第08話 コウさんと社長のやり取り。
コウさんのお宅はシンプルだった。リビングに落ち着いた色のテーブル、ソファ。あとはテレビくらいか。ダイニングはフライパンなどきちんと片付けられていて、それでも使っていないわけではないとわかるそんな雰囲気だ。
「ソウくん、ソファにでも座ってて。コーヒーでも入れるよ。コーヒー好きだったよね? 」
コウさんは会話の中で何度か話したことがあったので俺がコーヒーが好きだったことを覚えていたようだ。
「うん、ありがとう」
俺がそう返すと
「あら、幸さん私のコーヒーは? 」
社長には勧められなかったからかコウさんに尋ねていた。
「はいはい、わかったよ。入れてあげるから座ってて」
コウさんは社長に結構冷たくそう返していた。ん? 仲悪いのか?
そう思いながらも俺はとりあえずソファに座った。すると向かいに社長さんも座った。
「あなたが幸の想い人さんね。私は幸が入っている事務所の社長をしている
「えっと俺は入江 創です。よろしくお願いします」
そうふたり挨拶を交わしていると
「創くんよろしくしなくていいよ。どうせ引退するんだから。その人とすぐに会わなくなるからね」
横からコウさんがそう言いながらコーヒーを持ってきてくれた。
「はい、どうぞ。ソウくん」
そう言って俺の前にコーヒーを置いてくれる。そして如月さんの前にもコーヒーを置くがなにも言わずに置いていた。んーやっぱ仲悪いの?
そして、コウさんは俺の横に座る。サンドイッチも持って。って早くない? 作るのとそんな事を思っていたら
「サンドイッチ昨日のが残ってた。これでも良いかな? 」
そう言ってテーブルに置いてくれた。
「全然問題ないよ。ありがとう」
俺はコウさんにお礼を言った。
「さてと幸。とりあえず今回の件の話をきちんとしてくれない? なにもわからず「はい良いですよ」とは私も言えないから」
コウさんがこちらに来たからかそう言って話を促した。
「わかったよ。ソウくん。ソウくんのことも話していいかな? 全部話すとソウくんのことも話さないといけないからさ」
コウさんは俺に気を使ってかそう聞いてくる。俺としては別に問題ないので無言ながらもこくんと頷いて了承した。
俺が浮気されたこと
それがきっかけでコウさんが俺のもとにやって来たこと
俺に会いコウさんは隠していたことを洗いざらい話したこと
話したことで俺に対する壁がなくなったと判断し俺の側にいようと考えたこと。
俺の側にいるために引退し引っ越ししようと考えたこと
等を如月さんへと話をした。
話を聞いた如月さんは頭を抱えていた。んー呆れているようにも見える。
「なんであんたはそう短絡的に物事を進めるのかしら? はぁ……せめて相談してほしかったわよ。それに別に引退を止めたりはしないわよ。約束していることだから。ただしこちらとしてもお願いはあるわけだけどね」
如月さんがそう言うとコウさんはちょっときつめの表情になり
「そちらが条件つけるなんて聞いてないからね」
と怒った様子で文句を言ったのでそれに気付いた如月さんは
「ちょっと待って。ちゃんと話を聞いて頂戴」
と内容の説明をしようとした。
「社長、ちゃんと説明して」
とコウさんが告げると如月さんは即座に説明を開始した。
「わかったから。あのね今現在、幸には契約している仕事があるわけよ。それをこちらの都合で引退すると言って断ったら? 契約不履行で損害賠償が発生してしまうわけ。売れていない子だったらそう掛からないんだけど幸だと大金になってしまうのよ。だから、今後仕事は受けないけれど、現在まで受けてしまった仕事だけはやり遂げてほしいのよ。多分幸の損害賠償を払ったら事務所は潰れるわ」
話を聞いてみると、確かに社長として幸に今引退して「はいさよなら」されると辛いことがわかる。だから俺はコウさんを見て
「コウさん、俺からもお願いだから受けた仕事だけはやり通してくれないかな? コウさんの仕事だけどコウさんがこのまま引退して仕事をすっぽかすことになったらそれって俺のせいでもあるんだ。その話を聞いちゃったら俺ほっとけないよ。コウさん……」
そう俺が伝えるとコウさんはしばらく考え込んでいた。それを俺と如月さんは静かに待つことにした。
数分が経っただろうか考えがまとまったのかコウさんは社長に向けて話をし始めた。
「わかったわかったよ。ソウくんに迷惑をかけたくないし今まで受けた仕事だけはちゃんとするよ。ただし、社長? こちらからも条件があるんだけど聞いてくれる? 」
どうも条件をつけるようだ。
「条件にもよるけど……幸、話してみて」
如月さんはそう言って先の話を促した。
「明日引退会見を開いて。そうすればもう仕事は入らないでしょ? それとあとひとつ。仕事は昼間だけにして。まあどうしようもない場合は相談受けるから」
とコウさんは2つの条件を如月さんに伝えた。それを聞いた如月さんが今度は黙り込んで考えていた。そして待つは俺とコウさん。そういえばと俺はこの間にサンドイッチを食べることにした。コウさんも流石にお腹が空いていたのだろう一緒に食べ始めるのだった。
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