第75話 まだ先は続く。
卒業式もコウさんの叫び以外は無事に終わり教室でのホームルームに映っていった。今日で最後ということもありみんな落ち着かない様子で中には泣いている人もいた。俺は別に泣くような思い出もあるわけではないのでそんなことはなかったが。ただ、泣ける人はそれだけ高校生活が濃く楽しかったんだろうなと少し羨ましく思えもした。
さて、ホームルーム前には先生に言われたとおりコウさんに釘は差しておいた。ただ、言うことを聞くかどうかはわからないけれどね。
ホームルームでは保護者も教室の後方で参加をしていた。まあただ話を聞いているだけなのだが。そんな中行われた最後のホームルームは特に何もなく終了することができた。
けれどホームルームが終わったからと言って教室から立ち去るクラスメイトは殆どいなかった。どちらかと言えば保護者には先に帰ってもらうように伝えている生徒が多かったように見えた。
なぜかと言えば寄せ書きや一緒に写真を撮ったりしたいからだろう。それに打ち上げをしようという会話もちらほらあるようだったし。
そんな中俺はコウさんの元へと行き
「コウさん帰ろうか。父さんも母さんも」
とそう伝えた。すると
「創。私達なら気にせずに良いんだぞ。みんなと学校生活最後の日、クラスメイトとゆっくりしなくていいのか? あれなら先に帰ってるぞ。まあ、コウさんは帰らないだろうがな」
と父さんは少し苦笑しながらそんな心配をしてくれた。その言葉が周りに聞こえたのか周囲の生徒が何かを期待しているような雰囲気を感じた。
俺になにかあったっけと考えていると思い当たることがあるなと理解してしまった。ああ、俺が参加すればコウさんと話したり関係持てるかもしれないもんなと。そんな事が思い浮かべば流石にちょっと嫌気が差してしまう。だから俺は
「いや、このクラスに特に思い出なんてないからさ。さっさと帰ろうか」
と父さんに素直に告げてしまう。すると俺の声が聞こえたのか周囲の期待が薄れていく様子が手にとるようにわかってしまった。ほんとこんなときだけ都合がいいことでと俺が思っていると
「そうか。まあ若いといろいろあるだろうからな。気にせずみんなで帰ろうか」
と父さんはそれ以上聞いたりせず家族揃って帰ることにしたのだった。
帰りはコウさんは俺の腕を組んでは耳元で「おめでとう」と何度も言ってくれていた。
「ソウくんもこれで社会人になるんだね。私の側に居てくれるんだよね。毎日が楽しみだね」
コウさんは嬉しそうに僕にそう伝えてくる。
「うーん。でもさすがに学生と社会人の違いの実感はまだ湧いてないからね」
そりゃそうだ。卒業式を上げたばかりで僕も流石にまだなにもわからないって。
「でも今後は別々じゃなくて日常も一緒に居られるんだよ。全然違うよね? 」
とコウさんは更に捲し立ててきた。確かに仕事も一緒だし、ずっと一緒に居られることは確かだな。
「うん。そうだね。それだけはわかるよ。これからはコウさんといつも一緒ということだけは……ね」
俺とコウさんがそんな話をしていると
「ほんと幸さんは創が好き好きですね、あなた」
「ああ、幸さんほど創を好きになってくれる人は多分居ないんじゃないか? 」
と両親は呆れながら俺とコウさんを見てそうボヤいてきた。そんな両親に
「私以外にソウくんを好きになる人はもういりませんよ? お嫁さんは私ですから! お義父さんお義母さんは別にしてですけど」
とコウさんは胸を張って伝えていた。
そんな会話の中、俺はこれで終わりじゃないんだなってなんとなく感じてしまい
「考えてみると卒業したからと言って落ち着くわけじゃないんだな。仕事に入籍、結婚式とまだまだすることいっぱいあるや」
とポツリと漏らす。するとコウさんは
「あと新婚旅行もね? 」
と嬉しそうにそう呟いたのだった。
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