第04話 ソウくんの影響。
俺がよく知らない、車で一時間程度の場所ある人気の少ない海。平日というのもあるかもしれないけれどこんなに静かなところがあるのかと俺は周りを見渡した。
「どう? 静かでしょ? 私がお気に入りの場所。なぜかここって人が少ないのよね。夏は流石に泳ぎに来る人がまばらにいるけど来たとしても地元の人だと思うよ。穴場ってやつだね」
コウさんはそう教えてくれた。俺とコウさんは車から降り防波堤までふたりで歩いていった。防波堤まで着くとコウさんは座って隣をポンポンと叩き俺を呼ぶ。
「座ってゆっくり話そうか」
と誘われるけれど、やっぱりきれいなコウさんでちょっと気後れしてしまう。それでも俺はコウさんになんとか導かれふたり並んで座り時を過ごすことにする。
「さてと、ソウくんの事は通話で聞いてたからね。まずは私のことから話そうか。ソウくん聞いてくれるかい? 」
そう言って問いかけてくるコウさんに俺は無言で頷いた。
「何から話そうかな? そうだね。まずはなぜ男だって嘘をついていたのかからかな? というよりも騙すつもりはなかったんだよ。流れでこうなっちゃっただけなんだよね。私とソウくんが出会ったのって○○オンラインってゲームだったよね。敵をやっつけてレベルを上げて……そんなゲーム。私ね、ソウくんに出会う前は女キャラで名前も「サチ」でしてたんだよ。でも変な男に捕まっちゃって。だから逃げるためにキャラを削除してやり直したわけ。それが「コウ」だね。それでもうあんなことに会いたくなかったから男で通していたらソウくんと会って。ソウくんだけだったら女だって言っても良かったんだけど……他にも仲間がいたからね。そうしたらソウくんにホントのこと言えなくなっちゃった」
話を聞いていてよくある話だと思った。その話を聞いて女性も大変なんだと思うだけで騙されていたことに対して別に怒る気にもならない。男でも女でもコウさんはコウさんなんだから。
「別に男だって女だってコウさんはコウさん。別に問題ないよ。理由もわかったしね」
だから俺はコウさんにそう告げた。
「そう、ならよかった。女だと言ったらソウくんが離れないかと不安もあったんだ。男として付き合っていたからね。どうなるかわからなくて……」
コウさんも隠していることに不安があったみたいだ。でももう気にしなくて良いんだから。
「さて、なら次は芸能人ってところ? かな。でも芸能人になったのソウくんのせいなんだけどね」
コウさんが意味のわからないことを言う。俺のせい?
「ソウくんがね。私が女優になって1年くらいだから一年半前くらいかな? ソウくんが近所に誰だっけ? 忘れたけれど芸能人が近所で撮影してたって話をしてたでしょ? で私は聞いたんだよ。芸能人って良いと思う? って。そしたらソウくんはすごく輝いていて綺麗だと思ったって言ったんだ。それを聞いて私はソウくんが見てくれるかもしれないって思うといてもたってもいられなくなっちゃって。はははっ馬鹿だよね。でもそれで女優になることにしたわけ。というのも今いる事務所から誘いが来てたんだよ。だから考えていたのもあったんだけどね。ソウくんの言葉が後押ししてくれたわけだよ」
ちょっと待って。女優になったのは俺の言葉の後押しってこと? たまたま来てた……俺も誰か覚えてないや、芸能人の人が来て撮影する現場を見たのは覚えてる。でもその時に呟いた一言でまさかこんな事になってるとは思いもしない。
「というかそれでよかったの? 」
俺はコウさんに尋ねてしまう。
「んー。どうなんだろうね。ソウくん私の話題一回も出さなかったからね。私からチラッと話を出してもあまり興味なさそうだったし。それでも楽しいことは楽しかったし嫌とかそういうことはないよ」
とりあえず楽しいという言葉を聞いて安心した。ただ、見ていなかったと言われるとちょっと申し訳ないなあ。
「ごめんね。芸能人ってまったく別の世界の人って思えちゃってあんまり考えようとしてなかったからなあ」
「でも、それはそれで良いと思うよ。だって芸能人だから好かれるってのもこちらとしてはいい気持ちしないってことが私もわかったからね」
コウさんはそう言って俺に微笑みかけてくれた。
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