26話:ヨルムの”人化”【中性体】

【―”擬人化”―】。


俺の持つ特別なSkillの一つだ。

その能力は、俺が契約した【魔獣】眷属を人の姿に変化させることができるのだ。

その効能は”人化”した魔獣眷属は高い思考能力を会得でき、主である俺との間で思考内で会話を、いわゆる念話を行うことができる。これは眷属間でも可能である。

また”人化”することで、基本StatusやSkillも高くなる。


”人化”した魔獣の姿は俺の意思による姿をしていない。

だからどんな姿に変化するのかは俺にもわからない。変化して初めて知ると言うことだ。

また最初に”人化”する魔獣は何も着ていない、つまり全裸状態だ。

魔獣が服なんて着ていないのだから当然だ。

まあ一度”人化”して、その”人化”状態で衣服を身につければ、次に魔獣形態から人の姿に変化する時はその衣服を身に着けた状態でいることができるのだ。


そして、いま俺の目の前には、”人化”のSkillによって、土蛇魔獣であるヨルム(俺が契約した第3の契約魔獣だ。)が、ファンやキキの様に”人”の姿に変化している。

当然初めてSkillを掛けたので目の前のヨルムは衣服の無い全裸状態だ。

ギュッと目を閉じているヨルム。

緊張している様子がよくわかる。


しかし……。

俺は一度ヨルムの全身を頭から下げて行き足まで視覚する。

そして逆を辿りヨルムの顔を見つめる。

俺の目には(ありえないだろう!?)と言う困惑の気持ちでいっぱいだった。

それと同じく(これが中性体と言うものなのか…)とも思えていた。


ヨルムの姿だが、まず身長は小柄だ。

ざっと計って143~146cmくらいだろう。少なくても150㎝ほどのファンより低いだろう。

髪は薄めの茶色で首下くらいの少し長めのショートヘヤーだ。同じショートのキキに比べればヨルムの方がふんわりとした感じだ。

瞳はいまだギュッと閉じているけど睫毛は長めで整っている印象だ。

顔つき、鼻や緊張から少し震えているであろう口も、少年とも少女とでもとれるだろうか。


まあ顔は問題はない。困惑するものでもない。

そう俺は困惑している。

それは顔から下のヨルムの姿に違和感を感じて仕方ないからだ。


それは――ヨルムの上半身は男性の骨格の特徴をしていて、下半身が女性的な骨格をしていたからだ。

男性と女性では体つきは勿論骨格や筋肉の付き方が違う。

ヨルムの肩や胸は少年のとしか見えない。

腕は筋肉質ではないな。

胸もない。

女性でも小さく殆ど無い人もいる場合もあるが、それでも女性らしさのある丸みがある。しかしヨルムにはない。

どう見ても男である。

しかし、腹部、臍の周りからはまったく男とは見えない。


全体的にヨルムは無駄な肉はなく、腰は細く少しくびれもあるように見える。

女は子供作る上で体の構造も異なる。

股関節や骨盤もあきらかに女のものだ。

そして股間には男の象徴はない。

そこはファンやキキと同じだった。

二人と大人な関係に至っており何度か直に見たこともあるからわかる。

両脚はスラッとしており、少し内側に向いている。


なんとも内気な男にも女にも服を着れば見える。

とりあえずそう思った。

そして【中性体】とはその言葉通りなのかも、と思え、嫌な想像もしてしまった。


(…体の構造が半分ずつ男性因子と女性因子の特徴を持っている、って感じなのかもな…。てことは…)


上が女性で下が男性や、体の左右で半分が男性で女性の見た目をしている場合も在るって事て想像し、あまり想像したくないな…、ヨルムの状態が今ので良かったかも、と思った。



