第19話 どうも緊張していたみたい。



 呆れてしまう社長だったが


「よくよく考えたら他にも色々と問題あるんじゃないの? 家のこととか……」


 私、幸のことをいろいろと心配してくれているようで


「家のことは知らない。血も繋がってないし、あの家を出るまでいろいろとやられたしね。向こうも今更なにか言ってくることもないでしょ? もう関わらないでって言って出てきたわけだし」


 私には血のつながった親はいない。高校の時にふたりとも交通事故で亡くなってしまった。そこで親戚内で押し付け合うようにして私はある親戚の家庭に預けられたけれど住んだは良いが……まあいろいろあったわけで。


「まあ他のことは後々なんとかするさ。とりあえずはしばらく過ごせるお金もあるし落ち着いたらなにか仕事も始めようと思ってるから」


「まあお金に関して言えば、1年しか働いてないにもかかわらず10年は遊んで暮らせるくらいあなたは稼いでるからね」


 そう言って笑う社長。


「まあ、何かあったら言ってきなさい。引退したと言っても関係は切れないわよ。一応あなたのお母さんになったつもりでやってきたわけだしね」


 そう言って優しい表情をして私を社長は見つめてくる。


「やだなあ。こんな迷惑かけっぱなしの私にそんな事言うなんて。他の子達にそういうことは言ってあげないと」


 私は照れてそっぽを向きながらそう告げる。本当は嬉しいって気持ちあるはずなのに素直になれないそんな私。


「みんなそうだわよ。あなたもそう。私の可愛い娘だったから……ね。さてと詳細詰めるわよ。引退時期や今後の仕事について話しておかないと。会見時に聞かれても困るしね。一応私がフォローする予定だけど」


 そう言って社長は今後のことについて話し始めた。


 すべての引き受けた仕事が完了するのが年内予定。

 だから今年度限りで引退。

 引受済の仕事時間についてはまだ話ができていないので分かり次第話をする。

 仕事時間は昼重視で相手先と交渉するが、無理な場合は話し合いを行う。

 今後新しい仕事は受付けない。


等、簡単ではあるが社長から話を受けた。

 私はその話を淡々と聞いた。別に社長を疑ったりすることもない。任せておいて問題ないだろうと思っていたから。




 しばらくして衣装に着替えるよう呼び出しがかかったので衣装室へと向かい、衣装に着替えスタイリストさんに化粧をしてもらう。引退会見なので派手な必要もなくそこまで時間がかからずに済んだ。


 そう言えば今更だけど会見場所はどこなんだろうと聞いていなかったことを思い出した。


 社長に聞けば場所は事務所から直ぐ側のホテルのホールを借りているそうだ。それなら問題ないなと私は着替えた後スタイリストさんにお礼を言い再度社長室へと向かった。




 社長室には社長以外に秘書さんも来ていた。挨拶を交わし私はソファに座りぼーとする。始まるまで後一時間かと思っていると秘書さんから


「お飲み物でも飲みますか? 」


 そう聞かれたので


「コーヒーお願いできる? 」


 とお願いをした。私も緊張はしていたようで喉がからからになっていたことに今気づいた。


「もしかしてあなたでも緊張してるの? 」


 どうもそのことに気付いた社長が尋ねてきた。


「そうみたい。今気づいたけど喉がからからみたい」


 そう言って私は笑ってしまう。




「きっと想い人のことばっかり考えているから他のことに頭が回ってないんでしょ? でも幸、引退会見はびしっと決めてちょうだいよ」


 社長はそう言いながら私の背中を叩いて社長室から出ていった。




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