21話:命を捨てる者は死んでもらおう

「てめえはグラフマイーサの王が最近呼んだって言う異世界からの召喚者の一人か?」

「……」


無言。

なんでこんな盗賊なんて身に落ちてるやつがそんなことを知ってるんだ?

意外と世間では有名どころなのか?

まあ今の俺にとってはそんなことはどうでもいい。

今はそう――どうでもいいことだ。

正直あの屑王国の名を聞くのは腹立たしい気分が僅かばかり存在する。



「どうやらそうらしいな。だがそんな存在のお前一人こんな所にいるのか知らないが」


俺の無言をどうやら肯定と受け取ったようだ。


「王国連中は盛大に触れまわっていたからな。『我々は異なる世界から強力な力を持つ者達を呼びよせた』ってよ」


お喋りなやつだ。

べらべら聞いてもないことを喋ってくれる。


「…何のことか知らないが、俺はお前言う『強力な力を持つ者達』ってのとは違うな」


連中からしたら俺は『無能者』だからな。

と言うかアイツラと同じとか何だかムカついてくるしな。意外とどうでも良いと思っていたんだが、心の奥底では俺を見捨てた連中に対して思うところがあったようだ。


「どうでもいい問答は終わりでいいだろ?さあ存分に殺し合いをしようじゃないか」

「……それもそうだな。お前が召喚者かどうかなんて確かにどうでもいいことだな。お前はここで死ぬんだからなっ!」


そう告げた瞬間リーダーの男が仕掛けてきた。

その動きに囲んだ盗賊A、B、C……分かりにくいか。

A=雑魚。

B=ハルバート使い

C=鉢巻ナイフ

にしよう。


3人も合わせる様に仕掛けてきた。


「せいやぁ!」


正面のリーダーが横薙ぎの剣尖を繰り出す。

早いが見切れる。俺は体を逸らして剣の範囲から躱す。そのタイミングでハルバート使いが突き入れてきた。


「おらあぁ!」

「なんとっ!」


俺はその場を片足に力を入れその場を跳び相手のハルバートの刃の付いていない部分を手に掴み躱す。逆さの状態になった。そんな俺に鉢巻ナイフが両手に握っていたうちの一振りのナイフを投げてきた。

片手が塞がり逆さの状態。無茶な態勢と言えるから躱せない、と思われたようだが、俺は投擲してきたナイフを”風”を纏わせた右足で蹴り飛ばして躱す。

さらに相手のハルバートを手にしていた手に力を籠め、”風”の力を利用しつつ飛び少し離れた地面に着地。


「てやぁああ!」


そのタイミングで雑魚が背後から仕掛けてきた。意外性を狙ったのか雑魚をフィニッシャーにしてきた。


「だから…。殺気が見え見えなんだよ!」


リーダーの男が目で巧妙に指示を飛ばしていたのにも気づいていた。

格下である雑魚をまさか最後の一撃に入れるとは思っていないと考えていたんだろうが。

ただ配役と言うか雑魚の男を最後にせず、鉢巻男にしておけばまだ可能性はあった気がする。

鉢巻男の投擲ナイフには極僅かな殺気しか感じなかった。

けど背後を取るのも殺気が強すぎてビンビンと感じ取れていた。

まあわざと背後を取れるであろう位置に着地したのもある。


俺の背にナイフを腕を上げながら突き立てようとする雑魚男の腹目掛けて肘を入れてやる。

腹に一撃入れられ弛んだ雑魚男に俺は冷酷な一撃を繰り出した。


首刎ね一本。

ナイフに”風爪”を付加させ殺傷力を増幅した一撃だ。

こうスパっ!

と奴の首が飛んだ。

斬られた首元から血飛沫が飛ぶ。

そして地面にコロコロと転がる首。

その表情は「えっ?」と言う何が起きたのかわからないという間抜け顔だった。

まあ自分が死んだことも解らないうちに死ねてよかったんじゃないかな?


「おっと…服が汚れるな」


奴の血飛沫で飛ぶ血が付くとこだった。

せっかく新調した衣装が汚れるところだった。

やはり武器を使うならもっとリーチのある武器がいい。

そう意味ではリーダーの奴が持ってる片刃の剣や、柄の長いハルバートなんかは良さそうだなと思った。


勿論だけど、相手の首チョンパに対して特に感慨はない。

気持ちが揺れることもない。


「おいおい、あのガキ、迷うこともなく躊躇いなしか?」

「え、ええ…アイツ、一分も揺らぐことなく殺しやがった」

「それに、今の動き、最後はともかく、我々の連携攻撃を軽業師のように躱してました」

「ああ。身軽すぎだろ。あんな動きそうそう出来ねえぜ。たくっ、見た目はひょろいただのガキぽいのにな」


うん。残り3人から動揺が伝わってくるな。

と言うか相手を殺すのに躊躇うわけないだろ?

お前達だって相手を襲えば遠慮せず奪い殺し犯していくんだろ?

