第76話 大切な日。



 今ある場所へと向かうためにコウさんと俺は歩いていた。今日はふたりともお休みをもらっている。なぜかと言うと俺たちふたりの大切な日となるのだから。


「こうやってふたりでのんびり歩くのも良いね。なかなか時間がないけれどたまにはこういうこともしようよ」


 そう言って俺の腕を組んでいるコウさん。


「そうだね。これからはのんびりできる時間も作らないとね。ほんとコウさんと会ってから慌ただしい日々だったからなあ」


 落ちこんでいた俺を助けるために目の前に現れたコウさん。隠し事していたのにそれさえ無視して。


 それから長い2日間が始まったんだよな。大事な大事な2日間。


 海に行ってコウさんから話を聞いて、告白を聞いて。その告白が飲み込めないままコウさんの自宅に泊まって。そして次の日にはコウさんは引退宣言して。


 最後に家で親に説明。


 俺はコウさんと初めて会ってからの2日間は忘れられない日だよなあとそんな遠くはない日を思い出す。


「なによ。私がいるから慌ただしくなったみたいなこと言って」


 ちょっと膨れてコウさんは俺に愚痴を言ってきた。


「コウさんがいるからってのは否定できないなあ」


 そんなコウさんに俺は否定できずそう言うしかないのだった。


「ほんとにもう……でもソウくんと初めて会ったのはちょうど一年前なんだよね」


 コウさんは思い出したように俺にそう言ってきた。


「そうだね。ちょうど1年、そして今日また新しいものを刻むんだね。ふたりで」


 そう、今日は俺とコウさんが出会ってからちょうど1年でふたりで話していたとおりこの日に婚姻届を役所に届けようとゆっくりとふたり歩いて向かっていたのだった。




 役所に行きふたりで婚姻届を提出、ふたり揃って手渡しで届けを出す。コウさんが来て少し周りがザワザワとしてしまったがこれくらいで済んだなら良かったかなと思いつつ。


「ふたりで揃って届けを出すと実感もひとしおだね」


「そうだね。書く時はそこまで緊張していなかったけれど、届けを出すとなると緊張するもんだね」


 そんな事を言いながら俺たちは提出が終わると役所から出ていった。




「でも届けを出したからってなにか変わるってこともないね。ふたりいつも一緒に居て、ソウくんが好きな気持ちも変わらずも持っているわけだし」


 コウさんはいつもと変わらないというように俺に伝えてきた。


「そうだね。確かに婚姻したからと言って特に変わるものはなにもないかな? 届けを出す出さないでコウさんへの気持ちが変わることなんてないんだから」


 だから俺もコウさんへ素直に答えた。


「待って! うん、気付いた。ひとつ変わったことがあったって」


 とコウさんはなにか思いついたような仕草で俺に言ってきた。


「なにかあった? 」


「私は今日からソウくんのお嫁さんなんだよ。恋人ではなくお嫁さんだぁ」


 コウさんからそう告げられると確かにと俺も思った。


「そうか。俺もお婿さんなんだね」


 と俺がコウさんに笑いかけながらそう言うと


「ソウくん、お嫁さんとしてこれからは一緒にいるから。いつまでもよろしくおねがいします」


 コウさんが丁寧にお辞儀をして俺にそう告げてきたので、俺も


「コウさん、お婿さんとしてこれから一緒に居るよ。いつまでもよろしくおねがいします」


 と俺もコウさんに丁寧にお辞儀をしてそう伝えると、ふたり顔を見合わせて笑いあったのだった。



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