16話:次の目的は…

物色を終えた後、俺がまず最初に荷台から出る。

そして俺の後にファン、そしてキキが出てくる。

すると何やら商人の親子は驚いた表情を浮かべていた。

いや驚きと言うより困惑感か。


商人の親子は慌てた様子で荷台の中を覗き込む。

そして中を見ては、ファンとキキの2人に視線を動かす。


まあそうだろうな。

なんせ入ったはずの魔物2体が消えて、こうして先程まで見た事もない人間の女の子がいるのだ。

困惑しない方が可笑しいか。


とりあえずこいつら二人はさっきの魔獣と同一の存在であると説明した。

当然だが、広言しないように脅しつけてである。

この二人から聞いた話では魔獣と言うより、魔物が人間に変化する話は今まで聞いた事もないそうだ。

なので尚更強く言い含めた。



そのあと、頂いて行く物を商人の男に見せる。

今着ている自分達の服と荷物の類。

当然だがこれはただ見せて確認をさせているだけだ。

もしこいつが渋る態度を見せたとしても当然貰っていく。


「……わぁ」


ふと商人の娘に目が良く。そわそわと落ち着きがないように見えた。

そして商人の娘はどうやら魔獣から人の姿に変化したファンとキキが気になっているようだ。

その視線に気付いているファンが「やっほー」と満面の笑みを浮かべる。


「…///」


なんだか頬を染める娘。

……この娘、同性好きのユリ方面のか?


そんな風に思ったが、どうやら違うらしい。

父親によれば娘は可愛いもの好きらしい。

まあ確かにファンは可愛らしいから分からないでもない。

キキは愛らしいよりはカッコいいに分類されると思う。



さて。

確認を終えた後、商人の親子と別れた。

俺達は拠点である洞窟地に戻る。けども、その前に二つやることがあった。

それは、まず水の確保だ。

頂いた物に水を入れる物が手に入ったので普段から手元におけるようにと考えたのだ。

当然向かうは以前見つけた水源だ。

あそこの水は呑むのに最適であるのと同時に、回復効果の効能も多少は含まれているようなので確保しておきたいのだ。


あと、それとは別に、別の水源も見つけておきたい。

そちらの目的は体を清めるためにである。

この世界に連れて来られてからと言うもの、王国から追放され行く当てもなく走り汗をかいたり、今の拠点の洞窟で魔獣に襲われ死闘を演じその時に地面を転がるように躱したりもしたので砂塗れていたりする。あと殺した魔獣や先の盗賊を殲滅した際の返り血や匂いが多少なりと染みついている。

折角手に入れた新しい服だ。イキナリ汚れきっては遺憾ともし難い気がした。

なので水、出来れば温泉のような温かい水を求める。

身体を清め、服の洗いもしたいからな。


そしてやることの第二。


「ねぇマスター!人間の集団の匂いが近付いてくるよ!」

「その様ですね。こちらで確認している者達で間違いないでしょう主」

「ああ。網に掛かってくれたってわけだ」


ドサドサと複数の足音が耳に入った。

狙い通りだ。

そしてそいつらは颯爽に俺達の前に現れてくれた。


「オウオウ!手前らかぁ!俺の仲間を潰しやがったクソ野郎は!」


現れたのは先程潰した盗賊の御仲間のようだ。

20人はいるだろうか。全員の表情は怒りに歪んでおり殺気立っている。


連中は仲間の予定の帰りが遅いから襲撃地点にまずやって来たらしい。

そして仲間が全員やられ、そして現場であの商人の親子が呼んだ騎士がいるのを見たのだろう。

そしてその時に連中は会話も耳にしたのだろう。

自分達の仲間を倒したのはその場にいる騎士達ではなく別の見ず知らず3人組であると。

連中も流石に騎士達がいる中襲うわけにもいかず、しかし仲間を殺された鬱憤が溜まっていた連中は、その会話に出てきた仲間を潰した見ず知らずの者達、つまりは俺達を標的にしようと考えたのだろう。


まあ俺達は連中の様子も既に知っていたのでこうして構えていたりする。

キキがその手に、魔獣形態の時に口に作っていた魔法と同じ円状の魔境を作っており、その鏡には今の俺達の状況が映っている。

正確には盗賊の連中。そして先程の商人達の様子である。


俺はこうなるだろうと見こして商人の親子に告げておいたのだ。

俺達が去った後に近くの街の騎士に連絡をして、自分達が野盗に襲われた状況と倒した賊の身柄の確保をして貰うように。

商人に聞いた所、この手の盗賊には賞金が掛かるらしい。

なので連中を確保してもらった際に出る賞金を、俺達が貰った物品の金代わりにするように告げていたのだ。

そして当然だが、俺達の存在は触れていいが、特徴などは告げないように言い含めている。


親子は俺達の特徴を言わなかったが、3人組の男一人と女二人であると聞き耳を立てた。そして連中が周囲を探り、俺達に白羽の矢を立てのだ。

見事に俺達の狙い通りに事が進んでいる。

俺達がこうして発見されるようにと近くにのんびり歩いているのもその一つだ。勿論警戒しつつだが。

まあキキの感知能力がある限り奇襲されることもない。


さて今回の目的だが、それはまず着替えた服での戦闘の具合と感触を確認したかったのと、”人化”している状態のファンとキキの戦闘能力が、『魔獣』の時と『人間』の時とでどのように違ってくるのか確認するためだ。

もし”人化”していない方が戦力的に上なら”人化”より魔獣形態でのほうが利便性があるだろう。そしてその逆もしかりだ。


そうしている間にも相手はやる気満々だ。


「よしやるぞ。ファン!キキ!奴らを遠慮なく躊躇いなく潰すぞ!遅れるなよ!」

「わかってるよ、マスター!マスターの敵はファンの敵っ!マスターに敵意を向けるなんて後悔させてあげるよっ!」

「了解です主。人となりし我が魔法をとくと御覧じを!行きますっ!」


では、さて本日2戦目の盗賊退治と行こうか。


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