第43話 待っていても幸せ。



 私、幸はソウくんに手を引かれて一番角の席へと案内された。


「仕方ないからここで待ってて。それとも一人で回ってくる? 菊池さんが居るから大丈夫だと思うし」


 ソウくんが気にかけてそう言ってくれるけれども


「ううん待ってる。いろいろ回るのはソウくんと一緒がいいからね」


私はそう伝えた。だってそんなもったいないことはしないよ。じっくりとソウくんを眺めていられるんだよ。それに回るのはソウくんと回らなきゃ意味ないよ。


「わかった。なら待ってて。はぁ……コウさんを見に来る人がどっと来そうだよ」


 苦笑しながらそう言って作業へと戻っていった。




 ほんといいな。普段学校生活のソウくんは見ることができないわけで、いつもとすることは違ってもそんなソウくんの姿を見ることができて幸せな気持ちになる。多分今の私の顔はだらしなくなっているかもしれないなんて思ってしまう。そんな私に


「本当に幸さんは入江さんが好きなんですね。入江さんを眺めてる幸さんはとても幸せそうですよ」


 と珍しく菊池さんが声をかけてきた。


「そりゃね。やっと捕まえられたんだよ。恋人になれたんだよ。そんなソウくんを見ているだけで幸せになるって当たり前じゃない。じゃなきゃソウくんのいう事聞かないで朝早くから来たりしないし……」


 私はさも当たり前のように答えた。


「気持ちはわかりますが……後でちゃんと入江さんには謝ったほうが良いですよ。まあ、入江さんは優しいから怒ったりはしないと思いますが」


 菊池さんは私だけでなくソウくんのことも気にしてくれていたようで。菊池さんは顔が強面なんだけど優しい人なんだよね。


「菊池さんありがとね。ほんと菊池さんは人が良いよね。みんなが避けるのがよくわからないよ」


 そう、菊池さんは強面のためあまり人が近づかないのだ。


「私に気楽に接してくれるのは社長と幸さんだけですね。でも、そういう幸さんだから私もあなたのボディーガードをすることが出来て嬉しいわけですがね」


 強面ながらも菊池さんは微笑んでいた。


「あっ幸さん、周りの人が写真や動画を取ってますがどうします? 」


 と私に菊池さんは聞いてきた。


「今日は好きにさせといていいよ。規制なんてしてたらソウくんに迷惑かかるし。それに私が勝手にここに居すわってるってのもあるから。もう今日はサービスサービス」


 私はそう言ってまたソウくんを眺めるのだった。




「でも流石に人が集まりすぎてますかね? 」


 暫く経つと多分私目当てなんだろう人が多く入ってくるようになっていた。お客の入りに役立っているのかもしれないけれど、メイドや執事の姿をした生徒さんたちは不満に思うかもなあなんて思ってしまう。それでも私は動けない。最後までソウくんを見るのだ。


「でももうこういうのにも慣れないとだしね。ソウくんとこれから周りを気にせず生活するつもりだしこれくらいは……ね。私だけでなく周囲の人もこういう事態になるって分かってもらっておかないと……なんて」


 と私が言うと


「ほんとに幸さんは。周りも大変でしょうね、ほんと」


 菊池さんは呆れた顔で私の顔を見ていたのだった。


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