第31話 ひとつだけ言っておくよ。



 パンも食べ終わりあとは来るまで待つだけかとしばらくぼーっとしていたところに


「お待たせ。創くん」


 と別に悪びれた感じもなく高梨が現れた。まあ、もう別にどうでもいい。俺としては浮気されたことや噂がたっていることで、実際高梨と関わりたくないとまで今は思ってしまっていた。


なので俺が話を始めようとしたのだが、その前に


「創くん、別れましょう? 」


 と高梨からそう話してきた。俺としてもすんなり話がつくならそれでいい。だから


「話が早いな。了解。別れるでいいね」


 と念押しで確認すると


「うん、それでいいわ」


 とあっさりと解決するのだった。




「泣いた割にはあっさりだな」


 公園で泣いて「許して」と言っていた彼女の面影なんて今日は一切見えない。あまりにも不思議だったので思わずそう尋ねてしまう。


「多分今でも創くんのこと好きだよ。この学校で一番。でもね、私ってどうも欲張りなのよ。創くん一人じゃだめだったみたい」


 うん、よくわからない。一人じゃだめ? 俺だけじゃ物足りないということか? 


「それで浮気をしたってわけか」


 そう尋ねる俺に


「うーん。そういうわけじゃなかったんだけどね。言い寄ってこられて思わず誘いに乗ってしまったわけだけどそのせいでわかってしまったのよ。浮気した相手は創くんにないものを持ってたの……創くんには申し訳なかったけれどね」


 と高梨は答えたのだった。うん、俺には全く理解できないし、理解をしたくもない。それでも、この考え方が高梨という人の考え方だったのだろう。裏切ろうと欲しい物を手に入れるってやつなのかな。


「まあ浮気のことはもうどうでもいいわ。話しても気分が悪くなるだけだから」


 俺がそう伝えると


「あっそれと創くんが浮気したなんて噂を私流してないわよ? ただ、そのおかげで別れる決心ついたんだけどね。私のイメージが壊れない形になったから。申し訳ないけど利用させてもらってるわ」


 と彼女は伝えてきた。彼女じゃなければ誰だ? と考えてしまうけれど、まあ今更どうでもいいやと俺は少し投げやり気味になってしまっていた。


「私と創くん以外でこの話題出せるのって多分私の相手だった人だと思うよ」


 と高梨は自分の予想を俺に伝えてきた。それに対して俺は


「もういいよ噂も。どうせ俺が何を言っても信じてもらえないだろうしね」


 苛立ちながらもそう答えるしか無かったのだった。





 無事に別れることが出来たわけだけれどなにか釈然としない形な気もした。損ばかりしていると感じるけれど、それでもコウさんと共に過ごすことが出来るわけだし最初はうざったいけれど噂なんてそのうち消えるまで我慢すれば良いだけだよなと受け入れることにした。


「でも創くん」


「なんだ? 」


「創くん変わった? 」


 そう聞いてくる高梨。高梨と話をして余計に嫌悪感を感じる部分ができたわけだけれど、それでも数日前は浮気が分かって逃げ出したときの弱い俺と同じか? と言われるとたしかに変わったかもと思ってしまう。なぜならコウさんが俺の側に居るからだと実感できるから。だから俺は


「高梨さ」


「なに? 」


「ひとつだけ言っとくよ。今回の件で嫌なこと悲しいことばかりじゃなかったんだよ。高梨より俺のことを大事に思ってくれる人が現れたから。とっても素敵な人がね。それに対してはありがとうと言っておくよ」


 そして俺はもう高梨を見なかった。見る必要もなかった。どんな顔をしているだろうと興味が湧くこともなく俺はそう伝え屋上から後ろ向きで手を振りながら立ち去っていった。

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