第52話 ほんとにこれは撮影なのかな?



「では撮影始めましょうか? よろしいですか? 」


 緊張して待っている俺にそう声が聞こえてきた。俺は今コウさんとふたり海辺でふたり手を繋いで撮影が始まるのを待っている。俺が緊張して待っているのが触れている手からもきっと分かっているだろうコウさん。だからか


「ソウくん大丈夫。撮影なんだって思わなくていいから。いつも私と一緒にいる感じでいてくれるだけでいいよ。それと……周りに人が多く居るけれどさ。せっかくふたりで遊べるんだからしっかり遊んじゃおう! 」


 とその言葉がまさに撮影なんてどうでもいいよ、ふたりで遊ぼうなんて言ってるように聞こえてくる。そんなコウさんがおかしくて


「ああ、そうだね。今日はコウさんを一杯撮ろうかなあ。そう言えば俺コウさんの写真さえ撮ったことなかったなあ……いつも目の前で見れているからあんまり撮りたいって思わなかったな」


 とコウさんに答えると


「なら一杯撮ってよ。でもね、私としてはビデオカメラなんかで撮られるよりソウくんの目で撮ってくれる方が嬉しいんだよ。それは分かっててね」


 と俺に微笑みながらそう告げてきたのだった。




 撮影が始まると俺たちはまず浜辺をふたり歩いてみた。コウさんは俺の腕にしがみつき笑いながら寄り添っていた。そんなコウさん、いつもと同じだよなと思うんだけど撮影? ビデオカメラ越しに見るコウさんがとても輝いて見えるのはなんだろう? と不思議に思ってしまう。


「ソウくんどうしたの? 」


 すこしキョトンとした顔で俺を見るコウさん。


「いやいつもとなにも変わらないコウさんなはずなのに……すごく輝いて見えるなあって」


 と俺がいうと


「うーん、どうなんだろね? ビデオカメラ越しのせい? でもどんな理由であってもソウくんに気に入ってもらえる私なら何でも良いよ」


 と言った後コウさんは俺の手を掴み今度は走り出した。


「さて、ふたり楽しんで撮影しよう! 撮影されててもふたりの時間は無くならないよ! 」


 なんて言うコウさん。俺も周りを気にしてばっかりじゃ駄目だな。コウさんだけ見ていようとそれからはふたりの時間を楽しむことに思考を変えることにした。




 それからはコウさんを撮りまくった。


 浜辺で髪をかきあげるコウさん。

 そんな仕草をしながら微笑むコウさん。

 海へと足をつけてはしゃぐコウさん。

 俺に水をかけてくる悪戯なコウさん。

 光を浴びてきれいに輝いて見えるコウさん。

 たまにふたりで映ったりしてはしゃぐコウさん。



 そしてそんなコウさんを撮っていて疲れたのか足がもつれてしまう俺。それを助けようとしたコウさんとともに海に倒れ込み浸かってしまうふたり。


 俺たちは顔を見合わせ笑ってしまう。そして俺にしっかりと抱きついてきて


「ソウくん楽しいね。やっぱり一緒に居ることが一番だよ。ひとりじゃこんなに楽しくないもん。撮影でもこんなの初めてかもしれない。ソウくん大好きだよ」


 そう言ってくれるコウさん。撮影当初以外は周りを気にすることもなくなったふたり。そんな時間を撮影終了まで過ごしたのだった。

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