第38話 🌻 恋人に捧げるマノライの鍾

蝶蘭に預けていたジュディーを

引き取った時、レイが塔から降りる

のを教える鐘がなった。




ガラーンカラーンカラーン

続いて

リーンゴーン、リーンゴーン


二つの鐘は重なるように合わさって

何とも言えない音色となって空に

響いた。



音と共に、青く澄んだ空を見る。


白い鳩がバタバタバタと数え

きれない程放たれ円を描く様に

飛んでいった。




蝶蘭は初めて聞く鐘の音に

興奮してフリルの付いたワン

ピースをくるくる回した。



ハリー夫妻は甘夏を代わる代わる

抱きしめ何も言わず

辛そうな顔を見せた。


ガラーンカラーンカラーン

リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン


大きな空を割るように響く。


その鐘の音は、レイが塔から

降りた事、

3ヶ月の篭もりが終わった事を

国中に知らせる為、青い空や

山々に染み渡る程長く綺麗な

高らかな音は30分程続いた。


それはレイと甘夏の恋を

終わらせる鐘の音でもあり、

レイの婚姻が行われるのを

広く国の片隅にまで知らせる鐘の

音でもあった。



今日の夜、渡りが行われる。

花嫁は、今日の朝から御国入り

をする。


明日は朝からパレードがあり

王太子レイの結婚を国中に報告する。


城の外には報道陣が蔓延り

沢山の人が集まって、姫の到着を

今か今かと待つていた。


テレビカメラも何台も城のあち

こちにスタンバイしていた。


城は、3ヶ月前から準備に入っていた。


甘夏は、ジュディーを連れ

物置小屋に向かった。

広いお城を目いっぱい開け

見渡した。


色々あったけど、楽しかったなぁ〜


ジュディーを連れていくのは、

私を思出させ悲しませない為だ。


この世界に居るのならジュディー

は蝶蘭に託そうと思うけど

帰り道が分かったから、

私を忘れてもらう為には

ジュディーは矢張り連れて

帰ろうと思う。


ジュディーと離れるのも正直辛い。

蝶蘭、ゴメンね。

貴方も新しいイヌのパートナーを

探してね。

ゴメンね。


もう二度と踏み込めない世界だから。


思い残すこともない。

レイの結婚式や、

パレードを見れないのが

残念であり、また見る自信もない。



彼はルナ姫を愛しく思うはずだ...

用済みは、帰りますよ。

帰りますとも...



ルナ姫は、甘夏から見ても愛らしい。

レイも幸せになるはずだ。


負けを認めてジュディーと

一緒に此処を出る。

レイが幸せならばそれでいい。


甘夏は別の世界の住人なのだか...ら。

元々この世界では、存在しない。



幼少の頃、図書室で本を読んだ。


春は草原で居眠りをしレイの

馬に乗りあちこち走った。

背中に伝わるレイの温もりに

安心したな〜



2人で過ごすのが当たり前過ぎて

お嫁さんになるなる言ってたな。

フフフフ


夏は海に潜り魚を付いてBBQを

楽しんだ取り立ての魚は

うまかったね〜。


秋は、沢山の果実を取りまくった

なぁ〜食い放題だったし。


冬は2人お茶を飲んだり

パティシエの作ったおやつを

目当てに通ったなぁ。

今思えばあのパティシエは、

ヨンスンさんとカワンさんだった。

本当に美味しかったぁ



レイの部屋で居眠りをしたり。

いつも優しく暖かかったレイ

泣き虫な甘夏を励ましてくれた。


クスッ、レイには、何時も

ベッタリ甘えて来たなァ〜

あの頃は、レイも私が

一番好きって言ってたっけ...


あの頃に帰ると私が一番だ‼


今度はレイが幸せになる様に

私も応援するよ。


あんな可愛らしい姫様なら

レイもすぐ甘夏を忘れる事だろう。


いいよ。

それでいいよ。


「レ━━━━イ


さよならあぁぁぁ

いい王様になってねぇ━━━。



グスッ

さよならぁぁぁぁ━━━━。」


窓に写るレイを見つけて

甘夏は叫んだ。



窓越しに何かが聞こえた?

