9話:Leaf視点…異世界召喚
夏前にクラスで起きた異世界召喚。
昼食時間に突如光と共にクラスの中心に落ちて来た一冊の本。
その光輝く本が勝手に開くとページを自動で捲っていた。
そして捲れていたページが止まるとその本を中心に教室を包む様に魔法陣が浮かび上がった。
ざわつく教室内。誰もが摩訶不思議な超常現象に慌しく困惑し叫んだりする。
そんなざわつきを呑み込むかのように真っ白な光が教室を包んだ。
そして光の消えた後、教室には誰一人の姿もなかった。
21人のクラスメイトの少年少女が、その日、忽然と教室内から姿を消した。
+
「うむ。どうやら我の”
(誰だろう、誰かの声がする?)
「それはやはり国王陛下の偉大さを体現した御力が成されたが故ではないでしょうか」
「うむ。しかし、どうしたものかな。…現れたのは良いが、この者達を眠り込んだままであるな」
(なんだか偉そうな話し方をする人と他にも誰かいる?)
「うむ。面倒であるな。幻水を掛けて目を覚まさせようではないか。ダトムズ、水の用意を」
「仰せのままに陛下。ソシエ、直ちにお主の魔法で
「イエス、ローディス!では――”水の加護を此処に表せ、そして降り注げ、されど
(なんだか聴こえてた男の人達より、若い男の人が、よく読んでいたファンタジー小説に出てくるような詠唱?みたいなのを唱えてる…)
そう言えばお昼に読んでいた本にそんな魔法みたいなのがあったな、なんてそんな感想が浮かんだ。
次の瞬間。
何か冷たいもの…恐らく水か何かが身体に降り掛かった。
(冷たい!)
そう思うと同じく自分の意識が、ふよふよと海に浮かんでいるかのような感覚が浮上し、はっきりと覚醒するのが分かった。
「何なの!?」と、私はがばっと身体を起した。どうやら自分は石工の床に仰向けで横になっていたみたいだった。
がばっと突然の冷たい刺激に横になっていた身体を起す。
ふと何で横になっていたのだろう?と言う考えが浮かぶ。
確かこうなる前は教室の椅子に座り、いつも起きる彼への苛め。それを私は手助けをすることも出来ず、ただ彼に対する歯痒い気持ちでいたはず。
身体を起して周りに目を向けるとどうやら自分一人ではなかった。
今の自分の様に驚いた表情を、何が起きたんだと言う困惑顔を浮かべるクラスメイトが映る。
(そうだ!彼は、ケモノ君は!?…あっ、いた。よかったぁ)
私はケモノ君の姿を探し、視界に入れ安堵した。
なんだかよく分からない現状だけど、彼と…ケモノ君と一緒なのは喜ばしくて安堵した。
どうやら彼もこの意味のよく分からない状況に困惑気味の顔をしつつキョロキョロとしていた。
そしてふとおかしいなあと自分の目を疑った。
クラスメイトの中には私の様に不思議に思い自分の頬を抓ったりしている人もいた。
有り得ない光景。
それは、自分達の目に入ってくる光景が、まるで美術の教科書に写されている様な城の広間だったのです。
教室にいたはずなのにありえない。
何かのビックリ?
周りもそんな雰囲気だった。
「うむ。どうやら全員目覚めた様だな。さてお前たち此方に注目せよ」
意識を失っている際に微かに聴こえていた男の人の声が聞こえた。
その方に皆向く。
そこには如何にも豪華な出で立ちで王様が着ているであろう服を纏った男の人がいた。
あとその傍に控えている肥満系の如何にも嫌味そうな中年男性と、片手に青い表紙の本を持つ何だか魔法使いみたいな恰好をした男の人がいた。
(ああ、あの人がなんだか冷たい何かをしてくれた人みたいね)
目覚めの切っ掛けである水を浴びたのは彼の仕業と思った。それと同じくそう言えば水を浴びたはずなのに濡れた様子がないのに今更ながら気付いた。
「えぇいっ!貴様等ぁ!国王陛下の面前であるぞ!頭が高いであろうが!」
平伏す様に嫌味さがにじみ出ている男の人が叫ぶ。
皆「なんでそんなことをしないといけないんだ?」と不満顔を浮かべていた。
しかし、
「うむ。我と汝達との立ち位置を認識する意味でもあるな。皆、ダトムズの言葉に従うがよい」
「!?」
国王陛下と呼ばれた人がそう告げた瞬間、体が勝手に動いた。
ダトムズと呼ばれた人の言う通り膝を付いて首を垂れる格好になっていた。
(なんで!?)
