の告白を受け入れたらダメな気がするんです」

「そっか。大丈夫よ、きっとまた会えるわ。雅君見た目はヤンキーだけど根はものすごく真面目でいい子だもの。きっと神様は見てくれているわ。でももしそっちがダメだったら美夢のことよろしくね!」


まだ美夢と俺がくっつく事は諦めてないらしい。いや、親公認嬉しい事なんだろうけどなんだか素直に喜べない。


「いや、俺なんかより相応しい人いますよ、あいつは可愛いし気配りできるし優しいし彼氏になりたい奴なんていくらでもいますよ。それでいつも一緒にいる俺と幸太が目の敵にされてるんですけどね」

「そんな事ないわ、雅君ほど美夢に相応しい男の子なんていないわよ」


美夢の母、真由美さんは美夢を産んだだけあって美人だった。スタイルも美夢と同じく良いモノをお持ちで腰回りも細い。


「美夢ったら昔の私とおんなじね」

「今もお綺麗ですよ真由美さん」

「あらー、お世辞が上手いのね。なんなら私と付き合っちゃう?」

「亮太さんに怒られますよ」


クスリと真由美さんが微笑む、亮太さんは真由美さんの旦那さんだ。


「いいのよ、あの人ったら美夢産まれる前に浮気ばっかりしてたから仕返しよ」


聞きたくない友人の両親の夫婦仲事情だった。それにしても亮太さん真由美さんみたいな美人な奥さん持ってるのに何したんだよ。


「まぁ、最初に浮気したのは私だから私も人の事言えないのよね」


前言撤回、お互い様だった。


「それも美夢が産まれてからは落ち着いたんだけどね。それに亮太もなんだかんだ私の事愛してくれているし私も浮気なんてしなくなったわね。」


まぁ、今さっきしそうになったんですけどね。


「あら、亮太君が帰ってきたわね。」


ガチャっとドアを開けると三人官女がどどっと玄関に集まる。


「あれ?雅じゃない?パパおかえりー」

「お邪魔してまーす」

「こ、こんばんわ。」


「おかえりー、早苗ちゃん久しぶり。隣の子は?」

「クラスメートの斎藤若菜です」

「おー、べっぴんさんじゃないかぁ。今日は目が潤うなぁ」


なんか出づらい。


「亮太君おかえり、雅君も来てるわよ」

「えーー!来てるなら言ってよー」(さっきの話聞かれてないかな?)

「悪いな美夢、もうすぐ夕飯できるから」

「よお雅、お前の飯楽しみだな」

「亮太さんお久しぶりです。まぁほとんど真由美さんが作ったんですけどね」


そして7人で卓を囲みご飯を食べる。今日の献立は肉じゃがと野菜炒め、あと漬物と茄子の味噌汁だ。野菜炒めには少し味を濃いめにしているのと豚肉が入れてあるので十分おかずになるだろう。亮太さんはビールを一気した後にご飯を食べるという独自の食べ方でまぁこれは挨拶みたいなもんだ。


「ところで雅」

「な、なんすか?」

「この3人なら誰を嫁さんにすんだ?」

「え、あ、いや、その」

こういう答えづらい質問はやめてほしい。

「おい、まさか他に惚れてる女とかいるのか?」

誰か助けて、まず俺は早苗を見る。すると目を背けられた、次に斎藤だがこいつ下向いてやがる。わかってて知らねぇフリしやがって。次に真由美さんだがニコニコ笑っている。最後、予想はついているけど美夢は案の定顔を真っ赤にしている。観念した俺は最終手段に出る。


「いやぁ、俺の事はいいっすよー。それより他の三人の気になる人でも知りたいなぁ。」


ごめん、美夢。まじごめん。1人は公開処刑なので何も答えられないと思うが他2人は少し興味あるな。


「へぇ、お前らどうなんだ?」


よしっうまくターゲットを逸らすことに成功したぞ。早苗が真っ先に声を出す。

「私優柔不断だから誰とか決められないんです。惚れやすいし、こないだまでみーくんの事好きだったし」

え?冗談だろ?早苗を見る。ウインクしながら舌出してやがる。うまくごまかしたな、早苗に向かって親指を立てておく。俺と早苗は良かったが美夢が顔真っ青になってる。あとで説明しといてくれ早苗さん。

「私は狭山君かな?入学式の時私が落としたハンカチを拾ってくれたんだけどその時の狭山君がイケメンすぎて」

あー、眼鏡も外してたもんな。


「そうなのねぇ、美夢、早苗ちゃんとライバルだったのねぇ」

「そ、そんなんじゃないよ、もう」

美夢が拗ねる。


あとはたわいもない世間話をして俺が一番風呂を頂くことになった、次に美夢、そのあとは何故か早苗と斎藤2人で風呂に入っていった。亮太さんは朝シャワーを浴びるからといい歯を磨いてすぐ寝て真由美さんは台所で食器の片付けをしていた。


「ねぇ雅、こっち来て」


腕を引っ張られながら美夢の部屋に入る。部屋に入ると柑橘系のいい匂いがした。


「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」


するとベッドの上に腰掛け右手でポンポンと布団を叩く、ここに座れの合図だろうと思い隣に座る。

隣同士近い距離でなおさら緊張感が2人を押し寄せる、美夢が俺の方を向いて口を開く。


「昔なにがあったの?」


俺は胸がざわついた、そして鎖で縛られているようになかなか口が開けない。


「ねぇ、なにがあったの?ちゃんと教えてほしいな、じゃないと…」


美夢は俺の顔を両手で抑えて顔を近づける。


「またキスしちゃうよ?」


目は本気だった、これは本当の事言わないと本当に口づけされる事になると思い美夢の手を両手でゆっくり払い…


「わーったよ、話すから落ち着け」


顔が熱くなりながらも俺は平静を装い口を開く。


「お前恥ずかしいなら最初からすんなよ」

「だ、だってこうでもしなきゃ話してくれないと思って」

「泣くな泣くな、なんか俺が泣かせてるみたいだろ」

「実際泣かせてるじゃん、最低」


おい、なんか納得いかねー。目の前の拗ねている美少女は俺の腕から離れてくれそうにない。ドアの隙間から4つの目がこちらを見ているとも知らずに。










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