なら俺にできないはずはない。

殺さなきゃ殺される。

奪われる前に奪い尽くす。


あの時――この世界での理不尽目にあってマジでの死を感じ、その死を乗り越えるために己と言う人格すら殺し変わった俺だ。

今更迷いなんて持ち合わせてない。


「さて…」


一歩足を進める。

俺が一歩進むと奴らは引き攣った表情を浮かべ一歩下がっていた。

連中は俺に恐れている。引き下がる行為は恐れを持っている証だ。

罠を仕掛けていてその場に誘導する目的での後退はあるかもしれないが、この辺周辺に罠の類はない。

それは此処を狩場にした時点で確認済みだ。


「どうした?なぜ下がるんだ?もっと攻めて来いよ。俺を殺したいんだろ?だったらもっと攻めて攻めて俺を殺してみろよ。他人を平気で手を出せるようなお前らだ。簡単だろ」


俺は笑みを浮かべていた。

楽しい気持ちが溢れてくる。

もちろん殺すのが楽しいのではない。

俺が楽しいと感じている理由。

それは、生きている事を実感できるからだ。

命の奪い合い。

その過程は生きるためだ。

生きていることを只々実感出来ている。

命を削り奪い合うその果てに生き残ることが出来る。

生き残れば次がある。

次があればまた明日に繋がる。

それが嬉しい。

死にたくないと強く願い、相手を殺してでも初めて生き残ったあの時。

生き残ったことに高揚感があった。


俺はそこに楽しみを感じ得ていた。


さらに一歩進める。

相手の距離を詰める。


「クッ…」

「ど、どうしやすか、リーダー」

「はっきり言って我らではこの小僧にはかなわないでしょう」

「そうだな。腹立たしいが俺らには分が悪過ぎてやがる。くそっ!」


悪態をつくリーダーの男。

俺に勝てない。

たとえ数の理があっても勝てないと諦めている。


そんな奴らに(情けない奴ら)と情けないさでいっぱいだ。

俺があいつらの立場なら、たとえ数が相手の方が多くいても。

たとえ実力が相手の方が上だと分かっても。

俺なら――生きている限り理不尽に立ち向かうだろう。

たとえ99%の可能性でも、僅か1%の可能性が残っている限り抗うだろうな。

諦めた奴に僅か1%の可能性を引き寄せるなんて以ての外だ。

まあ俺はその1%の可能性を持引き寄せることが出来ているんだけどもな。


そんな風に相手の情けなさに呆れていたら、ハルバートの武器を持った堅のいい男がリーダーの男に小さく声をかけているのに気づく。


「(リーダー、此処は俺がアイツの目を引き付けますぜ。その隙に逃げてくだせい)」


小声でも今の俺にはなんて言ってるのかわかるんだよな。

俺の”観察眼”をもってすれば相手の口の動きでも読み取り理解できる。

しかし、どうやらあの槍男は自分が囮になり他の二人を逃がす算段をしているらしい。

中々仲間思いだな、意外だな。外道の盗賊にしては。

けど、


「逃げの一手が俺に通じるわけないぞ。まず言っておくが、お前らは俺達を追ってここに来たわけだが、それは間違いなんだよ。俺らはお前等が此処に来るのを分かっていて待ち構えてたんだよ。だからちゃんと準備もしてあるんだよ」


そう言うとキキの名を呼ぶ。


「キキ!結界の維持はちゃんと出来てるか?」

「はい。問題なく既に結界を張り巡らせています。結界を壊すでもない限りこの周辺から出ることはできないでしょう」


此処を狩場にした時点で相手を逃がさない準備はできている。

既にキキが不可視の壁の結界を張っていたのだ。


「くそっ、何だよそのインチキは!逃げらんないとか卑怯だろうが!」


リーダーが此方を睨みつつ叫ぶ。

何を言ってるんだ?

お前等だって俺たちを仕留めに来たくせに。自分達が不利になれば卑怯と罵るとか。

本当に情けない。

もうコイツらの情けない姿を見ているのがなんでか我慢ならなくなった。

瞬殺しよう。

そう決めた。

俺は右手の短剣ナイフに”風爪”を纏わせる。

ナイフの刀身が緑の魔力で覆われる。

これ以上あの情けない連中に言葉をかける意味もない。

俺は瞬時にその場を駆ける。もちろん先程までと違い殺意を持っての動きだ。

無論俊足の動作速さは桁が違う。


まず一気にナイフを持った鉢巻男に接近すると駆けた勢いのまま”風爪”のナイフを心臓目掛けて突き立てた。


「グハッ!!?」

「--っ!?」


ナイフの男は血を吐きながら俺の突撃の勢いのまま後ろに倒れる。リーダー男はそいつの名を叫んだようだが、そんな無駄な時間があるのか?

