第41話 見世物じゃないよ。



 学校では放課後になると文化祭の準備ということで居残りで作業をすることが多くなった。と言っても俺がすることはそう多いわけではなかったけれど。飾りや看板を作る作業を手伝ったりといった程度。衣装等は女子生徒のほうがメインでワーワー言いながら楽しく作っているようだった。俺は裏方だし着ることもないので気にすることもなくただ黙々と飾り関係の作業するだけだった。

 買い出しは衣装関係の材料を買いに行くついでにテーブルクロスや紙皿、紙コップと言ったものを一緒に買ってきているという感じで今はすることは特になかった。

 ただ直前に仕入れるものもあるらしくその時はみんなでするといった感じらしい。


 そういえば喫茶店と言ってもそこまでお客に出すものは多くなく紅茶にパンといったもの。手作りで出すわけには行かないので既製品というよりたまたまパン屋の息子というものが都合よくクラスに居たらしくそこから仕入れるということになっていた。紅茶は茶葉を買って入れる。うん。そこまで手間がかかんないなと思う。

 パン屋の息子はご愁傷さま……大変だけど親をうまく説得して頑張ってくれ。


 俺は入り口に飾る看板を作っている。立て掛けのもので大きいもなくそこまで苦労はしていない。


 というよりも俺としては作ったり手伝ったりすることよりも別に問題があった。それはコウさんの方だ。迎えに来たとしても教室には入れないコウさんは「遅くなるなら私も仕事頑張るよ」と我慢して仕事をしてくれているようで。そんなコウさんは俺が帰ってくると結構甘えてくるためそちらのほうが困っている感じで。

 くっついて離れない……まあ今までもくっつくことは多かったけれどいつも以上で。ここまで甘えん坊だっとは……と思うとともに新しいコウさんを知ることが出来て少し嬉しかったりと複雑な心境でもある。




「坂梨 幸さんは文化祭に来るの? 」


 作業をしてる俺に珍しくクラスの女子が声をかけてきた。名前はよく覚えていない。女子とは高梨のことがなくても関わり合いがろくになかったので……


「んー。どうだろうね」


 と来る気満々なコウさんだけどわざわざ言うこともないと俺は誤魔化すことにした。


「そうなんだ。もし来てくれたら幸さんを見に来るからお客も入りそうでいいなあなんて思ったんだけど」


 なんて言う女子生徒。俺は思わずカチンと来て


「芸能人だから確かに人に見せる仕事をしているけどさ。俺は仕事以外で見世物にするつもりはないよ」


 と言い返した。


 相手は俺が怒ったことが分かったようで


「ご……ごめんなさい」


 そう言って離れていった。たまに話しかけてきたからなにかと思ったらふざけたことを言ってきたなあ。


 芸能人はみんなに見てもらう、見られる仕事というのは分かっている。それでも仕事をしていない時にわざわざ自分から見世物になる必要がどこにある? コウさんを利用して客を呼ぶなんてなんのための文化祭? 客寄せパンダになんてさせるかよと思いながらも怒りを鎮めようと努力するのだった。




 ただ、コウさんがどんな行動を取るかがわかんなくて……どうなるんだろうと不安を持つ俺もいるのだけれどさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る