13話:盗賊を潰そう。そして奪おう!

次の日。

朝早と俺達は行動を開始する。

洞窟内ゆえに太陽が昇って朝になっているのか把握はしにくいが、スマホの時間機能は生きているので、今が何時か解るのだ。しかもこのスマホはよく仕組みは分からないが、電源が切れない、つまりは永久的に起動できる。この機能は助かる。


さて、相手が行動を行う前に現場に赴かないと意味がない。

数十キロの距離があるが、魔獣形態のファンの脚力なら問題ない。

俺はファンの背に乗り、ファンは目的の場所に駆ける。

キキはパタパタとファンの掛ける速度に並行しつつ俺に口鏡を、盗賊の様子と、恐らく連中の標的であろう商人の馬車を映し出している。


そして襲撃予定地点に着いた。

どうやら襲撃までに間に合ったようだ。足音を隠しながら周囲を索敵する。

ひとまず盗賊共に見つからない様に隠れながら。

キキの”音波”による空間魔法で俺達の姿は、もし他の者の目にしようとしても周囲に同化している景色に見えているはずだ。


「さて今日の得物は何処かなっと…」


キキの口鏡で標的を確認する。


『マスター、人間の匂いがアッチから沢山するよ』

『主殿、人数確認出来ました。この周囲にいるのは全部で10名のようです』

「その様だな。俺も何となくだが人の気配が判って来た。どうやらアチラさんは俺達に気付いてないみたいだ。奇襲も楽だろうな。ふふ、見物だと良いなぁ。奴ら襲う側が逆に襲われる気分を感じ絶望するのは」

『主殿?盗賊共が馬車を襲ってから我々も動くのですよね?』


キキがこちらに確認してくる。俺は頷いて答える。


「あぁ、予定通りにな。盗賊から身ぐるみ全部奪う。商人側からは助けたついでに貰えるもんは全部頂く。商人の馬車に護衛はいない様だな。用心が足りてないだろ」

『あっ、向こうから馬車が来たよ、マスター』

「そうみたいだ」

『主殿、盗賊共も動き出しました』

「よし。此方も気付かれない様に行動開始と行こうか」



まずは盗賊共が商人側に行動を起こした所を正当防衛として始末する。

馬車が騒がしく止まった。

どうやら馬を引いていた人間が盗賊の放った矢に殺されたようだ。

盗賊10名は馬車を囲う様に位置取る。そして盗賊らしい品性の無い恐喝の声を馬車に向けて叫ぶ。

馬車から一人の男が怯えながら出てくる。


「--!」


どうやら積み荷を渡すから助けてくれと訴えてるらしい。

だが盗賊共はニタニタといけ好かない馬鹿な笑みを商人の男に向けながらその訴えを無視する。

商人の男に盗賊の1人が剣で斬り付ける。

ガギャ!と斬られた商人の男。一思いに始末をする気はなかったのか盗賊の一撃の傷はどうやら深くなかったようだ。

商人の男は血で濡れる傷口を抑えながら恐怖で顔を歪めている。

その男に盗賊共は馬鹿笑いする。

そんな時だった。馬車の中から女の声の叫びというか悲鳴が聞こえた。どうやらは娘か何かの様だ。

俺よりは年下と思う女が出てきた。


馬車から出てきた娘らしい女に父親らしい男が何だか逃げろとか叫んでるな。

まあそろそろいい加減良いだろう。

潰しに掛かろうか。


「ぐっ、に、逃げるんだ、ネファ!」

「嫌です、お父様をおいてなんて!」

「オウオウ、親子の健気なやり取りだなぁ。まあ娘は上モノだし殺さねえよ。まあ連れていって味見をしたあとは奴隷にでも売ってやるさ。だから…安心して死ねや!」

「ああ、そうだな。お前が死ね」


傷を負った父親に縋りつく少女。

そんな父親に盗賊の男が剣を振り上げる。

出来る限り身包み剥げそうなものは無傷で奪いたいので気付かれる事なく相手の背後を気配とキキの空間魔法で隠し近付く。

”魔獣風爪”で作った爪で相手の背後から心臓を正確に狙い貫いた。

いきなり背後からの声と共に襲撃を受け剣を振りかざしていた盗賊男は血を口から流しながら絶命した。


(………)


