第77話 男のプライド?



 卒業してすぐに俺は如月社長の事務所に正社員として雇用された。そう、正社員になれたということだ。まあ、正社員になったからと言ってもやることに変わりはない。スケジュール調整や打ち合わせ、コウさんのお守りを毎日コツコツと仕事を覚えながら頑張っていた。


 そういえば俺は卒業前に自動車免許も取ることが出来ていた。そのため、仮マネージャー時代はまだ社員とはなっていなかったので運転できなかったが、今では俺が初心者マークをつけながらも運転手として運転させてもらっていた。




 さて、入籍が終わったので今度は挙式も考えないといけないのだけれど、俺はまだ働き始めて数ヶ月でお金があるわけもなく挙式を行うことにためらいがあった。確かにコウさんはお金を持っているので挙式くらい簡単にできるだろう。けれど俺が何も出来ない状態でしてもいいのかというある意味プライドなのかもしれない、そういうものが邪魔をしていたのだった。




 そんな中、自宅の寝室でコウさんから


「ソウくん、挙式はどうしようか? 私としては身内だけで盛大にじゃなくて温かい感じでしたいなあと思ってるんだけど」


 そう俺に尋ねてきた。そんなコウさんに


「それならできそうだけど……俺まだ働き出したばっかりだからお金ないんだよなあ。給料も少ないしね。そんな状態で上げても良いのかなあって」


 俺は思っていたことを素直に伝えた。


「何言ってるのよ。お金なんて関係ないでしょ? ソウくんどっちが出すとかそんなこと気にしてたの? 私達はずっとふたり一緒なのよ? お金よりも大事なものあるでしょ? 一番は私達の気持ちなんだから。ねぇ私がソウくんよりお金持ってたら嫌? 」


 コウさんは比較されて不安になったのか俺にそう尋ねてきた。


「いやお金を持っているとか持っていないってことに悲観したんじゃなくてね。お互いの祝いの席なのに何も出来ない自分がなんだかなあって思っちゃってね。今挙式をすると、今回コウさんに頼り切りになっちゃう気がして。だからコウさんがどうとかじゃないんだ」


 と俺がコウさんに伝えると


「これがもしかして男のプライドってやつなのかな? うーん。私としては別にそんなの気にする必要ないと思うんだけどなあ。お互いさ。長い人生一緒に歩むんだからさ。その時々でお互いができることをすれば良いんだよ。今回は私。だって社会に先に出ていろいろと経験してるんだから。そして今後ソウくんができることがあればソウくんにしてもらってってね。お互い助け合っていけばいいじゃない。ひとりじゃないんだから。ふたりで何でもやっていこう。ねっ」


 コウさんはそう言ってふたりだということを強調して俺を諭してくれた。そして俺の肩にコウさんは頭を乗せて寄りかかってくる。そんなコウさんを見て


「うん、そうだね。俺、考えすぎてたのかな? やっぱりさ、コウさんを支えたいって思っていたからさ。でも今回何も出来ない状態だったから俺が俺がって自分のことばかり考えてしまっていたんだなあ。なんかごめん。勝手なこと考えていたみたいだね、俺」


 と俺は申し訳なく思い素直に謝っていた。


「ううん。それもソウくんが私のことを考えてくれたことだから。ただ、ちょっと方向違いな考えになっちゃっただけ。これからはなんでもふたりで考えよう。悩んだら話し合おう。そうそう、私ね。ソウくんが誕生日の時にいろいろと隠し事して話を進めていたでしょ? たしかに嬉しかった事ではあるんだけど、やっぱり隠し事は嫌だなあって思っていたんだよ。だからね、これからは隠し事は無しで。お願いね」


 そう言ってコウさんは俺の方を向いて笑って俺にそう告げてくれた。




 その後、ふたりで挙式についてもうお金とかそういう事は考えず、ふたり今後のことを話し合ったのだった。

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