倒れる男からナイフを引き抜いていた俺は”風爪”のナイフをハルバートの男に向けて投擲した。

標的は相手の額。つまり頭だ。


「そんなもんでっ!」

「……」


男はハルバートの戦斧で自分の顔目掛けて迫る”風爪”のナイフを叩き落した。その瞬間男は安堵の表情を浮かべていた。

だが次の瞬間には驚きの表情に変わる。そのときにはもう俺がそいつの懐に侵入していた。そして俺の手には先程始末した鉢巻男が持っていたナイフを手にしている。

始末と同時に拾っていた。


「死ね…」


手にしたナイフを突き出す。狙いはやはり命の源である心臓部。

相手を殺すのに派手な攻撃はいらない。

確実な死。

相手の命を瞬時に刈り取る一撃こそが大事なのだ。

そして”風爪”の魔力で覆われた刃が男の心臓を貫いた。


目の前の男も心の蔵を貫かれ血を口の端から流す。そして体が震え始めた。

先程男は一撃で息の根を止められたが、この男は別だったようだ。

即死ではなかった。

体の堅の良さの差かなと思った。


俺はまだ意識のある男に声をかける。


「お前は逃げを選択した。その選択は間違いではない。俺も同様ならするしな」

「ガッ!!?…」

「だがお前は間違えてた。逃げることはいいが、自分が囮として命を捨てる選択をした。自らの命を放棄する愚かさが俺は気に入らん。…もう聞こえてないか」


目に力がなかった。

既に息絶えていたようだ。


さてあと一人。

と、


「死ねえええぇえぇ!!!」


振り返ると怒りで鬼気迫る表情のリーダー男が上段から俺に斬りかかってきた。

ハルバートの男の心臓に突き立てていたナイフを瞬時に抜いて迎撃しようとしたが、ナイフが相手から抜けない。筋肉が抜くのを邪魔しているようだ。これがコイツの最後の抵抗だとするなら大した奴だと認識を変えてやる必要がありそうだ。


「獲ったぞぉ!クソガキがぁ!」

「煩いな。奇襲するなら静かに、だぜっ!」


振り下ろされる刃を俺は左手に”風爪”を纏わせ、振り下された刃を受け止めた。

目の前の男は「なにィ!?」と受け止められたのに驚きの声を漏らす。

男は体重を掛けさらに剣に力を込めてくる。


(どうしようか…)


左の”風爪”で少しでも力を籠めれば正直相手の剣を砕く事はできる。実際ほんのちょっと、指先一つ分圧を加えるだけでピシピシと軋みを発してるし。

でもできればこの剣は無傷でほしいと思っている。

長物の得物はあって困りそうにない。

肉の解体に使えそう、とか思ってはない。

―――すこしだけ。


どうするか、と5秒間考えて、右手を離せば空くじゃないかと。

何で今だにナイフを握ってんだ俺?と。

ナイフから右手を離し突きの態勢を取る。

今までは”風爪”は片手にしか纏えていなかった。

で、試してみた。

少し形が崩れてはいるが出来た。たぶん爪の形にはなってないな。

でもそれで十分だ。


俺は突きを繰り出す前に男に目を向ける。


「なっ!?ま、待て!?待て!!そうだ、取引をしようじゃないか!俺を見逃してくれたら、俺の知ってる情報を、召喚者とか王国とかを教えてやる!なっ、お前も本当は知りたいんだろ?」


命乞いをしてきた。

ほんと呆れて言葉も出ないわ。

はっきり言ってクラスの連中のことなんて知りたくもないし、王国なんて今はどうでも良い。

それに知らされる情報が真実なのか判断もできないしな。

情報は自分自身で得るに限る。


なので命乞いイコール死ね。

と言う事で決行、開始。

右の”風爪”に殺気を籠める。

あと逃げられないように剣を受けていた左の”風爪”をしっかり壊さないように調整しつつ握り逃さない。


「ま、まてーーッ…ぎやあああぁ!!?」


下品な叫び声を上げる男を串刺しにして仕留めた。


こうして盗賊連中殲滅戦を完封の形で終えた。


=====


【データ】

①盗賊のリーダー

性別:男

年齢:30代前半

武器:刀剣

実力:一般の戦士より若干上の実力。魔法適正はなく刀剣による鋭い斬撃を繰り出す。

●商人親子の襲撃を邪魔したケモノ達に報復しに来たが逆に圧倒され心臓を”風爪”を纏った手刀によって貫かれ死亡。召喚者について知っていたようだ。


②盗賊の男A

性別:男

年齢:30代

武器:槍斧ハルバート

実力:一般よりは上(リーダーより一段下)。堅が良く打たれ強い。

●ケモノにリーダー達と一緒に挑むも圧倒される。リーダー達を自分の命と引き換えに逃がそうとするも結界で出来ずケモノに盗賊Bを殺した際に奪っていた”風爪”を纏ったナイフを心臓に突き立てられ死亡。己が命を引き換えにする行為をケモノにとっては不愉快であった。


③盗賊の男B

性別:男

年齢:20代

武器:ナイフ

実力:一般的な実力。鉢巻をしている男。盗賊Cと同じナイフ使いだが力量は数段上。

●ケモノにリーダー達と一緒に挑むも圧倒される。駿足の速さで懐に入り込まれ”風爪”を纏ったナイフを心臓に突き立てられ死亡。


④盗賊の男C

性別:10代後半

武器:ナイフ

実力:雑魚の一言。只のチンピラの様な小物。

●ケモノにリーダー達と一緒に挑むも”風爪”を纏ったナイフで奇襲失敗狭間に首を刎ねられ死亡。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る