第48話 終業式。



 今日で一学期が終了となり明日から夏休みになる。この一学期は勉強ではなくその他でいろいろなことがありすぎて困惑した日々だったなあと思い返す。今は一学期最後のホームルーム。先生は「夏休みは規則正しい生活をするんだぞ」といつもの言葉で締めくくっていた。


 ホームルームも終わり帰ろうとしていたところにある人から声がかけられた。


「ごめん、少し時間取れる? 」


 声をかけてきた人は高梨だった。今まで音沙汰無しで安心していたのになんで今頃と思わなくもなかったが


「ああ、いいよ」


 と相槌を打ちふたり教室から出ていった。俺達を見たクラスメイトの視線や喧騒を無視して。




 どうも学校ではなく喫茶店にでも寄るようで


「前使っていた喫茶店でいい? 」


 と聞いてきたので、俺は


「別に構わないよ」


 と答えた。そしてふたり歩いていった。二人離れたまま昔とは違う関係で。




 喫茶店に着きふたり注文を頼む。俺はコーヒー、高梨はココアだ。呼び出した高梨だがなにか言ってくる様子がない。よくわからないのでとりあえず注文が来るまで待ってみるかとしばらくふたり無言で時を過ごす。


「お待たせしました」


 と店員さんが注文を運んできた。ふたりの前に置きすっと去っていく。すると




「創くんほんとすごい人捕まえたわよね。ほんと……負けちゃったわ」


 高梨はそう口にした。続けて


「あの人が言ったことには敵わなかったわよ。私が何言おうと信じてもらえない状態まで追い込まれてこのざまよ」


 多分学校でひとり過ごしていることを言っているのだろう悔しそうに呟いた。


「それよりもあの行動はどうなのよ。学校で叫ぶ? それも女優が? はっ呆れて私の顔も真っ青だったわよ」


 コウさんの行動は俺も確かに驚いたよ。話はわかる。だけど


「高梨、結局何が言いたいんだ。コウさんの愚痴を俺に話す必要ないだろ? 」


 と俺は高梨に告げた。


「コウさん? 彼女のことかな? うん、そうよね。ごめん。えっとね。とりあえず少し話がしたかったの」


 と言ってきた。


「ん? 俺と話して何になるの? 」


 と俺が言うと


「坂梨 幸に徹底的にやられて我に返ったと言うか……私が悪いってことは分かってるわよ。ただ、今更謝っても多分自己満足でしかないって思われるだろうし謝りはしない。私が決めてやったことだし」


 そう話す高梨を俺は邪魔しなかった。


「ただ結局私には何も残らなかった。ひとりだけになって……なにがしたかったんだろうって思ったらどうしても創くんと少しでいいから話したくなってね。ふふふっ創くんをぐちゃぐちゃに壊そうとしたくせに何しに来たんだってやつだよね」


 そういう高梨に


「ひとりって相手いただろ? 浮気したやつ? 」


 と俺は聞いてみると


「言ったでしょ? 創くんにないものを持ってるって。でも逆に創くんが持っているものは持ってないの。そんな人と続くわけないから」


と高梨は言った。そしてココアを一口のみ一息入れた後




「創くんは私のこと好きだった? 」


 と聞いてきた。なんだかもうよくわからない。それが本音。


「ごめん。もうその頃の気持ちなんてわからないよ。ほんの少し前のことなのにね。浮気され嘘つかれて俺の心の中ドロドロになったんじゃないかなあ。多分それに高梨への思いは飲み込まれちゃったんじゃないかなって」


 と俺もコーヒーを一口のみ


「その俺の汚れた気持ちを癒やしてくれたのがコウさんで助けてくれたのもコウさん。自分の大事なものもなげうってでも側にいたいと言ってくれたのもコウさんなんだよ」


 と高梨への気持ちよりコウさんが大事だという気持ちを言葉に乗せてそう伝えた。


「ふふふっ。そっかあ。もうわからなくなったんだ」


「うんそうだね」


「それにしても坂梨 幸はすごい人ね。文化祭でも見てたけどソウくんへの思い溢れてたし」


「って高梨いたの? 全然見なかったよ」


 と俺は見ていないことを伝えた。


「そりゃサボったわよ。いてもしんどいだけでしょ? 」


 なんて軽く言う高梨。




 その言葉以降会話がなくなった俺達。だからか最後に


「創くん、もう嘘ついたりはしないから。ふたりの邪魔はしないから、じゃあね」


 そう言ってお金をおいて出ていった高梨。




 久しぶりに話した元彼女。いろいろと話しはしたけれど結局彼女は最後に残した言葉を俺に伝えたかったのかもしれない。俺にとっても心配事がひとつ減ることになるわけで話せたことは今後にとって良いことだったと思う。


 それに険悪なまま学校生活が終わらずに済んだってのも嬉しいことかもしれない。だって一応元彼女だったのだから。甘いと言われようと元彼女だったのだから。




 今過ごした時間はもしかして高梨からの終業式なのかな? なんて思いながら俺はコーヒーを飲み干した。コウさんの待つ自宅へと帰るために。



 

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