第51話 撮影当日。
夏休みに入ったと言っても俺とコウさんの生活はそう変わることもなかった。というのもバイトを初めた関係上学校に行っていた時間がバイトに変わったというだけだったからで。
ちなみにバイトはコンビニのバイト。シフトの都合も結構融通してくれるので働きやすい環境で良かったなと思える職場だった。ただ、コウさんが仕事帰りが早いと迎えに来たりするので仕事仲間に最初は驚かれはしたものの今では温かい目で見られるようになっていた。
それとコウさんだけど俺がバイトに行っているからと仕事の方をサボること無く行ってくれていた。そういう意味ではバイトを初めたのは正解だったのかもしれないなんて思ってしまう。そうでないと仕事に行きたくないとか言い出しそうで……。
コウさんって一緒に過ごすようになるまではここまで甘えんぼじゃなかったよなあと思うのだけどまあ可愛いから気にしないことにしておく。
そんな感じで夏休みはあっという間に過ぎていった。
さて、今日は撮影の日。バイトの休みをとってCM撮影にコウさんとともに来ていた。
撮影場所は海。天気も快晴。
そこまで離れたところではないけれど海水も青く輝いていて綺麗なところで良いところだなあと思える場所だった。ただCM撮影があることをどこからか聞きつけたのか多く人が見に集まってきているのが俺にとっては少々辛い。そんな俺に気付いたのかコウさんは
「そんなに気にしなくていいよ。私に合わせてくれれば大丈夫と思うから」
と俺に優しく言ってくれるのだった。
今日は菊池さんではなく如月さん自らがついてきてくれていた。「一般人の創くんに出演を頼んでいるのにのほほんと私が事務所にいるわけにはいかないでしょ? 」と流石に如月さんも気を使っていたようで。
さて3人で撮影側の方たちと打ち合わせを行ったわけだけど
化粧品のCMで彼氏の俺がビデオカメラを持って彼女コウさんを撮影しながらふたり海で遊んでいるという構図とのこと
そのためセリフはないとのこと
コウさんには化粧が落ちないアピールをなるべくしてほしいとのこと
気楽に撮ってもらって問題ないけれどビデオカメラの撮影はなるべくコウさんの表情を撮って欲しいとのこと(もしかすると使える画像が得られるかもしれないからと)
撮影で着る服は撮影側で用意しているからそれを着てほしいとのこと
という内容の説明だった。結構自由な撮影でセリフがないことに演技なんてろくにしたことのない俺としては安心はできたけれど、まさかビデオカメラ……俺に撮影なんてできるのだろうか? と不安を感じてしまうのだった。
俺とコウさんは撮影用の服に着替えるため別れて行動していた。なお、如月さんはコウさんの方へとついて行った。まあ着替えなんて男の俺の方が早く終わるので待機所として用意してあるパラソルと席がある場所へとひとり戻ってコウさんたちが戻るのを待っていた。
そんな中ひとりでいるという状況のせいか周りを飛び交ういろんな言葉が耳に入ってきた。ただ「坂梨 幸と付き合えて羨ましい」等の嫉妬やらは俺はもう気にしなくなっていたのだけれど「なんであんな奴がCMでるの? コネ? 」「もっと良い人いるだろ? 素人出してどうすんだ? 」やらのCM出演に対する俺への批判も飛び交っていることがわかった。しかし周りの人だけでなく撮影側の人にもそういう事を言っている人もいたわけで……それを聞いてしまうと俺の方がなんでだ? と言いたくなる。
しかし俺が出たくて出るんじゃないんだけどと思うけれど、周りから見ればそんなもんなのかなあとちょっと嫌な気分になってしまうわけで。
まあ、それでもコウさんのためだ、素人なりでも今日1日頑張らねばと俺は両頬をパチンと手で挟むように叩いて気合を入れ直すのだった。
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