勝手に動く自分の身体と行動に気味が悪くなり恐怖する。
まさか…しなくても、この人の言葉には逆らう事が出来ない。と言う事なのではないかと頭に浮かんだ。
「うむ。もう良いぞ汝等よ」
「そうですな。このくらいで自分の立場を理解させられたでありましょう」
そう国王陛下が告げた事で金縛りにあったかのように動かなかった体の自由が戻った。
「うむ。さて改めてであるな。よくぞ我が召喚の言霊によって罷り越したぞ聖なる勇者達よ!我はガルバトロス・レミリア・アークライトである!アークライト様と呼ぶのを許可しようぞ」
「そして私はこの国の大臣を務めているダトムズである」
何だか勝手に自己紹介を進められた。
一先ず理解不能の事態の連続で皆混乱している事もあり、一先ず彼らの流れに乗る事にした。
「とりあえずこの状況の説明をするとしようか。だが立ったままなのは遺憾とも居難い。我は玉座に腰かけるとしよう」
そう言うと広間の奥に豪華な造りの玉座。つまり王様が座る場所があった。
「あのぉ」
玉座に腰を下ろしたタイミングで一人の男子が右手を上げて声を掛けた。
「貴様ぁ!陛下の許可なく声を掛けるなど無礼であろうがぁ!」
「うむ。ダトムズ、我は気にしておらん。今は大変に気分が良いのでな。さあ、其処の者よ、我への発言を許可するぞ」
王様に発言の許可を貰うものの、どこか不満げな表情を浮かべる男子。
彼の名前は
背丈もよく運動神経抜群で、ルックスもよく女生徒から人気のある男子。
ちなみに私は彼が嫌いだ。
彼は傲慢な気質で自分の思い通りにならない気がすまないところがある。
そして彼は、そんな振る舞いを、彼の父親(今通っている学園の理事長)がどんな事をしても揉み消したりするものだから、余計に彼も何をしても問題にならないと思い上がっていた。
所謂クラスの中心人物。逆らえない存在。
それが彼なのである。
そんな彼を私は嫌いだ。
他の人は好意的、もしくは自分に火の粉が降りかからない様にと関わらないようにしている。
私も本当なら関与しない派だけど、彼に対して許せないトコが一つあるの。だからこそ嫌いなのだ。
私が彼を嫌う一番の理由。それは彼が『ケモノ君』を苛める張本人だからだ。
幼少の頃からケモノ君と神藤君は見知った間らしい。
私がケモノ君と初めて出会ったあの公園でケモノ君に罵詈雑言を吐きそして砂をぶつけたのも彼だった。
中学、高校と一緒、私も同じクラスだった事もあり、神藤君がケモノ君に謂れの無い悪意をぶつけるのを何度も目にしていた。
その度に許せない気持ちが増えて行った。
その神藤君が王様に発言した。
「それじゃまあ聞くんだけど、ここは何所?日本じゃないよね此処」
「貴様ぁ!陛下に対して無礼な物言いだぞ!」
ダトムズと言う名の嫌味そうな大臣が怒なるように叫ぶ。その大臣に侮蔑な視線を一瞥する神藤君。
「お前には聞いてないんだよ腰巾着。俺は、此方の王様に聞いてるんだ。お前はお邪魔なんだよ。この俺が話してるんだから話を遮るな。無礼だろお前?」
「な、なんだと…この私を腰巾着ですとぉ!」
神藤君にそう言われ大臣は顔を真っ赤にする。
そんなやり取りを周りのクラスメイトの皆は「よくぞ言った!」「さすがはサトシだ。躊躇いなくそう言えるなんて痺れるぜ!」「きゃー、カッコいい」、とか褒め称える。
「ふむ。随分な物言いを遠慮なくする少年だ。中々肝も据えておるし面白いな。うむ、とりあえずであるな、汝の名を聞こうか」
「陛下!?」
「ダトムズ。お主は少し黙ってるがよい。我はこの者と話をしているのだ」
「ぐぅ…ぎょ、御意のままに…マイ、エピリアス、アークライト。ッ…」
そう王様に言われた大臣の人は悔しさを隠さず滲みだしつつ閉口する。
その様子を神藤君は「ざまあ」と笑みを浮かべていた。
やはり嫌いだ。
私は改めてそう思った。
(嫌な人…そうだ、ケモノ君…あれ何で少し遠くにいるの?)
