第49話 ちょっとしたことかもしれないけれど。



 夏休み初日、起きればコウさんが横に居る。うん、一緒に寝るようにしたわけではない。いつもの通り俺の布団に入り込んで横ですやすやと眠っている。家を借りたコウさんだけどいつのまにか自分の家で寝ることが無くなっていたコウさん。

 うちの両親も「もう別にいいだろ? 今まで一緒の部屋で寝てたんだから。寝たいところで良いんじゃないか? 」と全くこだわることがなくコウさんはそれならと気兼ねなく泊まるようになっていた。コウさん、自宅でほとんど寝てないよな……


 俺はもう少し寝かせてあげようとコウさんを起こさないように起き上がると部屋を出てダイニングへと行った。


 今日は夏休み初日だ。けれど夏休みからバイトを始めようと思ってはいるがバイトは明日からお願いしていた。

 また、今日の夜に如月さんが両親にCMの説明に来る予定がある。

 両親には先に俺から事情を説明をしたところ、父さんは「今までコウさんにいろいろとしてもらったんだ。それくらいやってやれ」とすんなり受け入れてくれた。おかげでただ伝えるだけという感じではあるんだけど。まあ、このあたりはきちんとしておかなければいけないと如月さんは言っていた。


 ダイニングのテーブル席に座り物思いに耽っているとふと思ったことがあった。そういえば最初コウさん宅に行った時着信たくさん有ってたよなと。まあ今更感があるけれど最近まったく無いなと。マナーにしているんだろうかなんて考えていると


「ソウくんおはよう。起こしてくれたら良かったのに」


 そう言いながらコウさんもダイニングにやって来た。


「お義父さん、お義母さんはもう仕事行ってるんだね。いつもどおり早いなあ」


 そんな事を言いながらコウさんは俺の横に座った。


「コウさんも仕事だよね? 」


「今日は休むことにした」


「ん? 仕事の予定じゃなかったっけ? 」


 俺は疑問に思いコウさんに確認すると


「ソウくん休みだし大した仕事なかったから休みにしてもらった。翌日に回せるって」


 俺が休みだから休みにしたのかと少し頭を抱えてしまった。


「如月さん困ってなかった? 」


「ううん、すんなり通ったよ」


 コウさんはあっさりそう言った。如月さんもあれかな? CM絡みもあるから強く言えなかったのかなあなんて思ってしまう。今日来る予定にもなってるしなあ。


「まあ迷惑かけないようにね」


「わかってるよ」


 注意されたのが気に障ったのかちょっと口を膨らませながらコウさんは俺に答えた。




 そんな中、そういえばとさっき考えていたことを聞いてみた。


「そういえばさ、コウさんと会った当初に着信多かったよね? あれどうなったの? 全然鳴らなくなったよね? 」


「ああ、あれね。ちゃんと「私には彼がいます。もう電話をかけないでください」って連絡……留守電に入れておいたらかからなくなったよ? 流石に彼氏がいるって分かったから諦めたみたいだね。それに私が引退するって宣言したことも関係あるのかもしれないかなあ」


 とコウさんはあっさり言った。それを聞いた俺は……いつのまにかそこまでしてくれてたんだと。あっさりと言ってくれたけど俺に見えないところでも気を使ってくれてたんだなと。そんなコウさんがとても愛しく感じてしまい俺は思わず抱きしめてしまう。

 

「ど……どうした、の? ソウくん? 」


 いきなり抱きしめられたからかコウさんはちょっと困惑気味にそう発した。


「ううん、抱きしめたくなっただけ……いつもありがとう」


 俺は抱きしめながらコウさんの思いに心からありがとうと心の中で何度も告げていたのだった。


 


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