第79話 ふたりいっしょに【完結】
俺たちの小さな結婚式は報道には出ないようにしていたため、ニュースに取り上げられたりはしたけれど映像としてはどこにも出ることがなかった。そう、本当に身内だけの結婚式となっていた。
また、俺たちの新婚旅行がまだ残っているんだけれど、こちらはどうしようかとまだ悩んでいる最中だ。どうしてかというとコウさんの仕事が忙しいということもあり一息がつける休暇が取れるまで待たなければいけないと考えられたからだ。それに報道にバレないようにふたりのんびりいきたいこともあって慎重になっていることも関係しているわけだけれどね。なのでこちらはゆっくりとふたりで考えることにしていた。
さて、うちのコウさんはお騒がせな人だ。
俺のために引退宣言をしたり婚約、引退撤回宣言をしたりと世間をいろいろと騒がせたこともあった。けれど、当初は騒がせた分、人気が下がるんじゃないかと心配されたのだが、女優としての人気は下がることはなかった。
なぜかというとどういうわけかコウさんの俺に対する行動に多くの女性が好感をもったようで女性からの人気が増えたからだそうだ。
そしてコウさんの撮影も大変なようで。周囲は恋愛ものや男性との撮影にはとても神経を使う。
というのも男性と接触禁止なるものを掲げているのだ、コウさんは。
これは俺と会う前から宣言していたらしいが、コウさんは「恋愛系の撮影は基本受けない」としていた。
そしてこれは俺と結婚した後に新しい条件が増えたのだけれど「どうしても受ける場合は恋愛相手との接触がある場合は入れ替わりを必要とする」として撮影を受けることとしていた。誰と? もちろん俺です。
男に対して凄くシビアなのだ、コウさんは。おかげで俺も撮影側から白い目で見られることもあったりするわけで。
それでも俺はコウさんが演じる他の男性とのラブシーンなんて見たいわけがないわけで入れ替わりに関しては容認している。出演依頼は受けませんけど。たまにあったりするのです、これが。でもね、あくまで俺はコウさん専属マネージャー。それはきっと変わらない。変わることはない。
ただ思う。コウさんがお騒がせなのは俺のためなのだ。俺を思ってしている行動と言うだけなのだ。それを考えると俺はとても幸せな夫なんだなと実感できるのだった。
そんなコウさんと撮影の休憩時間にふたり休憩室で休んでいた。
「ソウくん聞いて。今日ね、ソウくんがすこし席を外したスキにね。俳優の○○が声をかけてきたのよ。ほんとに腹が立っちゃう。私にはソウくんが居るのに裏切ったりするわけないじゃない。というより私お嫁さんなのよ? 何考えてるのかしら? 」
コウさんは結婚したと知れ渡ってもやはり魅力的なのだろう、いろいろと声を掛けられることがあったりした。そしてそんな事があれば俺にすぐ報告してきた。理由は隠し事をしたくないということだ。
「俺が頼りないのかなあ。なんだかごめんね」
俺がしっかりしているように見えないのだろうなあと思いコウさんにそう伝えると
「ううん、それは絶対違う。それはないから。うーん、私にもスキがあるのかなあ……」
とコウさんは困ったように悩み出した。
「コウさんにスキなんてあるわけないじゃない? 男に触れさせさえしないんだからさ」
そんなコウさんを見て俺は少し笑いながらそう伝えた。
「当たり前じゃない。ソウくん以外に触らせるわけないじゃない! 」
コウさんはそんな事を言う俺を見て少し頬を膨らませながらそう言ってきた。そして
「なによ。ソウくんは私が他の人に触られてもいいの? ラブシーンをしてもいいの? 」
と不安そうに俺に尋ねてきた。それを聞いて俺は
「そんな事ないだろう? そんな事されたくないから入れ替わりだって受け入れているんだからさ。コウさんは誰にも渡さないから、心配しないで」
そうコウに微笑みながらそう告げた。するとコウさんはさっきまでのふくれっ面が嘘のように微笑んで
「うん、私はソウくんのものだよ。だからこれからも離さないでね」
とコウさんは俺を見つめながらそう告げたのだった。そんなやり取りをしているうちに
「私が入ってきたのに気付かないくらいふたりの世界に入り込んで……まあいつものやり取りだから気にしても仕方ないわね」
といつの間にか如月社長が来ていた。
「あっ如月社長、こんにちは」
「社長、邪魔しないでよ」
とふたり如月社長に言葉をかけると
「はいはい。あんたたち、撮影の時間になっても来ないから……また夫婦漫才やっているんじゃないかなあと思って来てみればやっぱりだったわ。ほら、ふたりともさっさと撮影に行きなさい」
と如月社長に時間が過ぎていたことを教えられた。俺はこれじゃマネージャーとして失格だと慌てて
「如月社長、すいません。コウさん、早く行こう」
とそう告げると、如月社長は
「ほんとにしっかりしてよね、創くん。貴方しか幸の手綱取れないんだからね」
と少し笑いながらそう言い、コウさんは
「社長。ソウくんだけだよ、私を動かせるのはね。というわけでソウくん行こうか」
そう言ってから俺に手を差し出した。うん、これはいつもの手を繋げという合図だなと俺もコウさんの手を繋ぎ
「「行ってきます! 」」
休憩所を出て撮影へと向かっていったのだった。
ふたりいっしょに……
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