人を殺した。

事故とかでなく自分の意志のまま殺害行為に手を染めた。

以前のだったら恐れ多く不可能だった行為だ。

だが今の俺にはそれが出来る。

嫌悪を抱いたりすることもない。

敵であれば誰であろうと殺せる。その自信が今確信出来た。


俺の奇襲で周囲の盗賊共が戸惑いと焦りを含めつつ驚く。

突然仲間の一人が奇襲を受け殺されたのだ。しかも今の今まで周囲に気配らしいものはなかったからだ。


「なんだテメエ!どこから、いや、いきなりなにしやがんだァ!」


驚きから逸早く立ち直った男が俺に向かって叫ぶ。

俺はそいつの方に目線を向けず、倒れている商人の男と娘らしい少女に向ける。


「…ど、どこのどなたか、存じませんが―」


俺に感謝か、逃げる様に告げる為か、助けを求める為かは知らんが男のセリフを途中で止めさせるように言葉を被せる。


「この場は俺達が収める。あんたらはそこから動かないことだ。何、すぐ終わるから大人しくそこのアンタは、軽く治療でも出来るならしてろ」


そう告げた瞬間、俺は敵に向かって駆ける。

”魔獣風爪”を右手に展開しつつ相手を仕留める。

相手の持つ剣の軌道を予測し俺を狙って振るのを躱す。躱しついでに相手の剣を俺の”魔獣風爪”で砕く。

相手の剣を砕いたのは、試しにと俺の”魔獣風爪”が一般的な剣の硬度に比べてどの程度か知りたかったのだ。

そして結果は上々だった。

俺の一撃で剣が砕けた。鉄や鋼くらいなら余裕で行ける威力があるのが知れた。


「な、なに!?」


手の剣を砕かれ驚く盗賊の男。

そんな男に俺は最初の奴同様に隙だらけの男の心臓を狙い”魔獣風爪”を突きこんで始末する。


「こいつ、ただもんじゃねえぞ!囲んで始末するぞ!」

「おう!」

「舐めたことをしてくれるぜ!」

「このガキがぁ!」


他の8人の男達は俺を囲う様に睨みを利かせてくる。

個人では勝てないと理解し集団で俺を襲う作戦に切り替えたようだ。

中々頭を切り替える機転は良いと思う。

だけど……


この場にいるのは俺だけじゃない。


俺を囲む盗賊の男達に、俺は余裕を隠す事無く対峙している。

連中はジリジリと間合いを詰め襲い掛かるタイミングを見計らっている。

つまり奴らは俺に意識の大半を向けている。周りに向ける余裕もないということの証明だろう。

俺は口の端を上げる笑みで告げる。


「俺に集中しすぎじゃないか?後ろには気を付けたほうがいいぞ」


そう俺に言われ、連中は、はったりの言葉で自分達の注意を外しその隙に仕掛ける気だ、とでも考えたのだろうか。

俺はその奴らの様子に「やれやれ」と人の忠告は素直に聞いておくべきだろうにな、とか思いつつ左の指をパチンと鳴らす。

すると、


『出番だ~、いっくよ~』


と無邪気な声と共にファンがその姿を現して背後ががら空きの盗賊をその爪で襲う。

突然の続く襲撃。しかも襲撃してきたのが俺の様な人間でなく、【魔獣】に該当する魔物だったからだ。

因みに、俺には人の女の子として聞こえているが、周囲の人間には魔獣の恐ろしく震えるであろう雄叫びとして聞こえているだろう。

魔獣の襲撃に怯え翻弄される盗賊達。

さらに追い打ちをかけるかの如くキキが”音波”による風魔法で相手を撹乱し翻弄する。そして翼に風の刃の魔法を掛けて相手を切り刻み倒す。


『美味しく、ないですね……』


倒した奴の血を一舐めしたキキは『不味い』と顔に出す。

どうやら人によって味の差という違いがあるようだ。

いや、だからってこんな時に俺のほうを見ないでくれないか?

やるときは今じゃない後だ。


そんなことで残りの連中をあっと言う間の時間で始末した。

たいして実力もなかったので少し拍子抜けだった。


そして、そんな俺達を不可思議なものでも見るような目で見つめる商人の親子。

魔物が現れたことで怯え震えているようだが、どうやらこの魔物達は俺の指示を受けているので少なくとも敵ではないと理解したようだ。

そして自分達が助かったと思い安堵していた。


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