レイが振り向くと甘夏が手

を大きく振って何か叫んでいる。


窓を開け「甘夏━━━‼」と叫ぶ

結婚式の打ち合わせの確認をして

いたレイは、バッと窓に張り付き

バタバタと甘夏を目で追い走り

だした。

官僚達がバタバタバタと、

止めに入った。


「殿下、姫がお着きの刻限です。

お控えくださりませ。」


「レイ━━。

さよならぁぁぁぁ━。

おめでと━━━━━━う。

おめーでーとぅ━━━━━‼


バイバーイ


レイは、ビックリ仰天して

止める官僚を、振り払い直ぐ叫んだ。



「甘夏を捕まえろ━━━━━━━っ‼


早く早くしろ━━━━━━━っ‼」



叫びながら自分も、物置小屋に

向かって走り出した。


《《《《《兵をだせ

━━━━‼》》》》》

急げ━━‼

逃がすな━━━━掴まえろ‼ 》》》》


レイ

は、物凄いスピードで

甘夏を追いかけた。


《《《まてー 、まてー、甘夏

そんなに嫌なら婚姻は白紙に

するからーー


待つんだ━━ああ、

行くな━━‼》》》


何処に行くんだ━、

何処だよ━━━‼

まって、まってぐれーまさか━ ‼


やめろ、やめろォ━━━━‼

カンナー‼


お前だけは、

ーはなしたくな━━━━い。」

涙ながらに訴えるも甘夏

には響かず



まて━━━━━っ‼



甘夏は、大きく手を振りながら

ニッコリ笑うと


《《《ルナ姫とぉー、

末永ーく、御幸せにねぇ━━━。》》》


そう一言叫ぶと真っ白な服を着た

レイが、走って来るのを...

