第26話 お買い物。



 とりあえず近くの商店街にコウさんとふたりで泊まりに必要なものを買いに行くことになったんだけれど。

 よくよく考えるとそのまま行くのは騒ぎになってまずいだろということで、帽子を被ればすこしはましだろうと母さんに借りた帽子を被っていくことにした。


 商店街に女性の服屋なんてあったかなと普通に縁なんて無かったのでわからない。とりあえず歩いてみるかとコウさんと出掛けていく。商店街まで15分くらいか。そう思って並んで向かおうとするとコウさんいきなり俺の腕を掴む。そしてふたり腕を組んで


「ソウくんとこうやって一緒に歩いていけるって嬉しいね」


 と言ってコウさんはニコッと笑った。




 しばらく商店街に向かい歩いていると、流石にじろじろと見てくる人が現れ始めた。バレてないかなと心配な俺にコウさんは


「もう気にしない。別にバレてもいいでしょ。これから一緒にいればいずれバレるんだから」


 と本人のほうがあまり気にしていないようで……なんだか俺だけ気にしても馬鹿らしいなと次第に思えるようになるのだった。




 商店街の女性服を扱うお店に着くと俺はコウさんに任せることにした。女性物なんてさっぱりだし泊まりに必要なものって下着とか言ってたしなと……「ソウくんが選んでも良いんだよ? 」なんてからかってくるコウさんをスルーして俺は隅にあった椅子に座り待つことにした。

 コウさんは選んだものを俺に見せに来ようと考えたようだが、俺は寝たふりをして選び終わるのを待っていた。寝たふりなんてバレバレなことをしてしまったが、そんな物を見せられても俺としては恥ずかしくてたまらない。だから……さっさと選んでくれと俺は待ち望むのだった。




 うちの母さんの顔が広いためかこのお店を使うことがない俺だけど店主のおばちゃんは親密というわけではないけれど俺も知っている人だった。そのおばちゃん、コウさんを見て「えっ? 坂梨 幸? なんでこんなお店に来ているの? 」と会計をしながら驚いていた。ああ、そりゃ買い物して会計してりゃ帽子ぐらいじゃバレるよなと仕方ないことだと諦めた。


 ただ、言いふらしてもらっても困るので俺は席を立ち


「おばちゃん、言いふらしちゃ駄目だよ? 」


 と声をかけた。するとおばちゃんは俺に気付いたようで


「あれ? 入江さんとこの子じゃない? 坂梨 幸と知り合い? 」


 と困惑しながら俺に尋ねてきた。


「んー。どう言ったら良いのかなあ……」


 と俺はどうごまかそうと悩んでいたのだが、横からコウさんが


「ソウくん、はっきり言ってくれないなんて悲しいよ……それなら私が言っちゃうから。これから商店街には私もよく来るようになるんだからね。店主さん、創くんは私の大好きな人です。私の引退会見見ました? もし見たのならその時言ってた人は彼ですよ? 今後いろいろとお世話になると思いますのでよろしくおねがいしますね」


 と思い切りばらしているわけで……まあさっき考えたようにどうせバレるんだと諦めることにした。でも一気にバレると面倒くさいので


「はい。俺の大事な人ですね……はぁ」


 俺は驚いて言葉も出ないおばさんを見ながら、初の近所へお出かけから精神的に結構疲れるもんだなとため息をついたのだった。

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