第36話 証拠。



 校門での記者との遭遇を無事抜け出した俺。さて、今度は教室かと少し気合を入れて向かっていった。構内に入るまでは校門のドタバタを見ていた人たちから興味津々な目を向けられていたが、俺の顔をあまり知られていないからか校内でそこまでじろじろと見られることがなかったのは少し助かったなと思う。まあ今後広まってしまえばジロジロと見られることになる気はするけれど。いや見られるだけならマシなのか。


 そのうち「会わせて」や「サインほしい」等迫られる気がするからなあ。


 そんな事を考えながら教室に入ると一斉にクラスメイトの視線が俺へとやって来た。けれど見られはしても俺を避けていたクラスメイトが今更声をかけられやしないだろうと考えていたとおり問題なく席へと向かうことが出来た。


 俺は鞄を机の横に掛け席へと座る。そして気付く。高梨の周りに人が集まって話していたのを。高梨の顔を見てみるとあまり良い話ではないようだ。


 そんな中、隣の真崎が声をかけてくる。


「おはよう。高梨が気になるか? まああの原因は坂梨 幸のせいなんだけどね」


「おはよう……ん? コウさんのせい? もしかして浮気したのがどっちかっていう話題か。コウさん叫んじゃったもんなあ」


「コウさん? 坂梨 幸のことか? まあそれはいいか。そういうこと。そのうちお前にも話が回ってくるんじゃないか? 」


 真崎はそう言った後隣の席へと戻っていった。というか真崎……昨日から声をかけてくるようになったけどなんで? なんて今更俺は思ってしまうのだった。


 はっきり言えば俺は浮気が誰がしたとかどうでもいいんだけどなとひとり物思いに耽る。何が大事か、それはコウさんで浮気がどうのという話はコウさんには関係ない話であって。そう思うとどうでもいいやという思いしか感じなくて。




 そんな慌ただしい朝は問題なく過ぎたのだが、昼休みにその話題が俺に波及してきた。


「私は浮気してないって」


 1日追求を受けていた高梨の声が響く。流石に我慢できなくなったのかもしれない。周りのみんなは珍しく高梨が大声を上げたからか驚いているようだ。

 その光景を見た俺はそれでも嘘をつくかとしか思えず何を言ってるんだかと思っていたところに


「それに別れても居ないから。坂梨 幸と付き合うなんて許せない」


 なんて言い出した。おいおい、それは待て。浮気したのはどっち? という話ならどうでも良いが別れていないとか言い出されても困る、今更だ。流石に聞き流したままではいられない俺は


「ちょっと待って。昨日きちんと別れ話をしただろう? それも高梨から「別れよう」って言ったじゃないか? 浮気がどうのと言う話は勝手にしてくれと思っていたけれどこればかりは聞き流せないじゃないか」


 そう高梨に告げた。


 浮気の話題を話していたらしいクラスメイトというより人のことなんてどうでもいいだろうと思うんだが、詮索し過ぎだよ。でもそのせいで俺と高梨の修羅場を作るとは思っても居なかっただろう。みんなやっちまったな。いや俺がやられたのか? この流れでこんな展開になるとは思っていなかったからなあ。


 ただ、高梨がこういう事をするかもとコウさんは予想していて対策はきちんと持っていたりする。


「ソウくん。彼女が後で「別れていない」なんて言い出さないとも限らないからきちんと録音しといて。よくあるでしょ? スマホで会話を録音しといて後で証拠で「どうだ! 」ってやつ。私とソウくんの邪魔なんてもうさせるつもりなんてないから。きちんと対策しとくよ? 」


 俺に念押しして作らせた証拠。でも本当に使うことになるとは思っていなかったけれど。コウさん容赦ないよな……




「高梨さ。そんな嘘言わないでくれ。取り消してくれないか? 」


 俺はそう高梨に告げるが


「嘘なんてついてないわ。別れていないから」


 そう高梨は拒否するだけだった。本当はこんな事したくないんだけどなあと思いながらスマホを取り出した。


「はあ、わかったよ。今、証拠をだすから」


 そう言ってスマホを操作すると


「お待たせ。創くん…………創くん、別れましょう?」

「話が早いな。了解。別れるでいいね」

「うん、それでいいわ」


 スマホから高梨と話し合ったときの音声が流れ出す。それを聞いたクラスメイトは高梨を見た。そしてその音声を聞いた高梨は驚きでか顔色を変えてしまった。


 さて、このまま流すと浮気がどうのという音声が流れてしまうので面倒くさいと思い、スマホを操作し音声を切った。


「これでいいか? 高梨、俺と別れたでいいか? 」


 俺がそう告げると周囲のクラスメイトを見て怯えながらも高梨はなんとかコクンと頷くのだった。

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