俺はいまだにギュッと目を閉じて立っているヨルムに声をかける。


「おい、ヨルム。いつまで目を閉じてんだ?とっくにSkillの効果で”人”になってるぞ!」

「ッ!?」


声を掛けるとヨルムはビクッと驚く。

土蛇魔獣形態の時から臆病な性格だったがそこは変わらないようだ。

そしておっかなおっかなと少しずつその目を開けていく。


そしてヨルムの瞳が俺を映す。そして俺もヨルムの彩玉の宝石の様な綺麗な瞳に思わず声が出なかった。


「…あ…あの…」


ヨルムの声が俺に届く。

女性の様で声変わりする前の男の様な中性的な声。特に不快には感じない。


「ん…、ああ、悪い。なんだお前の目がキラキラとした綺麗なもんだったから思わず言葉が出なかったわ」

「へ?…えっ!?」


思った事をそのまま返していたな。

そして俺に綺麗と言われなんだか顔を赤くするヨルム。

瞳を褒められ恥ずかしかったらしい。

するとヨルムの足元に魔法陣が形成される。

いきなりのヨルムの行動に「何を!?」と困惑する。

そして地面が盛り上がり、逆にヨルムの体、足元から地面に沈む様に消えようとしていた。


おそらく恥ずかしい気持ちから逃げるために大地に干渉する能力を使い隠れようとしているのだと推察。

しかしそれを許さない。


「”主の命により眷属に支配権を行使する”」


俺は眷属に対しての命令権を行使した。

すると地面に沈み隠れようとしたヨルムの体が硬直するように止まる。

何が起きたのか解らないと言う風のヨルム。さらに困惑させられる。

能力が解除され地面の状態が元の状態に、能力を発動する前の元の状態に戻る。


「はぁ…。まったく手間を取らせんなよ。たかが褒められただけで恥ずかしがって能力まで使って逃げようとしてんなよな」

「…す、すみ、ません」


呆れつつそう言うとヨルムは涙目で謝る。

嫌なんで泣くよ。まるで俺が苛めてるみたいじゃないか?


「それに褒められただけで恥ずかしいって事はよ、今のお前の状況を理解したらどうなるんだ?」

「へ?今のボクの状況?…」


とりあえず今の”人化”した自分の体を意識を向けさせた。

ファンは羞恥無くそれどころか俺を性的に襲ってきたな。キキは逆に羞恥から恥ずかしがって真っ赤だったな。

褒められただけで逃げようとしたヨルムだからキキみたいな反応をしてまた逃げようとするかな、とか思い”支配権”の行使の準備をしておく。

あとヨルムの一人称は『ボク』なんだな。


しかし、次のヨルムの反応は俺の想像とは違った。


「ほわぁ…これがボク、ですか…。なんだか不思議です」


全裸の状況だが、ヨルムは羞恥よりも好奇心の方が強いようだった。涙目だったのがキラキラと光っているように見える。

頬を薄く染め表情も微笑みを浮かべている。


「あぁ、お前は恥ずかしくないのか?今のお前全裸だぞ?」


一応の確認をする。


「い、いえ。恥ずかしいと言う気持ちは、その…ありますけど、それよりも、これがボクの姿なんだなぁという気持ちが強いみたいです」

「そうか…。まあいいか。とりあえずだがこれを着ろ。流石に裸のままで話は変だしな」


そう言いつつ用意していた俺の大き目の長袖の白のシャツと借り物でファンの下着を渡す。

「わわっ!」と受け取ろうとヨルムは受け取ったシャツと下着を身に着ける。


着替えたヨルム。

俺用なのでダボダボだ。袖も何度か折らないと手が見えない。大きいので膝の上くらいまでシャツで隠れている。

まあ小柄だからなヨルムは。

当然だがヨルム用の服は手に入れていないので、とりあえずの処置として渡したものだ。

また商人の親子からでも手に入れるかな。


「ご、御主人様?…」

「ん?…御主人様って俺のことか?」

「えっと、はい、そうです。その、ボクの御主人ですからそう呼んだのですけど、その…ダメでしたか?」

「いや。構わねえよ。呼び方はお前達の好きにしたらいい。呼び方にケチは基本付けないから」


そう答えたけど、何も知らないような関係の馬鹿に『ケモノ』と名前を気軽に読んだら即殺すけどと内心付け加える。

とりあえずヨルムからは『御主人様』と呼ばれるようになった。

ファンからは『マスター』。キキからは『主』もしくは『主殿』。

まあ眷属だしそう呼ばれるのは不思議じゃないけど、偶には名前で呼ばれたいなぁと思った。なので試しに「名前で、『ケモノ』と呼んでいいぞ?」と言ったのだが、「そ、そんなぁ!恐れ多いです!?」と顔を赤くし地面に逃げようとした。用意していた”支配権”で止める。

裸は羞恥にあまり入らないけど褒められたりした際などには恥ずかしく逃げようとする。


(よくわからん変なやつだな…)


とヨルムに対して思った。

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