第45話 文化祭の最後に。
俺達はなにも考えずとりあえず回ろうということになった。わざわざ人の視線がある文化祭で回るのも勇気はいるがコウさんの喜びようを見てしまうと何もいうことはない。ただ我慢すればいいだけだとまだ慣れない俺だけど頑張っているのだった。
「菊池さん……いつもこの中を一緒にいるんですよね? 大変だなあ」
「いやあ、流石に慣れました。まあ、そんなことより幸さんが何しでかすかを監視しておかないといけないのでそっちのほうに気がいっているというのもありますが」
「ふたりしてなに話してるの? さっさと行きましょう! 」
コウさんは俺達の会話が気になりはすれど周りを見ることに夢中で俺の手を引っ張ってはあれだこれだとはしゃいでいた。
にしても的あてとかあるし……こんなん文化祭でやることか? とは思うけれどコウさんが楽しくやっているのでまあいいかと流しておいた。まあうちのクラスの喫茶店も文化祭という意味では外れてる気がするもんな……
怖くないお化け屋敷を笑いながら回ったり絵が飾っている教室をゆっくり見たりとコウさんを先頭にそこそこ回り終えた頃急に音楽が流れ出した。どうも15時になったようでダンスが運動場で始まったようだ。人が入り切らないからか体育館とか室内じゃないんだよなあ。さて、ダンスは毎年恒例なんだけど俺は一度も踊ったことはない。まあ相手が居なかったからだけどね。今年はコウさんという相手がいるけれどこんな中で踊ろうものなら目立ちすぎるし騒ぎになるのも嫌だしと俺は避けることにした。
「ソウくんはダンスに参加しないの? 」
コウさんが聞いてきたので
「踊る相手はコウさんしか居ないからさ。こんなところで踊っても騒ぎになるだけだし。それにコウさんとはいつでも踊れるわけだしね」
と俺はそう返した。
「んー。ならさ。どこか静かなところってあるかな? 」
とコウさんは聞いてくるので
「うーん。あるとしたら屋上くらいかなあ。他はどこも人がいそうだね」
僕はそう答えた。
「じゃいこうか? 」
と俺の手を引っ張ってコウさんはどこか分かっているような感じで校内へと入っていく。はははっこんなんじゃ菊池さんも大変だなって思いながら。
すこし早足で階段を駆け上る俺達。
「そういえば、ソウくんの元彼女見なかったね? 」
と気になったのかコウさんは聞いてきた。
「そう言えば見なかったね。午前中の俺達の組で作業してるはずなんだけど居なかったみたいだし……もう関わってないからよくわかんないなあ」
と俺が答えれば
「そうなんだ。まあ、ソウくんに迷惑をかけてなければ別にいいか」
コウさんはそう言いながらも屋上に向けて登っていく。道をほとんど間違えず行くのであまり指示を出す必要もなく入り口まで辿り着く。俺が
「そこから屋上に入れるよ」
と言うとコウさんは屋上への扉をパタンと開けた。誰も居ない屋上。さぼっている人は居なかったようだ。まあダンスが終われば文化祭も終了なのでみんな居なくなった後かもしれないけれど。
「さてと」
コウさんはそう言って僕の前に手を差し出す。
「ん? コウさんなんだい? 」
と俺が意味がわかっていないと理解したコウさん。
「ここならふたりで踊れるよ。菊池さんには申し訳ないけどそこで待っててね」
と入り口を指しながらそう言った。
「はいはい、人が来ないように見ておきますよ」
菊池さんはそう言って見張り役を引き受けた。
俺が手を取らなかったからか、コウさんは
「手が駄目ならこっち! 」
そう言って俺に抱きついてくるコウさん。
「チークダンスってのもあるよね」
なんてことを言ってくる。
「俺踊り方とか知らないけれど」
「適当でいいんだよ。ふたりで踊ることに意味があるんだから」
「……うん、そうだね」
流れる音楽に合っているかはわからないけれど静かに寄り添って踊るそんな時間を文化祭の最後で過ごすことができた俺達だった。
菊池さんも見張り役ありがとう。
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