15話:中では何が起きてるのでしょう?

「よし。一先ずはこんなもんでいいだろう」


俺は荷物の中にあった男物の服を物色し、幾つか選び、選んだ服に着替えた。

Y字のノースリーブシャツに袖が肘くらいの長さのジャケットコート。

両手に手袋も着けようかと思ったけど、”風の爪”を使う際に邪魔になると思いやめた。

膝元くらいの長さのズボンに、膝下くらいの長さのスパッツ。靴は足の指が出るサンダルシューズを選んだ。

あとは、両腰から膝の長さの二つポケットの付いたレッグを着けた。

最後に首元にスカーフを巻いた。


軽く着心地の確認のために体を動かす。

特に違和感もなかったのでこれを頂くことにした。


自分のを一通り選び着替えると、「そういえば」とファンとキキの方に目を向ける。

選び終えただろうかと思った。

しかし……まだ、選び終えていなかった。

つまり、目に映ったのはいまだ裸体の2人だった。


「あああ、ある、主殿!?み、み、ないでくださいっ…」


キキは俺に視線に気付くと動揺し真っ赤になる。選んでいたらしい服で体を隠す。


「ああ、マスター!どれが良いのか選べないの!だからマスターが選んでほしいなぁ」


ファンはどれが良いのか分からないと俺に見ていた服を差し出してくる。

裸であるが羞恥はないみたいだ。


俺は「はぁ…」と対極な二人だなとか考えながら溜息を付く。

まあいいかと思いながら、とりあえず二人が自分で良さそうと思った幾つかを見せてもらった。


「ふむふむ。…うん。女の子て感じだしコレなんかファンに似合うんじゃないか?」

「どれ~」


俺が選んだ服は、ファンの元気さと女の子らしさを基準に、ノースリーブの白いシャツ。襟元やボタンを着ける部分、裾の部分にフリルがあり愛らしさがあると思った。ノースリーブなのは元気さにファンは接近戦を主軸にするので選んだ。

そして黒のスカート。

……えっ?接近戦の武闘なのにスカートなのって?


……うん。ただの趣味と言うか、俺が似合うと思っただけだ。


「わぁ、マスター!さっそく着替えるね」とニコニコしながら選んだ服にその場で着替え始める。

最初から裸身だが、着替えるときでも特に羞恥感がないみたいだ。

少しは恥ずかしがってくれないかな、と零しながら、次にキキのを選ぶ。


「うぅん。……よし、これに決めた。やっぱりコレが一番雰囲気に合ってるし似合うだろう!」

「え、えっと、どれでしょうか?……なる程です。私に合っていると思います」


俺が選んだ服を渡すと、真っ赤になりながら「こ、こちらを見ないでくださいねっ」と念を押してくる。そう何度も言われると誘ってるのか実は?と思ったりなんかするけで、まあいいか。


「えっと、ここはこうでいいのでしょうか?…」

「よいしょっと!」


2人から背を向けつつ待つ。

ファンに選んだ服はそれほど複雑な物じゃない。着替えるのもキキより早そうだ。

逆にキキに選んで渡したのは、一般的に言うと軍服に近い服を選んだ。

なぜ軍服を選んだのか?

キキは羞恥のない時は一般女性よりは長身でスタイルもよく、冷静かつクールなイメージがするのだ。最初に一目に見てクールさのある秘書か、軍服を着たりしたら似合うだろうなと思っていた。

なので上着部分とスカートが一体となっている、いわゆるワンピースタイプの服を、それらしさを見繕いながら選んだ。

ただ細かい所は複雑そうなので着るのに苦労しているようだ。


着替え始めて数分後。


2人とも着替え終えたようだ。


「おぉい、もういいか?2人とも?」

「いいよぉ~。ファンはオーケーだよ~」

「主殿。私も着替え終えましたので、どうぞ」

「よし。それじゃ……おぉ」


思わずだが声が漏れる。


「どお、どお。ねえマスター、ファン、似合ってる?」

「い、いかがでしょうか、主殿…」


俺に感想を聞いてくる2人。

ファンは、その長い黄色の髪や愛らしさのあるくるっとした瞳。なにより小柄でありながらそのスタイル、主に胸の大きさもあり、今まで見たアイドルに負けない美少女だった。

キキも予想していた通り、キキをイメージして朱色と紺で構成した配色の服がとてもに合っている。今は気恥ずかしさあるので頬を染めているが、普段であれば冷静のある魔導軍将の美女みたいと思った。


