25話:新たな眷属【土蛇の魔獣ヨルム】

拠点の洞窟の奥のスペースに帰ってきた俺達は一匹の【魔獣】に声を掛ける。


「戻ったぞ。いい子に作業してたかヨルム」

『ただいま~ヨルム~』

『ただいま戻りましたヨルム殿』

『…シュル、ル(お、お帰りなさいませ)』


どこかまだ慣れないのかビクビクとした挨拶をするヨルム。

ヨルム。俺が名を付けた土蛇の魔物。分類はファン達と同じ【魔獣】だ。

魔物としての種族名は【ヨルムンガルド】らしい。

その姿は茶色の最長2メートル以上ある長い胴体で、くるとした瞳。口には牙の類は見られない。噛むと言うより飲む口をしている。長い胴体には宝石のような鉱石が埋まっている。


まあ生きて拠点にいることから分かる通り、コイツ(ヨルム)は俺の第3の眷属だ。

と言うか俺が望んで得たある意味初めての眷属契約した魔物だ。


俺達がコイツに出会ったのは、数日前に飲み水の泉に侵入者が現れたとキキから知らされ急ぎ向かった。そして駆けつけたらコイツが水を飲もうとしていたのだ。

見つけた時は即飲み水の泉を汚す存在として駆逐するつもりだった。

しかし駆逐する前に〝観察眼”で相手を覗いたら能力的に役に立ちそうな魔獣だと分かった。

だから眷属候補に駆逐から捕獲に変更した。

ちなみに俺の”観察眼”は【魔獣】であればその力量や能力の一端を知ることが出来る様になった。

これは有用性のある能力だ。相手(魔獣限定)の能力を把握することが容易になったからだ。

行動の前にはまず情報が大切だ。

情報有る無しでは大きく変わる。


俺達は、呑気に俺達に気付かず飲み水を飲む蛇の様なドジョウの様な魔物に近付く。

気付かないのは”人化”したキキの”静寂”の魔法の効果が効いているからだ。


「…オイッ」


ドスの効いた低い声で声を掛けた。

すると水を飲んでいたコイツはビクッと大きく震え、ばっと頭を挙げた。


『シ、シュルル…』


どうやら驚いているようだ。

まあいきなり周囲に気配とかが無かったから呑気に警戒心無しで飲み水を飲んでいたのだ。そこで急に人間の声がしたら驚くだろうな。


しかし――。


その体は2mの長さがあり俺達の誰よりでかい印象を持つのだが、なんでかコイツからは小さいなぁと雰囲気が感じ取れた。

その理由は弱気で脅えているからだろう。

とりあえず脅えているのなら話は早いと俺達は逃げられない様に3方向から囲みギロッと威嚇する。

俺は目で殺すかの如く睨みながら”風爪”を。キキは武器のハルバートを手に。ファンは魔獣形態でその牙と爪を見せる。

俺は遠慮なく。キキはどこか申し訳なさそうに。ファンは『早く仲間になろう~』と言うかのように目が笑みになっている。


効果はあり魔物はその丸い目がウルウルとし涙目になった。

全く戦意がなかった。

印象は弱虫な魔物だな、だった。


脅しておいて今更とか言われそうだが威嚇を解いて話をした。

俺に付いて来るならこの場で始末はしない。

俺は【魔獣】を眷属に出来る力があること。

だから付いて来い。断れば『死』が待っていると。

最後に、ボソッ『蛇って焼くと美味いよな。あと薬もなるよな…』と言ったらヨルムはビクビクしながら涙目のまま何度も頭を縦に振っていた。


こうして即契約し俺の3体目の魔獣眷属が誕生したわけだ。これで眷属契約数が3つになり今後は契約を解除しない限り新たには契約はできない状態となった。

まあファンもキキを手放すことはしない。それにコイツの能力も便利そうだから手元に置いておきたい。

そういえばと拠点に戻りつつ土蛇魔物に名を聞いた。


「まず聞くけど、お前に固有名称はあるか?」

『シュ、シュ…(な、ないです)』

「ふむ。なら俺が銘いうつか。まあ安直だがヨルムンガルドって種族名だし【ヨルム】にしよう。異論はあるか?」


いえ、ないです!と言うかの如く勢いでヨルムが頭を振る。

そこまで怖がらなくてもいいのにと思わなくもないのだが、キキに脅しすぎたのでは?と言われた。

けどいくら何でもビクビクしすぎだと思う。

俺の予想だとコイツは普段からこんな感じだと思う。

よく今まで殺されなかったな、とか思ったがコイツの能力が関係しているのだろうなとも思った。


確認して知り得たヨルムの能力は大地干渉能力だ。まあ土蛇だから驚く程じゃないとは思うが。

だが大地干渉能力は便利で優良物件の能力だ。

特に洞窟生活を送っている今の現状では。


俺はヨルムと出会い一つの考えが浮かんでいた。

大地干渉能力を持つヨルムと結界魔法が得意なキキが居ればただの洞窟が迷宮の如く要塞化させる事も出来るのでは、と。

実際キキの能力によって洞窟内はもちろん周辺に感知結界が敷かれているので、何かあっても直ぐに知り得て行動に移せる。

だがいくら結界があっても洞窟内に俺達が不在時に侵入されたら荒らされる可能性も否定できない。

だからこそヨルムの能力を加えれば洞窟を拡張させる事も出来るし、通路を改造し迷路に変化させいつの間にか入り口に戻させたりも出来そうだ。キキの能力を加える事で中にいる不届きなる侵入者を外に放り出したりも出来そうだ。


