第27話 🌻明蘭を捕まえる。

「よし‼

いいか、よく見るんだ明蘭か?」


 「はっ、はい、め、明蘭様です。」

カワンは目を丸くして答えた。


「手荒いまねだが取り押さえるぞ

 張蘭、エドワードの為だ。

 よいな。」


 明蘭を回りから取り囲んだ。

 逃げ伸びれないと観念したのか

 明蘭は、回り込む鍛え挙げた

兵の見分け がついたのか、

ハッとした顔をしたあと

 力が抜けたように崩れ落ちた。


客に化けた兵士はガッチリ

としていて一気に入り込んで来たので

明蘭には直ぐ、理解出来た。



 死を覚悟したのかもう動かな

かった。

 酒場が、賑わいだした頃

 雇い主を呼び出し

 明蘭を解雇させ任意同行で、

連れ出した。


 兎に角、明蘭の事は秘密に

扱うため引き立てるのが一番

早かった。


罪人として誰にも説明すること無く

完璧に確実に安全な場所へつれだせる。

この酒場は、叩けばホコリの出る

奴ばかり誰も詳しく知りたがる

奴はいない。





ガックリと項垂れた明蘭に…


 「お嬢様、お懐かしゅう

御座います。」


車の後ろ座席で、うなだれていた

明蘭は聞き覚えのある声に顔を

ゆっくりあげた。


「カワンで御座います。

 覚えておいででしょう‥か?」

囁くような声で明蘭を覗き込んだ。


「ああ、あ、え、え、カワンなの?

 何で?

 カワン生きていたの?

 

 ああ、何てこと探したのよ。」


大粒の涙をポロポロと零し二人は

抱き合い崩れ落ちた。

明蘭は涙であふれた目をこらし


 「エドワード、エドワードは、

  生きているの?

 

  あなたと逃げたの?」



「姉上、…。」


明蘭は、父を思わせる懐かしい

声にハッとした。


その声に顔を上げエドワードの

頬を両手で挟み大きく目を開き

叉ポローツ、ポロポロと、

涙が溢れ出した。



「お父様ソックリよ。

 大きくなったわね。」


カワンがマノライ国に逃げて

レイと出合い、

王室にあがるまでを話した。



目を開いて、ただただ頷く明蘭は

カワンに感謝して御礼を言った。





      …………………

あの遠い日は、

お天気がようございましたね。



「お嬢ー様。おじょうさまー!」


  「カワンどうしたの?」


明蘭は10歳になったばかりだった。

くるくるの天然のブラウンの髪は

父親デビッド譲りだった。

ニッコリ笑うと愛らしい目がたれて、

お人形のように可愛らしかった。



「お嬢様、この中にわずかですが

お金が入っております。

ささ、お持ちください。」


「カワン怖い‼」


「 もう屋敷は、反乱軍に囲まれて

しまいました。


 私は、川に釣りに行かれている

若様を連 れに参ります。


 先に、お逃げください。

 さあ早く今ならまだ出れます。」



「嫌よ!

 怖い。カワン一緒に行くー。」


 明蘭は武装した反乱軍をみると

 恐怖におののいた。


「ダメです。大人といたら

捕まります。

 しっかりなさいませ!!

 若様は、逃げれないかも

しれません。

 しかしこの、カワン最後まで

お守りいたします。


命ある限り御守りいたします。

 例え私と、若様の遺体を

どこかで、見ても

立ち止まったり、駆け寄ったり

してはなりません。


 強く、強くなられませ。


 お嬢様は女の子です。

 捕まっても命は取られない

でしょう。

 カワンとのお約束ですよ。



 強く、賢く、お元気にお育ち

 くださいませ。」


 カワンは、最後の別れと思い

 泣き声を殺しながら震える声で

 言い聞かせた。


 いいですか?

 護身術は、しっかりと練習されて

 走り込みをかかさず、

やるのですよ。

 カワンが教えたのです。

 大丈夫!

