第11話 その力は


 部屋に戻ると、リュカはちゃんとソファーに座って待っていてくれた。



「待たせたな。良い子にしてたんだな。」


「エリアス!もどった!」


「ハハハ、そうだ、戻ってきたぞ。」


「エリアスさん……これは……」


「……にんげん……」



 ゾランを見た途端、リュカが震えだした。すぐにリュカの元へ行って抱きしめる。



「大丈夫だ。ゾランは何もしない。大丈夫だ。」


「エリアス……こぁい……」


「怖いな。けど、ゾランは何もしないから。大丈夫なんだ。」


「だいじょうぶ……」


「龍が……喋ってる……」


「そうなんだ!すげぇだろ?!今言葉を教えてて、まだ理解出来てねぇとこはあるけど、ちゃんと喋んだよ!それに……」


「こぁい……」


「大丈夫だから!リュカ、大丈夫だ!」


「リュカ……?」


「あぁ。この龍の名前だ。自分でそう言ったんだ。リュカは街かどっかで人に攻撃されたみてぇでな?人が怖いらしいんだ。けど、俺にはなついてんだよ。」


「リュカって……エリアスさんの子供の名前と同じ……」


「そうなんだ。変な偶然だろ?リュカは人には攻撃しねぇ。だから、ゾランも安心してくれ!なっ?!」


「……分かりました。……リュカ?」


「リュカ」


「僕はゾランって言います。」


「ぞらん、いいます」


「うわ!真似した!」


「そうなんだ。そうやって言葉を覚えんだよ。」


「おぼえんだ」


「凄い……!これは凄いですね……!」


「だろ?」


「すごい、リュカ、すごい」


「そうだ。リュカは凄いぞ!」


「えっと、リュカ、お父さんやお母さんは?」


「おとうさん、おかあさん」


「まだそこまで分かってねぇ。もっと言葉を教えねぇと。」


「そうなんですね……いや、しかしこれは驚きました!」


「だろ?すげぇだろ?!昨日見つけてな。リュカはひとりで、俺を見て震えてたんだ。多分黒龍だった親が亡くなったかで、山から降りてきたんだろうな。黒龍は人に崇められてたから、人に警戒心が無かったかも知んねぇ。けど、龍を見て怖くなった人から攻撃された、とかだと思うんだ。」


「なるほど……考えられはしますが……ですが、どうされるんですか?龍ですよ?」


「そこなんだよなぁー。今はまだ子供だから小ぃせえけどな。どこまでデカくなんだか……」


「昨日はどうされたんですか?」


「俺の家に連れ帰って一緒に寝た。大人しいもんだったぜ?けど、限度があるからなぁ……」


「そうですよね……」


「テイマーっているだろ?ほら、魔物使い。取り敢えずそんな感じで登録できねぇかな?」


「龍をテイムするなんて、前代未聞ですよ!」


「まぁ、そうなんだろうけど、それ以外方法を思い付かなくてな。」


「そうですね……まぁ、エリアスさんであれば、龍をテイムしても誰も疑いませんが……分かりました。ではまず、エリアスさんをテイマーとして登録します。それから、その龍を使役したとして登録します。」


「やった!ありがとな!流石はゾランだ!」


「ゾランだ!」


「ハハハ、そうだよ、僕がゾランだよ。リュカは凄いね。」


「ゾラン、リュカ、すき?」


「……っ!なにこれ……可愛い……!」


「そうなんだ。俺、これにヤられちまったんだ!」


「分かりますっ!リュカ、僕はリュカが好きだよ!」


「りゅう、すき?」


「龍のリュカが好きだよ!」


「ゾラン、すき」


「うわぁ!ヤバいです!これはヤバい!」


「ゾランもヤられたな。」


「エリアスさんの気持ちが分かりました!これは放っておけないですね!」


「そうなんだよなぁー!あ、それでな!今日リュカと一緒に魔物を討伐しに行ったんだけどな!やっぱ龍ってすげぇんだな!ほぼ一撃だぜ!ちゃんと倒してくれんだよ!」


「そうなんですか!?それは頼もしい!」


「だからテイムしたって事にしても、あながち間違ってねぇんだよ!役立ってくれたんだからな!」


「そうなんですね!いやぁ、それにしても驚いたなぁ……あ、ではテイムした魔物につける首輪を持ってきますね!」


「まもの、きらい」


「え?リュカ、魔物嫌いなのか?」


「きらい、リュカ、りゅう」


「リュカは魔物じゃねぇってか。そうだな。リュカは魔物じゃねぇな。……首輪か……首輪って、なんかペットみてぇだな。」


「ですが、テイムした証明が必要ですから……」


「ペットじゃねぇんだ。リュカは俺の友達なんだ。首輪以外でどうにかならねぇか?」


「そうですねぇ……まぁ、腕輪にすることも出来なくはありませんが……」


「じゃあ、そうしてくれ。なんか、首輪って可哀想な気がしてな。」


「お気持ちは分かります。これだけ話しをする龍ですからね。」



 その時、リュカのお腹が「グゥー」って鳴った。それを聞いて、俺とゾランは「ハハハハ!」って笑った。リュカも合わせて笑った。すぐにゾランが食事の用意をしてくれる。


 珍しがって、ゾランも一緒に食事をした。なんでも食べるし、ちゃんと椅子に座って食べるし、上手くねぇけどフォークやスプーンを使って食べるし、ちゃんとコップを持ち上げて飲んだりもする。それを見てゾランが、「まるで幼い子供みたいだ!」って感心した様に言っていた。俺も「そうなんだ!リュカは賢いんだ!」って、自慢気になっちまう。


