第42話 言うことを聞かないコウさん。
とうとう文化祭の日。コウさんには「昼過ぎに来てよ」と伝えてはいるんだけど、言うことを聞いてくれるか心配な気持ちがあるんだけど……まあ任せるしかないなと俺は学校へ向かった。ちなみに今日もコウさんは家に泊まっていた。新居の役割あんまりないんだよなあと思う俺はおかしくないはず。きっと。
さて、いつもより早く学校に着きクラスみんなで喫茶店の準備をする。衣装はあるあるだなあと思える執事とメイド。よくこんなの作れたなあと俺は思う。その衣装を表担当の人たちはそれを着て「似合う」「似合わねぇ」そんな事を言いながらキャーキャー騒いでいる。
俺はそんな事関係ないと紅茶とパンの準備を行った。パン屋の息子のおかげでパンについては息子の両親がわざわざ間に合うよう朝のうちに運んでくれたので楽々だった。
パンはオーブントースターでチンして出す。紅茶はまあ注ぐだけなのでそう手間はかからない。メニューもこれだけなのでよく小説なんかで見る喫茶店とは大違いだなあなんて……いやいや普通あそこまで出来るかと思わなくもないが。
先生は最初に少し顔を出しホームルームを行った後なぜか俺を廊下に呼び出した。なんだろうと行ってみると
「坂梨 幸さんはいつ来るんだ? 」
と聞いてきた。ああ……騒ぎにならないか心配しているんだなあと思い
「一応俺の休憩に入る昼から来てとは言ってるんですが……あの人ですから。わかるでしょ? 」
と先生に言うと
「はぁ……確かになにするかわからないよなあ。学校で叫ぶような人だし……とりあえず騒ぎにならないように気をつけてくれ」
先生はそう言い残し職員室に戻っていった。ははは、先生も心配なんだなあと俺は笑うしかなかった。
9時半から開店ということでそれまで俺はのんびりしていた。すると真崎が
「よう、今日はよろしくな。俺も午前中裏方だから」
と声をかけてきた。
「ああ、よろしく。と言ってもそうすることなさそうだけどなあ。紅茶入れてパン焼いて出すだけだろ? 」
「人が多く入れば違うだろ? メイドや執事が好きな人が来たりするだろ、きっと。結構似合っているやつも多いし。というか予想では多分人がいっぱい入るだろ? お前が居るんだから」
真崎はきっとコウさんのことを考えているんだろうなあと思いながら
「坂梨 幸は俺が休憩に入る昼からしか来ないように言ってるから大丈夫だと思うよ? 」
俺はそう答えると真崎が悩むような顔をして
「いや……なんとなく来そうな気がするんだが……気のせいか? 」
なんて言ってくるもんで。俺は
「はぁ……なんか周りにもそう思われてんだな。まあ仕方ないんだろうなあ」
そう言いながら俺はため息をついたのだった。
9時半になり開店となった。メイドさんの格好をした女子生徒が外に出て客寄せをメインでして執事の男子生徒はお客を待ち構えて挨拶する形にしているようだ。まだ開けたばかりなのか人の入りはあまりなくのんびりとした出始めとなった。
「こんなもんで進むと良いけどなあ」
なんて一言をつぶやいた俺が悪かったのか入ってきた客を見ると……服装はいつもと違うけれど見たことのある人がいた。お供を連れて。
いやお供って言っちゃ悪いな……駆り出されたのかと可哀想になったよ菊池さん。仕事でもないのにねぇ。菊池さんはコウさん担当の仕事上のボディガードでたまにお会いするので俺もさすがに知っていた。
頭には帽子をかぶり服装はあれ? どこかの制服? ブレザーにチェック柄のスカート。ってなんでそんな格好してるのよ? と俺は驚いてしまう。
というよりこれ変装? と思い周りの人達を見てみると……気付いてるわ、というよりわかるわこれ。「キャー」やらなんやら言ってる人いるな。
それに時間守らず来てるし。俺はため息をつきながらも作業場から飛び出してコウさんのもとに行く。
「コウさん? 約束の時間と違うけど? 」
俺がそう言うと
「ごめんね。我慢できなかったんだ。端っこでソウくん見て待ってるから許して」
と手を合わせて謝ってきた。しょうがないなあと思いながら
「はぁ……菊池さんすいません。仕事でもないのにお手数かけまして。来てしまったのはしょうがないか。コウさん良く似合ってるよ。それどこかの高校の制服? 」
菊池さんは無言で頭を下げて俺に挨拶をしてくれた。この人無口なんだよなあ。
「うん、私が高校時代の制服だよ。この日のためにたくさんある服の中から探すの大変だったんだ。数年前のものだけどまだまだ私もいけるよね? 」
そう言ってくるっと回るコウさん。
「似合ってるけど……ここで回らないで。奥の席に行こうか? 」
俺は一番奥の席を使うことをクラスの人達に伝えた後コウさんの手を引っ張って連れて行ったのだった。菊池さんも共に。
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