目に焼き付けるように見つめ、

その後鏡の中に静かにジュディーと

き え た・・・。


現生に帰るとヨンスンさんから

貰ったトンカチで


子供の頃レイが言ったように

又ガラスを割って繋がりを

消した。



トンカチは、ポロポロポロポロと崩れ

消えて無くなった。


しばらく泣いていた。

ゆっくりと腰を上げ、これで

良かったのだと

自分に言い聞かせた。

二、三枚割れた硝子を拾い

車に乗るとこれまでの出来事が

夢のように思える。



夏真っ盛りジュディーは疲れた

ように助手席で眠っている。


ひと袋無くなったお菓子のレジ袋が

パッカーンと開いていた。


きっとレイのベッドの下の

お菓子も消えているのだろう。


鏡がある内は存在するも、割れて

しまえば消えさる。


子供の頃もレイが持ち込んだ

本が全部消えてしまっていた。


レイへの恋心も消えてしまえ

ばいいのに・・・


沢山の人に出会い夢を見れた。

ー度はレイと添い遂げようと

思った世界。

実在するのは確かだった。


レイの成長を確かめ、思い残す

事はもう、何も無い、


甘夏は実家に向かい車を走らせた。


その日、姫が国入りをした。


しかしベールで姿を隠され

報道陣を避けて城に入った。


レイは甘夏が消えた物置から

抜け出せないでいた。

一日中そこに座ったまま、動かな

かった。


勿論渡りもなく、愛しすぎた

愛しい甘夏の胸内を思い泣いて

いた。


「愛情の無い婚姻なんて、

何の意味がある。

俺は甘夏だけで良かったんだ。



あの日甘夏の泣き声を聞いたのに

国の安泰を取ってしまった。


何の意味がある...。

もっと甘夏の気持を

優先させるべきだった。」


残ったのは二度と手に入らない

硝子の心が割れた事実


甘夏・・・を失った事実━━━‼



「お前だけを、ただ一人を

愛しているんだ。」

涙声でポッンと呟いた。


レイは、消えた鏡の跡に

ひれ伏して、なきじゃくり後悔の念

に苛まれた。


何年も何年も待ち、やっと会えた

愛する甘夏、それは気の遠くなる

ような長い時間をかけて

育てた愛情。


「愛してる、愛してる、愛してる。

お前だけだ。

嘘は無い。


レイの泣き声は高く高く響き

レイと甘夏を知る者達も

もらい泣きをした。


愛らしい甘夏の笑い声はもう

聞けない。

彼女が去った後は静かすぎる程

静まり帰っていた。


三人衆が見張りに立ち、誰も入れ

無くしていた。

三人衆の嫁達も黙ったまま、

小屋の入口まで来て涙に耐えていた。



三人衆の、彼等もただただ首を

振るだけで何も言わない。

殿下の泣き声は止むことはなかった。



レイは1週間過ぎても食さず、

憔悴していった。

うわ言のように甘夏の名を呼び

見る見る身体は力を落としていった。

王も后も満ちてくる暗雲を感じ



「こんな事なら、

こんな事になるなら

2人を添わせてやるべきだった。

愛し合っているのは、私達も

苦しいほど知っていた。」

と後悔していた。


レイに代わってエドワードが

国を守っていたが、レイの

病を聞きつける者が現われた。



ルナ姫は御国入りしたものの

甘夏の事を溺愛していたと知る

やいなや、ガックリと項垂れて

いた。


レイに愛されていると思い、

喜んで国入りしたのに、なんて事だ。


レイにも会えず...


渡りもなくパレードも延期になり

レイの体調不良を言い訳にして、

婚姻は、破談になりルナ姫は、

国に帰っていった。


相当の配慮金が、支払われ

急な病とゆう事で、

報道され回復の見込みがたたないと

婚姻は破棄された。


どうしたものかと官僚や、三人衆

エドワード、ハリーは悩んでいた。


いつ、戦を仕掛けられてもおかしくない。


するとエドワードに蝶蘭が言った。

じっは、張蘭はあの日、ジュディー

とお菓子を取りに異世界なる

日本に来ていた。



あのベッドの下にお菓子を持ち

込んだのはジュディーでは無く

蝶蘭だった。


不思議な世界の事に夢物語と

言って笑ったが、甘夏がどこから

来たのか誰も知らなかった。

そして、物置に入ったのは何人

かは、見ているのだ。


それなのに甘夏は...消えた。


白魔術師を呼び出し

方法を、教えて貰うことにした。

取るすべがないのだから、

蝶蘭の話を前提に事を起こさ

ないとマノライ国は滅亡へと

舵を取る事になる。



何人もの人がエドワードや明蘭、

蝶蘭と同じ体験をする。


避けなければ、頭にはそれしか

無かった。


レイにその話をしたら、

みるみる回復をしてきた。

希望が指したのだろう。


白魔術師が言うには

諦めるのは、早うござります。


甘夏の世界にはビックムーン、

十五夜と呼ばれる日がありまする。

鏡はことごとく割られもう

修復は鏡の欠片も

此方にはないから無理であります。


一欠片でもあればなんとか

なるものを...


しかし甘夏様の家にはこの世界と

繋がる道がある。



多分甘夏様がまだ未練を断ち切れ

ていない。

甘夏様の体からレイ様を想う

気持ちがそうさせておる。


厚化粧に抜かりの無い魔術師は

何歳か分からない。

化粧ケバく、まつ毛長ー

白いドレスに、ぷっくらした体つき

かなり歳いってる気がするが、


死ぬのを忘れてるくらい元気だ‼

そして、その赤いプルリンとした

唇で言った。


2人は硬い絆でむすばれておる。

想いあっておるから道はできる

やもしれぬ。



こちらが8月13日

あちらの世界が9月13日


この日道ができる。

連れ戻すにはこの日をおいては無い。

道の場所は本人達にしか分から無い。

いつ開くやも今では分からぬ。


時は動き出した。


2人が月を見て、想い想う事が道と

なる。


今は時を待つしかござりませぬ。

道は、必ず開けまする。



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