 食事が終わって、今後の事をゾランと話していると、俺の横に座っていたリュカがウトウトしだした。まだ子供だ。そりゃあ、眠くもなるよなぁ。俺が抱き上げて膝上にのせると、そのまま眠っちまった。



「可愛いですね。本当に人間の子供みたいですね。」


「あぁ。俺がどっかに行こうとすると、「エリアス!いっしょ!」って言ってついて来ようとすんだよ。たまんねぇだろ?」


「それはダメですね。放っておける訳がない。」


「分かってくれるか?!」


「分かりますよ!けど街や村に行く時は、かなり注意しなければいけませんね。」


「そうなんだ。特に今回は魔物に教われたばかりの街や村だからな。魔物への警戒心が半端ねぇだろうからな。」


「そうですね。その為にも証明となる首輪があった方が良いんですが……」


「まぁ、首輪の方が分かりやすいからな。けど、やっぱり腕輪にしてくんねぇか?」


「エリアスさんがそう仰るなら。……僕もリュカに触ってもいいですか?」


「あぁ。もちろんだ。眠ってるから優しくな。」


「えぇ。」



 ゾランが隣に来て、リュカの頭を優しく撫でて、それから手を両手で挟み込むようにして撫でる。しばらくそうしていて、不意に怪訝な表情をしてリュカから手を離す。



「どうした?」


「……これは……もしかしたら……」


「なんだ?何が気になる?」


「エリアスさんは大丈夫なんですか?」


「え?何がだ?」


「リュカに触れてると、魔力が奪われていくような感覚がします。それと、すごく疲れるんです。もしかしたら体力も奪われてるかも知れません。」


「え?!それ、マジか?!」


「はい。僕も回復魔法の練習をしてますからね。体内の魔力の流れは把握できるようになったんですよ。その魔力が、触れているところから奪われていくような感じなんです。」



 回復魔法は最近になって、適正があれば練習次第で使えるようになる、ということが分かった。それまでは希少な力で女性にしか使えないとされていて、回復魔法が使えると判明すれば即座に拘束されて、国に強制的に隔離される。聖女という扱いにはなるが、家族からも離されて、自由もない状態にさせられていた。回復魔法の原理が分かってからはその練習方法も分かり、強制的に聖女とされる事はなくなった。


 光魔法が使える者に適正があることが分かり、身体中の魔力を循環させ、そこに体力や体液・血液なんかも乗っけるように循環させていって魔力を高めてあげると、回復魔法が発動する。ゾランも今練習中だそうだ。だから魔力の流れが分かったんだろうが……



「マジか……」


「これはヤバいですよ。人に触れたら魔力と体力を奪うなんて……え……?」


「リュカ……魔力と体力を奪う……」


「あ、いや、でもリュカは龍ですから!」


「あ、うん、そうだな!リュカは龍だ!人間じゃねぇ!」


「そうですよ!」


「そうだな!……そうなんだよな……」


「ですが、触れると魔力と体力を奪うのであれば、そう易々と触れませんね。分からずに触れ続けていると、命も危うくなるかも知れません。まぁ、龍に触れる事自体、あまり無いことでしょうけど……」


「そう、だな……けど、じゃあなんで俺は平気なんだ?」


「何故でしょうか……魔力が桁違いに多いからとか……分かりませんが……ただ、魔力が少ない者や体力の無い者は、すぐに枯渇するでしょうね……」


「そんなにか?」


「えぇ。これでも僕も魔力は多い方なんです。多分今ので4分の1は持ってかれてます。」


「この時間でか?!マジか……けどまぁ、とにかく他の奴等に触らせねぇようにしたらいいんだな。」


「そうですね。龍なのでそうそう触れようとはしないでしょうけど。では僕はそろそろ……」


「あぁ。登録の方は頼んだ。じゃぁな。」


「はい。ではまた明日。」



 触れると魔力と体力を奪う。なんだ?これ……アシュリーと、アシュリーの兄のリドディルク、まぁ俺はディルクって呼んでるけど、それから俺を含めた三人は、能力制御の腕輪がねぇと簡単には人に触れる事ができなかった。


 俺は、左手で人に触れると触れた人の光を奪い、右手で触れるとその人を操る事ができる。


 アシュリーは、左手で人に触れると触れた人から自分の記憶が無くなってしまう。右手で触れると触れた人の過去や未来が見える。


 ディルクは左手で触れると体力や生気を奪い、右手で触れるとそれを与える事ができる。


  俺たちはそんなふうに、変わった力を持っていた。アシュリーはずっと腕輪をしていなかったから、人に触れる事が出来ずに、いつも寂しい思いをしていたな……


 しかし、なんだ?これ……マジで運命感じるな。リュカも触れたら魔力と体力を奪うとか……俺の子のリュカもそうだった。アシュリーから魔力と体力を奪い続けて……だから俺がリュカを……


 俺に抱えられて眠るリュカの頭を撫でる。


 精霊の血を受け継ぐ者同士であれば、触れても問題なかった。だから、能力制御の腕輪が無くても、俺はアシュリーにもディルクにも普通に触れたんだ。リュカに触れても俺が問題ないのは……リュカにも精霊の血が受け継がれているから、か……?

 

 いや、しかしリュカは龍だからな。


 今俺は能力制御の腕輪を2つ持っている。それは、アシュリーとディルクの物だ。二人が天に召されてから、俺がそれを持っている。   まぁ、俺以外に必要とする奴がいなかったからな。


 リュカ……龍でさえなきゃ、俺の子と断定できるくらい、状況は揃ってる。けどリュカは龍だからな。俺の思い過ごしだ。そう思い込みたいだけかも知んねぇしな。


 ダメだな、こんな事で動揺してちゃ……まだまだだな、俺も。


 けど、それでもリュカを感じれた事が嬉しくて、今日も俺はリュカを抱きしめなら眠りについていく……







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