第20話 引退会見。



 私、坂梨 幸は席に付き会見が始まるのを待っている。私が見える範囲には席に座った記者、席を立って写真を取る記者等部屋いっぱいに記者だらけとなっていた。本音を言えば私の会見程度でここまで集まるとは考えていなかった。ちょっと甘く考えていたかもしれないなと部屋を眺めながらそんな事を考えていた。


 でも、どんなことがあろうと引退を止めるつもりもないし、やはり私はソウくんが側にいることが最優先だと思い返し失敗なく会見を行おうと気合を入れ直す。


 しばらくすると開始時間になったようで社長が挨拶を開始した。


「多くの方にお集まりいただき誠に有難うございます。では、坂梨 幸の今後について緊急会見を初めさせていただきます。進行は事務所社長の如月が務めさせていただきますが、内容については坂梨 幸本人から話をさせていただきたいと思います。坂梨 幸さん、よろしくおねがいします」


 そう言って社長から私へバトンタッチ。私は席から立ち話し始めた。


「坂梨 幸です。本日はお集まりいただき有難うございます。本日の会見は私の今後についてお話をさせていただきます。えー、坂梨 幸は今年度限りで引退させていただきます。理由ですが、私には芸能界に入る前からの想い人がいました。ですが、今回その想い人についてある事象が発生いたしました。それにより私は想い人の側にすぐにでもいたいと考えました。ですが、現在の女優という職では時間が不規則でありロケ等で側にとどまることが出来ず現状のままでは無理だと判断いたしました」


 記者の方から驚嘆の声が上がっているが無視をして、私は一息入れ続けて話し出す。


「ですので、所々の事情を勘案して今年度限りで女優を引退することにいたしました。以上です」


 私が話し終わると記者たちは慌てたようにバタバタとしだす。ニュースや新聞、雑誌そういうものの締切に間に合わせるためだろうか?


「坂梨 幸から説明があったように今年度限りで引退することになりました。ご理解いただきますようよろしくおねがいします。それでは今から質問を受け付けたいと思います」


 社長はきびきびとした声で会見を進めてくれた。


 そうして質問が始まったわけだけれど、聞かれることはほとんどソウくんについてのものがほとんどだった。仕方ない話ではあるけれど。付き合っているんですか? はまだ良いとしてどこで知り合いましたか? や職業はなんですか? 等……なのでソウくんの事に関しては「一般人なので詳細はお応えできません」とかわしてばかりだった。教えても問題ないことさえ。


 ただ、それはソウくんのことを誰にも教えたくないという気持ちがあったからかもしれない。だってソウくんは私のものなんだからと強く思っているのだから。




 私って嫉妬深いんだなあと思わず笑ってしまいそうになりながら。




  


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る