第44話 コウさんの相手は大変らしい。



 最初は緩やかな感じでお客が入っていたのだけれど、そはりコウさんの影響が大きいのかコウさんが現れてからはひっきりなしにお客が入ってきた。というよりも廊下に並んでる人もいたりして並びながらも窓越しからコウさんを写真に収めていた。教室の中にいるお客はいわずもがな……


「やっぱり来たな……予想的中だ。でも忙しすぎるだろ、これ」


 横でそんな事を言う真崎。うん、たしかに忙しすぎる。


「んなこと言ってないで……さっさと動けよ」


 俺はコウさんの話を逸らすようにそう言いながらも作業を進めたのだった。




「そろそろ交代。昼からは入江がいなくなるから多分楽だぞ」


 クラスの中心人物がそう言うと交代の準備をしていた午後の人たちは笑いながらも俺達と入れ替わった。まあ、午前の人たちは苦笑しかなかったのだが。そんな周りを見て


「忙しくしたかったわけじゃないやい。言っても聞かないコウさんのせいだって……」


 俺はぼそっとそう呟くしかなかったのだった。




 俺はエプロン等の作業着を脱ぎコウさんのもとへと向かう。コウさんはどうもずっと俺を見ていたようで俺の動きに気付きながらも我慢して待ってくれていたようだ。


「コウさんお待たせ。菊池さんも付き合わせちゃってすいません。にしてもコウさんたちよくこの視線に耐えられるなあ。みんな見てるし写真撮ってるし……」


 俺は平気な顔で座っているふたりを見てそうポツリと漏らした。


「そりゃ芸能界に入ればこれくらい当たり前になっちゃうからね。それに今日は私がここ占領しちゃったし……ね」


 半日、一席占領していたのは確かで……俺はコウさんの横の席にとりあえず座った。するとなぜか午後の担当の女子生徒が俺達の席に来て


「入江くん、少しここで休憩するでしょ? 注文する? 坂梨さんもおかわりとかいりますか? 」


 と聞きに来てくれたようだ。


「ああ、ありがとう。ならパンと紅茶頂戴? コウさんもおかわりいる? 」


「うん、紅茶頂戴。菊池さんにも紅茶お願い」


「わかりました。少々お待ち下さい」


 そう言って女子生徒は戻っていった。


「はぁ……普通ならあの娘俺に気を使ったりしないだろうなあ。これもコウさんの効果だろうな」


 なんて口にすると


「それでいいじゃない? それとも私以外に近寄ってもらいたいわけ? 」


 なんてコウさんが少しむくれた顔で聞いてきたので


「いやいやそんな事は思ってないよ」


 と俺は慌ててそうじゃないと伝えるのだった。




 注文も届き俺はすぐにパンを食べる。どうもお腹が空いていたらしい。


「ソウくんこれからどうする? 」


 とコウさんは聞いてきた。


「うーん。俺は特にしたいことないんだけど……なんていうかどのクラスも毎年似たりよったりのことしかしてないから。見たいってものはないからね。だからコウさんが行きたいところでいいよ」


 と俺はコウさんに答えた。


「私はソウくんと居れば何でも良いよ。午前中ソウくんを眺めていただけでも結構満足しているし」


 とコウさんは言った。いや、俺を見てただけで満足って……何が楽しかったのだろう。不思議でならない。


「えーと菊池さんはどうしますか? 」


 俺は菊池さんにも予定を聞いてみた。


「問題なければ私もついていきます。何かあったら困るので」


 確かにそうだ。俺がいてもなにか出来るかと言えば出来ないだろうしなあ。


「うーん。ふたりのほうが良いけれど確かに迷惑かけちゃ駄目だし仕方ないなあ。ソウくんいいかな? 」


「うん、俺の方が菊池さんに申し訳ないって思うくらいだよ。今までもただ座ってコウさんの相手してくれてたわけでしょ。大変だなあって思うし」


「ん? ソウくんは私の相手が大変だって思ってるわけ? 」


 コウさんは自分の相手が大変だと言われたと勘違いするも


「いや、朝から何もせずにここに座ってるだけって辛いでしょ? さすがに」


 俺はコウさんが大変ということではなくなにもせずただ座って待っているのが辛いことだろうと思いそう伝えた。すると菊池さんは


「こんなことは日常茶飯事ですから大丈夫です。ただ、幸さんの相手は確かに大変だと思いますよ? 」


 なんてことを言うものだから


「菊池さんまで……むぅ」


 とちょっとむすっとしたコウさんが出来上がってしまうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る