なんだか楽しみになってきた。

そしてさっそくとヨルムに拠点改造の指示を出した。

あとは留守番だな。

俺達が外で訓練や活動中の間のだ。

臆病で弱虫なヨルムだが、能力は正直高い。

戦えば大地を利用した魔法で相手に岩のミサイルをぶつけたり、大地の中を移動できるので奇襲も容易い。

大地を移動できる能力で今まで出会った相手から逃げていたのだろうな。

俺達の時は、俺達が姿を隠し消していたから能力を使うのが遅れたのだろう。

あとで『どうしてか動けなかった。動いちゃダメだって、怖くて震えてたんだけど』と言っていた。

何かしら感じ取ったのかな。


それからヨルムにはまだ”人化”のSkillは使っていない。

理由?

それは何が悲しくて男?を人化さないといけないんだ。

ん?どうして疑問形なのか?


理由は眷属にした際に詳しくStatus確認したのだが、ヨルムの性別欄が【中性体】となっていた。

【中性体】ってなんだ?て疑問に思った。

言葉通りなら男にも女にもなっていない状態なのではと。

雰囲気が若干男ぽいかなと感じたので一応男として見ている。本人もよく分からないらしい。


ちょっと気になるけどなんだか実行するのに憚れる。

ヨルムからは俺が”人化”Skillを有していることを知り、目の前でファンとキキの二人にSkillを掛け”人化”させたら驚いた。そしてヨルムはファンやキキの様に自分にもSkillを使ってと内心思っているようだが、弱気な性格だから言い出せないでいるようだ。

ただ愛嬌のあるヨルムの丸い目からは期待感が籠っているのは気付いている。


だから一つ”課題”を出した。

それをクリアしたら”人化”させると約束した。

それからは俺達が外に出て不在の時にヨルムは”課題”に取り組んだ。

やる気が桁違いに変わったように感じた。


そんなに魔物って言うか俺と契約した魔獣は”人化”に憧れでも持つのだろうか?と思った。


そして今日帰って来たらどうやら俺が課した課題をクリアしたようだった。


俺が課した課題。

それは拠点の洞窟改造拡張だ。

まず洞窟内の広さを広げる。(ヨルムの大きさでも通路部分は狭いから)

洞窟の入り口兼出口を開閉可能にする。(敵の侵入を防ぐ為)

奥のスペースを拡張しいくつかの部屋を作る事。


一先ずはこれらを課題にした。

そしてヨルムはこの課題をクリアした。

僅か2日で終えた。


まず洞窟の入り口兼出口の開閉機能。これに関してはキキも協力している。

拠点から出ると穴のあった部分が塞がる様に岩で閉まる。

そして入る時には岩の部分が瞬間移動したかのように消える。

これにはキキが籠めた魔力が、登録されている魔力パターンにのみ反応し開閉する機能となっている。だから一度閉められた岩の扉には反応する指定された魔力パターン以外の者は入ることは出来なくなっている。

そしてこの岩の扉は洞窟の周囲に覆うように展開されるので、最初の頃の様にアリモドキの魔物が地面から入ってきたことがあったがそれも防ぐ事が出来る。

現在入ることが出来るのは俺、ファン、キキ、ヨルムのみだ。

他はシャットアウトだ。


次に通路。

以前は魔獣形態のファンが一人通れるくらいの広さだったけど、今日帰還した際には少なくとも俺、魔獣形態のファン、”人化”状態のキキの3人が横に並んでも余裕に通れる幅になっている。それに通路の天井部には明かりとなる鉱石があり、以前は暗かったが問題なくなった。


そして最後の奥のスペースの拡張。

今までは円状の空間のみだったが、左右に入り口と同じ原理の岩の扉(色が赤と青)がある。

左が赤の扉。右が青の扉。

まずは左の赤の扉に手を触れる。すると俺の魔力パターンを感じ取り扉が消える。

そして中に入るとそこには四方形の空間があり、その空間には今まで得た物品や保存用食料が分けて置かれている。

俺は赤の扉は保管庫、もしくは宝物庫と決めた。

そして赤の部屋を出ると逆の青の扉に触れ同じように入る。


そこには先の空間と同じくらいの広さの空間があるだけだった。

何もない空間。

予定はここをプライベートルームにしようと考えている。

例えば着替えをしたりするためだ。俺や”人化”したファンは気にしないのだが、恥かしがり屋なキキには必要だろう。あとはトイレ機能だな。これは重要。いくら俺でも他人の前での排泄行為は流石に気になる。


確認して文句の付け様がない良い仕事をしてくれた。

今後は更に改造していくが一先ずは良い仕事をしてくれたヨルムに褒美を送ろうと思う。

そう伝えたら丸い目を輝かせるヨルム。

どれだけ期待し嬉しいんだと思ったが気にしないようにヨルムをまだ何もない空間である青の空間に入るように促した。

ちなみにファンとキキは入れない。

中性体の体がどんなものか不明だが俺以外の男の体を見せたくないという独占欲が沸いたので入れない。

キキは理解しているようだが、ファンは物凄く不満そうだった。


まったく。

さて……それじゃは試してみよう。

どんな姿になるのか、な。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る