第64話 入籍



 会見は無事に終わることができた。

 会見後の質問時間には多くの質問が寄せられた。けれどコウさんはそれらを無難にさばいていて俺はそれを見ながら「コウさんいつもと違うなあ」なんて失礼なことを考えてしまっていた。


 会見後は如月社長から「今日はもう仕事にならないから帰っていいわよ」と伝えられたことで解散となった。

 事務所から帰る時、会見後の取材陣が居るため菊池さんが心配してくれていたけれど「大丈夫! 2度目だし上手く帰れるよ」とコウさんが断りを入れていた。




 用心のため今日は事務所ではなく近くの駐車場に止めてありそこまで隠れながら俺たちは車へと向かっていく。ふたり乗り込むと車のエンジンを掛け、そして走り出す。


「ふぅ車が出せればもう大丈夫だよ」


 コウさんは俺にそう言ってくれた。そんなコウさんに


「コウさんおつかれさま、頑張ったね」


 俺は気遣いの言葉を伝えた。


「ありがとう、ソウくん。でもこれでとりあえずは一段落だね。これから先はソウくんの免許とマネージャー研修くらい? 」


 とコウさんは尋ねてきた。


「そうだね。特別なものだとそんなものかな。後は卒業式くらいかなあ」


「それが終われば……学生じゃなくなったら入籍だよね? 」


 とコウさんは嬉しそうに聞いてくる。


「そうだね。入籍。なんだかこう話してても実感わかないなあ。まあコウさんと今現在で一緒にいるからってのもあるのかなあ」


 と俺が言うと


「え? 嬉しくないの? 私とっても嬉しいんだけど」


 とちょっと不満そうにコウさんは言ってきた。そんなコウさんに俺はちょっと困った顔をして


「いやいや嬉しいのは嬉しいんだよ。ただ変化? そういうものがあんまの感じないなあって思っただけだから。コウさんと入籍できて嬉しいよ? 」


 と言い訳をしてしまうのだった。




「入籍日っていつがいいんだろね。ソウくんに特別な日とかある? 」


 コウさんは入籍の話になって気持ちが高まったのかその話を続けてきた。


「あるにはあるかなあ。でもコウさんにはないの? 」


 と俺はコウさんにも確認をしてみた。


「私もあるにはあるよ? ○月○日」


 コウさんはある日にちを言ってきた。それは俺が考えていた日と同じ日だった。


「そっか。コウさんも覚えていたんだね。その日」


「そりゃね。だってソウくんと初めて会った日だしね。それに覚えやすいよね。私の会見の前日だし」


 なんて言って笑うコウさん。そして


「だからふたりの日としてはこの日がいいかなあと思っているよ」


 とコウさんは微笑みを浮かべながら僕にそう告げた。




「そうだ。ソウくんせっかくだから寄り道していい? 入籍日の話をしてたら行きたくなっちゃった」


 とコウさんは急に行きたいところがあると言い出した。別に用事なんて無い俺だしコウさんと行くならどこでも問題ないと


「うん、いいよ。予定よりも早く終わったし問題ないから」


 そう俺が告げると


「やった。なら久しぶりに行こうかな」


 と嬉しそうに言うコウさんに


「どこに行くの? 」


 と尋ねるが


「えへへ。内緒」


 とコウさんはそう言ってごまかしながらも目的地へと運転して向かうのだった。

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