 早くお逃げください。

 カワンはエドワード様の所へ

行きます。



 お嬢様だけでも生き延びるのです。

又、お会い出来る日が・・・

来ればよいですね。

ご無事をお祈りいたしております。」


明蘭に引き立てられる両親を

見せまいと カワンは、抱きしめた。


一階の窓から明蘭を

逃がし、自分は台所の裏口から、

飛び出した。


川へ行き若様から釣り竿をうばい、

投げた、


ささ、若様お友達にお別れを…

お友達も家にすぐお帰りください

そして家を出たらなりません。

皆様早くお帰りくださいませ。

できるだけ急いで


カワンは走りながらエドワードの

友人に言葉を投げかけ

エドワードの手をとると国境を

目指し一目散に走った。

ただならぬ気配に何かを察したのか

エドワードも必死にちいさな足で走った。


一週間前、反乱軍が潜んでいるとの

情報を耳にしたが侯爵は、

軍隊に援軍が来たと聞き

安心していた。

だが、カワンは、信じていなかった。

あのブラマダ国の王が信用

できなかったからだ。


天然カールの細身の男、

イヤミたらしく人を抜刀する。

なにせあのぴょんぴょんした

鼻ひげが気持ち悪い。


旦那様は、人がいい上にお優しい。

カワンの話を軽く聞いただけだ。


絶対許さない。

ブラマダ国王カイン、アラバレント。

おまえだけは、ゆるさない。

旦那様の仇は、必ず…

必ず…。



もしもの時のため明蘭に護身術

を特訓していた。

女の子だから最悪の事態が

起きたとき何とか逃げ延びる

ように。


そうしてその日、仲の良かった

家族は一瞬でバラバラになった。



「あの時、カワンが護身術を教えて

 くれたから生き延びれた。

 ありがとう…。ウウウッ」


「あれから、ご苦労された

と聞きました。ずっと、ずっと、

お探し致して、おりました。」



エドワードはスカートをはいて

リボンをつけた蝶蘭を城につれ

てきた。城とは呼ぶが宮殿である。


初めて見る宮殿はまるで別の世界に

入り込んだ、アリスのようであった。


庭は、大きな温室になっていて

広大に広く、バラ園は叉

花の山のようでもあり、沢山の

見たことのない美しさに

呆気に取られていた。


「蝶蘭、」


背中越しに呼ばれた名前は…

なま…えは…


蝶蘭の肩がブルブルと震えた。


蝶蘭にはすぐわかった。

振り向いたときには口からも目

からも涙が溢れていた。

生え代わった白い小さな歯を、

かみしめて


「うぐわあああーぁぁぁん。

 うわぁーあああーん。ママー

 ママー

 ママー

 ママー。」


久し振りの母親に抱かれ小さな

蝶蘭は、やっと、やっと寂しさと

苦しさから逃れる事が出来た。



その朝、甘夏は蝶蘭の短い髪を、

クシですきながら、リボンをさした。


フリフリのワンピースを着せて

優しく微笑んだ。


「いい、蝶蘭、レディとしての

躾があるから

 しっかり頑張るのよ。

 もう蝶蘭は、一人じゃないからね。

 つらかったら帰って来るのよ。

 今までの事考えたらたいした

事無いわよ。

 笑って、蝶蘭。

お城へ行ったら嬉しい事が待って

いるのよ。」


「・・・1人でいくの?」


「ううん、甘夏も後から行くわよ。

お城には蝶蘭の大事な人が

いるんだよ。


今日から蝶蘭は、その人と暮らす

んだよ。」


「暮らす?

ママ?見つかったの?」


「うん。」

蝶蘭は、少し不安な顔をしていた

けど


「蝶蘭、甘夏は、蝶蘭を騙したり

しない。

何より蝶蘭の事を考えているのよ、

ココにいたら、蝶蘭を探しに

人攫いが又来るかもしれない。


一番安全な場所に居たが良いの

甘夏も凄く寂しいわ!

蝶蘭に何かあったら必ず

守るから。」



「この人はね、蝶蘭の、いや

ママの弟さんよ。

だから安心してね蝶蘭」



「う?うん?」

蝶蘭は、かがみ込み見つめる

エドワードの涙を見て


「お・・じさん、悲しいの?」

そう呟いた。


鬼のエドワードの涙を蝶蘭は、

服の袖で拭いていた。


「悲しいんじゃない。

すまなかった、謝りたいんだ蝶蘭

君がいる事すら知らなかった。

酷い目にあわせたね。」


「ほら、髪の色も、目の色も

同じでしょ。

蝶蘭と同じ血が入っているんだよ。

安心してママの所にいくんだよ。」

蝶蘭の不安は、甘夏にも伝わった。

蝶蘭にエドワードは、敵じゃないと

教えるつもりで説明した。


蝶蘭は、幼心にぬか喜びはしない

と決めていたのか?半信半疑な

顔をしていた。


ママに会える期待と違う所に

連れて行かれる不安


小さな心は困惑していた。

しかしあの地獄から引っ張り出して

くれたのは甘夏・・

甘夏の言う事は信じて

見ようと決心した。



蝶蘭を見送る時、蝶蘭が

振り向き

振り向き

不安そうに手を振り頭を下げて

いたのを見ながら甘夏も手を振った。


「馬鹿ね蝶蘭頭なんて、

さげ…ウッウッ

 下げなくて、いいのよォオオー。

 私だって楽しかったんだからぁぁ」


見えなくなった黒い車を

いっまでもカワンとヨンスンと

3人で目で追っていた。


少しずつ伸びたオカッパの髪を、

揺らしながらエドワードに連れ

られて王太子専属の

車に乗って蝶蘭は裸足で駆け

回った、野原をながめ、山羊や、

馬、牛に、小さな声で、

ぶっぶっと別れをつげていた。


青々と晴れあがり天が高く高く

みえる12月の終わりだった。


そしてその夜2万発の花火が

上がった。

日本の有名な花火大会に負けない

ほどの大きさの花火に何万人の人

達が酔いしれた。


窓から花火を眺めつつ

蝶蘭の喜ぶ顔が浮かんだ。


「結局、母親には勝てないや〜‼

蝶蘭、今日は最高の日に

なったね‼」


蝶蘭と明蘭の再会を祝うように

湖の右側と、左側からけたたましい

音が響いた。



きっとママに抱かれて

花火をみてるね。


そう寂しく呟いた。

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