第59話 両手にソウくん。



 しばらくすると父さん、そしてコウさんたちも帰り着く。ふと気づくといつの間にか19時を回っていた。父さんは着替えてからコウさん宅へとやって来て他の人達は着いてそのまま席に着き会が始まるまで談話しながら待っていた。

 



 しばらくすると準備が終わったのか母さんも席につく。


「さて、始めましょうか? 大したものはないけれどふたりの誕生日会ですよ」


 と母さんは宣言する。そして用意された丸い一段の白いケーキにロウソクを建て火を灯す。そして父さんがリモコンで明かりを消した。


 席には親父と母さん、如月さんと菊池さんそして俺とコウさん二人づつで並んで座っている。


 それから母さんの合図とともにハッピーバースデートゥーユーを歌ってくれる。俺とコウさんはお互い見合って思わず照れてしまう。


 ハッピーバースデートゥーユー ハッピーバースデートゥーユー ハッピーバースデーディア ソウくんコウさん ハッピーバースデートゥーユー

 

 そうそうコウさんは歌ってもらうのに注文をつけていた。もし歌うならコウさんで歌ってくれと。坂梨 幸ではなくソウくんのそばにいるのはコウだからと。そんな言葉を聞くと確かに俺にとって坂梨 幸という人よりも側にいてくれたのはコウさんなんだ……思い返せばそうだったなと感じられた。


 歌が終わると俺とコウさんふたりでロウソクの火を一吹き。ひとつの漏れもなくロウソクの火が消えた。ほんと上手いこと消えたもんだ。そしてみんなの拍手と「おめでとう」という祝いの言葉をもらった。




 さて……ここからだと俺が考えていると


「創、出番だ。しっかりやれよ」


 と親父から声がかけられる。コウさん以外のみんなには事前に説明をしていたので驚くこと無く俺たちふたりを見守ってくれていた。

 ただ、コウさんは何が起こるのかわからないため「え? なに? 」と困惑しているようだった。


 俺は立ち上がりコウさんへと体の向きを変えコウさんの瞳を見つめる。そして


「コウさんとはネットの繋がりは3年近くあったけれど、実際に会ってからはまだ半年も経ってないよね。それでも俺をいつも大切に見てくれて支えてくれて温かく包んでくれて。そして側にいつもいてくれて。俺もそんなコウさんがとても好きです。大好きです。愛してます。坂梨 幸さん、いえコウさん。まだ学生のみなので先になりますが卒業したら俺と結婚してください。そしてずっと俺の側に居てください」


 と俺は一息でコウさんにそう告げた。そして


「うちの家族と如月さんと菊池さんに来てもらったのはお世話になっているということもあるんだけど、俺とコウさんを証明してくれる人になってほしいと思って呼んだっていうのもあるんだ。だからみんなには事前に話をしておいたんだ」


 と俺は言うとポケットから指輪の入った箱を取り出す。


「バイト代くらいしか当てられなかったから安物だけど受け取ってくる? 」


 俺はコウさんに尋ねた。その言葉を今まで黙って聞いていたコウさんは今にも泣きそうに目を潤ませながらも


「お金なんて関係ないよ。ソウくんからだもん。でも、ちょっと待ってね。今指にはこの前もらった指輪をつけてるから」


 と左薬指から指輪を外し、右薬指にへと着け直した。


「はははっ両手ソウくんになるよ」


 そう言って左手を出してくれた。でも両手が俺って? と思わず笑ってしまいそうになるがコウさんの左手を取り指輪を薬指へと着ける。


「ソウくん。嬉しいけど……こんなに早く決めてしまってほんとにいいの? それに私嫉妬深いよ? わかってるよね? 」


 とちょっと不安顔で俺に聞いてくる。そんなコウさんに


「うん。コウさんじゃないと駄目なんだ。俺にはきっとコウさんだけだから」


 と俺が伝えるとコウさんは一気に涙を流しながら


「やった。今日からソウくんと一緒に寝ても問題ないよね? 」


 と的はずれなような事を発言をしだした。おかげで緊張する場面でありながらも周りのみんなで大笑いすることになったのだった。



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