「あ、ああ。すごく似合ってるぞ、二人とも」


素直に称賛の言葉が出る。

その俺の言葉にファンは満面の笑みを浮かべ俺に抱き着いてくる。

キキも嬉しさを隠したいけど隠せないかのような感じを出しつつ俺の袖を握ってくる。ギャップの違いがまたいいと思った。


あと、ファンに抱き着かれた際に気付いた。

下着も選んでおかないといけないなと。


ちなみにファンのブラを選んだ際、キキの表情が驚愕に落ちた。



そんなこんなで選び終えた服探し。

未だにキキは残念と言うか悔しさを醸し出していた。なんだかブツブツと瞳の光のない目で呟いているのがなんだか寒気を感じさせた。

俺は気にする必要はないと思うんだけどな。

十分キキも魅力的だと思うのだが。

そう伝えると、


「ほ、本当でしょうか?こんな……でも魅力的でしょうか?」


俺はちょっと引き気味になりながらも肯定すると、「そうですか」と落ち着いてくれた。


そのあとは一先ず必要そうで使えそうな道具を見繕った。

水を入れる容器や、”風の爪”があるけど、アレは魔力を消費するからと言う理由でナイフなんかを選んだ。

あとは一番欲しいのはこの世界の地図だ。

しかし、探してみたが、この世界の半分。つまり人間の領域分の地図しか見当たらなかった。

本当は世界地図が良いが、無い物は仕方ない。と人間領域分の地図を貰った。


「よし。こんなもんだろうか。あとは……ああ、そうだ。アレを確かめておかないとな」

「ん?マスター、あれって何?」

「ああ。俺の”擬人化”のSkillの再確認だな」

「”擬人化”ですか?」

「そうだ。今まではちゃんと確認をしてなかったからな。と言うか、確認した時は『どんな効果は試して見てね♪』としか出てなかったからな。今更感があってか放置してた」


俺は単純に眷属化した魔獣を人に変態させるSkillとしか思っていなかった。

しかし、しっかり確認が必要だと思った。

それは、人化中に着ていた服がどうなるのか!とか。


いや。これは切実だと思う。

ファンが魔獣に戻れば体格も違うので服がまずビリッと破れ駄目になるだろう。

キキも人化中は高身長だが、魔獣に戻れば手のひらサイズになる。


正直人化させる度に、魔獣に戻す度に、服を着替えさせるなんてナンセンスだ。

戦闘面でもそれでは役に立たない。


なので詳しく探ることにした。

上着のジャケットコートの懐からスマホを取り出す。

電源を入れステータスを確認する。

そしてSkill欄に目を通す。


……あったな。内容が変わっているみたいだった。

えっと、


==============


Skill

♢擬人化・Level:EX(契約している『魔獣』を人間の形態に変態させる事が出来る。一度でも人間化させると、人間化した魔獣は『人化』『知能獲得』『念話テレパシスト』を得る。また人化中に着ていた衣服はアイテム扱いとなり、魔獣の魔心石内に収納される。人化する際には自動的に収納状態になっている衣服を纏うことが出来る。)


==============


「ふむふむ。どうやら懸念事項の一つが解消されたわけだ。よかったな」

「そうですか、ホッと致しました主殿。しかし、魔心石に収納されるというのはどんな感じなのでしょうか」

「ん?そうだな、なら試すか。ほい!」

「えっ!?ま―」


俺は驚き声を出そうとしたキキに”擬人化”を解き魔獣形態である蝙蝠に戻した。

すると光と共にキキが元の姿に戻った。どうやら着ていた服は周囲に見当たらない。とすれば服はキキの体内にある核に収納されたと言う事だろう。

とりあえずもう一度”擬人化”を使い人間にする。

光と共にキキが人の状態になった。

先程まで着ていた衣服のままである。


「ふむ。どうやら実験成功だな。それでどう、だ?……キキ?」


なんだかフルフルと震えているキキ。なにかトラブルでもあったかと思ったのだが、どうやら違った。

ばっと顔を上げ俺に詰め寄るとキキは怒った表情で俺に怒鳴る。


「主殿ぉ!!急にあのような事をするのはおやめくださいっ!!」

「…いや、キキも知りたかったみたいだし、俺も知りたかったから…」

「ええ、確かに私もそう言いましたがっ!いきなり行うのは、やめてくださいっ!せめて心の準備と言うものをさせて下さってから、お願いしますっ!!」

「おぉ…悪かった。俺も配慮ミスだ。すまん」

「分かって頂ければそれで良いのです。こちらも大きな声をあげ申し訳なかったです」


素直に謝った。完全に今のは俺が悪かった。

しかし、意外と怒った顔を……

いや、ここはちゃんと反省しないとな。



「ねえお父さん。中はどうなってるんだろ?」

「そうだね。一体どうなってるんだろうね」


荷台に入って一向に出てこない彼ら。

何故か彼以外の女性の声が聞こえてきたり。


中で何が起きてるのか?


彼らが出てくるまでの間、親子はただ疑問が浮かんでいた。


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