いつの間にかケモノ君が周りから少し距離を離し立って居るのに気付いた。
私は前の方にいたので彼と距離がある。
私は彼の傍に行こうと思った。
けれども、それより早く神藤君が話し始めたので動けるタイミングを見失った。
「寛大なお心遣いに感謝しますよ王様。俺の名前は神藤サトシ。サトシが名で神藤が家名って事になるかな」
「ほう。なるほどな、汝らの世界では平民にも家名があるのだな」
そう発言した瞬間、神藤君はこめかみをピクッと反応させた。恐らく王様の発言した『平民』と言う部分に反応したのだろうかな。彼、自分は上の存在だと認識している所があるからな。
「うむ。我が世界では王族、貴族、名誉ある者のみが家名を有しているのだ。一般的な平民の殆どは家名を持たず名のみを与えられているのだ」
「へぇ…なら、とりあえず俺の事はサトシって呼んでくれたらいい」
「サトシ、だな。勇者らしい良い名であるな。良い、我は汝を気に入ったである。さて、ではサトシよ。お主がこの者達を率いし者と思うて良いのか?先の際にお主が殆どの者から称賛の目を向けられておったからな」
「えぇ。俺がこの面子の指揮者でいい。お前らもいいよな」
何を勝手に言ってるんだろうか、と思うも殆どの人がそれでいいと納得していた。
多分不満なのは私と彼、ケモノ君くらいじゃあないかな。
ケモノ君の表情を目にして歪みのある表情だと分かった。
「ふむ。では、今後はサトシ、君をこの者達の代表とする」
「ええ、よろしく頼む。それでなんだけど、さっき俺のした質問なんだけど?」
「うむ。此処、今汝らが立っているこの大地、この世界についてだな」
王様が私達が今いるこの世界についてと、召喚された経緯を話し始めた。
この世界の名は【ウラヌス】と言うらしい。
そして今私達がいる此処は人間国領で【グラフマイーサ】と言う王制国家で、今こうして私達の目の前に玉座に座しているのが先程自己紹介された【ガルバトロス・レミリア・アークライト】が国王として治めている。
この世界は大きく分けて二つの大陸に分かれているらしい。
現在私達が召喚されたこのグラフマイーサ王領国は大陸で言うと西方に存在しているらしい。
王国から北には森林地帯、南方に大陸を二分している山脈地帯が存在しているみたい。
森を抜けた先、山脈地帯を越えた先に、此処の王国と同等の力を有する国家があるらしい。
その国家は人間の姿によく似た種族。
物語によく登場するエルフやドワーフなどと言った亜人と呼ばれる者達の暮す国家群があるらしい。
ちなみに、グラフマイーサ王国には亜人は存在しない人間の支配する場所らしい。
私はその時気になった事があった。
それは、その話をする時の王様の様子だった。
私は彼から、どこかその国の亜人に対する嫌悪感が強く感じられた。
存在しているだけでも不愉快極まりない!と言うかのようだった。
そして私の気になった事は正解だとすぐに知った。
それは私達がこうしてこの世界、と言うよりこの王国に召喚された理由でもあったから。
王様はこう私達に告げた。
「汝等には忌々しく汚らわしい亜人の王を、そしてこの世界に蔓延る魔物を駆逐して貰う為に我が生涯に一度だけ発現できる秘儀”
目を血走らせる様に一気に話す王様。
しかし王様の話を聞いて分かったのは、私達は彼らの手駒としての兵力として呼ばれた。そう思えた。
(正直嫌だよねこんなの…だってそれって誰とも知れない人を、生き物を殺せっていう事なんだよね?皆も嫌だよね。そんなの)
そう思ったのだけど、今現在の代表となっている神藤君が勝手にやると王様に宣言してしまった。
逆らい難い存在であり王様に気に入られている彼に反抗的な声は掛け辛くなった。
「やってやりましょう。俺が…いや、俺達が王の敵を必ず倒して見せる。ただ―」
「ん?ただ、なんであるか?」
「やっぱり命を掛けるようなことになるんだろ?だったら俺達にも何か優位な条件がほしい」
そう彼は王様に交渉した。
確かにただ命のやり取りなんて嫌に決まっている。
「ふむ。無論報奨は取らせるつもりだ。汝らに討ってもらいたい亜人の王は4体。そして魔物の王、魔王。計5体を討つ事で汝らを元の世界に戻す事が出来る。無論この世界を気に入り永住を希望するのであれば最高の待遇を用意するつもりだ」
(5体の王を討つ事で日本に帰れる…本当なのか分からないけど、その言葉が真実なら結局の所選択肢は一つしかないと言う事なのね)
戦いなんて嫌だけど帰りたい気持ちが強い者にとって取れる事は一つだった思った。
ほかの皆も仕方ないのかと諦め納得し始めた。
納得出来なければ恐らく王様に強制的にさせられてしまうんだろうなと思った。
最初に王様の言葉に強制的に令を取ったのが頭に浮かんだ。
「うむ。どうやら意思は固まった様であるな。ではまず汝等のステータスを開示する術を授けようぞ。さて、”人王の宣言、我の召喚に応じし者に祝福の開示を与えよ”!」
王様が右手を私達の方に向けながら呪文を唱えた。すると私のポケットに入っていたスマホに着信が響いた。
ほかの皆も同様の様だった。
驚きながらスマホを取り出す。取り出したスマホはなんだか淡い光を帯びている様に見えた。
まず画面を確認すると当然ながら此処は異世界。
通話は圏外だから行う事は出来ない。
でもどう言う訳かバッテリーは満タンになっていた。
(あれ確か私の一つバッテリーが減っていたはず?それになんだろ?このスマホからなんだか不思議なものを感じる?…それになんだろ、見た事もないアプリが一つある?)
私のスマホに見た事もないアプリが一つインストールされているのに気付く。
そのアプリは【
このアプリが彼の、ケモノ君が此処から追放されてしまう原因となってしまった。
それを知るのはこの後だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます