第05話 コウさんの告白。
「さてと、これからが本番だね」
コウさんはそんな事を言う。これ以上のことがあるのか、そう言えば引退がどうとか言っていたことを思い出す。
「コウさん引退するとか言ってなかった? 」
だから俺は思わず聞いてしまう。
「ああ、そこはもう少し後になるから待ってて。まずは一番大事なことから言うから。それを言わないと始まらないんだ」
コウさんにとって引退より大事なことがあるらしい。さっぱり考えつかない俺はコウさんからの話をおとなしく聞き続けようと黙ることにした。
「うん。ちょっと待ってね。心落ち着けるから……ふぅ。ソウくんいくよ。私コウこと坂梨 幸はソウくんこと入江 創くんのことが大好きです。はぁやっと言えた……ね」
そう言って俺を見つめるコウさん。だけど俺はコウさんに何を言われたか理解できない困惑状態でしかない。それでもなんとか
「え? だ、だいすき? 」
と一言漏らすことが出来た。するとコウさんは更に言葉を続けた。
「ああ、私はソウくんのことがずっと前から大好きだったんだよ。いつ好きになったとかなんで好きになったとかはごめん、もうよく覚えていないよ。だから本音を言えば早く女だと話してこう伝えたかったんだよね。好きだって。でも怖くて言えなくてね。いつかいつかいつかと思ってたら結局先にソウくんに彼女が出来ちゃって。すごく落ち込んだよ。いつも声が聞ける関係でもあったのにソウくん失っちゃって……会えないって大きいことなんだなあっていつも思ってた」
「好きになってから私の毎日はソウくんでいっぱいだったよ。頭の中はソウくんのことばかりだった。はははっ冗談に聞こえるかもしれないけれどそうだったんだ」
そう言葉を告げるコウさんは少し下を向いて何かを思い出しながら話しているように見えた。
「今回、ソウくんの彼女が浮気して苛立った。ソウくんの側にいられるのになんでだって。でもソウくんには申し訳ないけどチャンスだと思った。こうやって女だって、女優やってるんだって、ソウくんのことが好きだって伝えられるって思ってしまったんだよ。ごめんね」
コウさんは少し目に涙を溜めて居るように見えた。それだけ俺に対して申し訳ないと思っているのかもしれない。
「コウさんが謝ること無いよ。浮気されたのは俺なわけでコウさんは何も悪くないから。でもね、今は頭が混乱しているというのが本音かな。だってコウさんが女性で女優でそして俺のこと好きでってなんだか夢みたいなことがたくさんやって来ててさ。嬉しい……きっと嬉しいと思ってるはずなんだけどさ。心も追いついてきてないや」
言葉ではわかるけれど、なんだが自分の体じゃないみたいに頭と心がまだ理解できていない。理解してくれない。
「ああすぐに受け入れてくれとは思ってないよ。伝えたかったんだよ。そしてすべてを話せば今後気にすること無くソウくんの側にいることが出来ると思ったんだ」
コウさんの思いはとても強いんだってことが伝わってくる言葉。でも、今は何も言えない、言葉が出ない。
「それで今考えていること……だけれど引退と引っ越しだね」
ここでやっと話の中に引退が出てきた。それに引っ越しまで入ってる。
「女優になるときにね。契約でひとつだけ約束事をお願いしたんだよ。それは私の想い人の事で必要がある場合は引退することができるようにしてって。しぶしぶ受け入れてくれてね。まあ受け入れないと女優になんないって言ったからなんだけどね」
そう言って先程涙を溜めていた目を拭いながら俺にニコっと笑いかける。
「もう障害はないと思ったから引退してソウくんの側にいたいって思ってるわけでね。家もソウくんの家の近くに引っ越そうと思ってるよ」
いや……もう俺の頭パンパンで破裂しそうだよ、コウさん。というよりもなんでそこまで行動が早いわけ?
「以上が私の告白かな? ちょっと困惑させてしまったかもしれないけどまあ私の気持ちだよ。ソウくん」
そう言って俺を見るその目はなにか愛しいものを見ているようなそんな目をしていたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます