第11 🌻話密偵

向日葵の大輪の花が咲き誇る8月

青々とした季節が始まる。

山にはヤマユリが咲き乱れ

朝顔の花が庭を彩る。


「ヨンスンさん。

最近レイさんいらっしゃらない

みたいじゃ無いですか?」


ヨンスンはビーフシチューの

仕込みの手を止めながら苦笑い

してリラを見て

「婚礼の準備が始まったそうだから

忙しくあられるのだろうね。」

とやんわりとかわした。


ヨンスンは、殿下がリラ目的に

通っていたのは良く知っているから

リラにはレイの身分を明かしていた。



勿論リラは、レイの身分をヨンスン

に聞く前から知っていた

その事をヨンスンは知らなかった。


ヨンスンが見る限りリラもレイ様を

好きなように見えて身分違いの恋は

リラの何もかもを壊してしまうようで

ヨンスンは気が気では無かった。


暫く姿を見せないレイを待っている

リラをカワンも気にしていた。


「殿下の、お考えに従うしか

あるまい。」


娘の様に可愛いリラを、カワンも

ヨンスンも見つめながら物思いに

ふけっていた。



レイは、と言うと街の動きに

目を光らせていた。

今は何処から刺客が

出てきてもおかしくは無い。


既に何人かの刺客が放たれたと

レイの放った密偵から

連絡も入っていた。


レイがサンイリアーナに

来て滞在している事は世界中が知る所だ。


警護は少ないし狙いやすい。

こんな好条件見逃す筈は無い。


レイの背後から黒装束の西洋剣を

抱えた軍団が目を光らせ様子を

伺っている。


どうやらレイは

このサンイリアーナの地ではあまり

歓迎されていないようだ。


竹の道を歩く、レイは囮になる

三人衆と呼び寄せたレイの密偵が

周りを囲む。気付かれないように・・・


レイは適当な薮を見つけパッと

隠れる、レイを見失った輩は

小声だが探せ探せと言う声が

聞こえ隠れたレイの前を

数人の男が走り去った。


レイは一番後ろの男の首を捕まえ

胸打ちを咬ませる。


ウッと軽い声を上げ男は蹲った。

先の方でバシバシバシ、キンキンキーンと、金属の撃ち合う音が響く。

逃げられないと観念した密偵は

懐から小刀を出し

首の動脈を切って死に耐えた。


何人かは逃したが

捕まえた輩は次々に毒を飲み

死に絶えた。



ピーと合図を送るとレイの密偵が

駆け付けてきて蹲る男を捕獲し

屋敷に連れ帰った!


屋敷は兵がグルりと取り囲み、

重重しい雰囲気、

何時ものノンビリした温泉地の

雰囲気は消えていた。


レイも急いで屋敷に帰り

ドカッと玉座に座った。


密偵同士の腕の経つ奴らはレイの

追っ手に切られたり、自害したり

毒を飲んで命を落とした。

数人は逃げ出した様だが

何人逃げたかはよく分からない。

相当な人数だとかんがえれば

レイの息の根を止める最高の

達人の集まりだったのだろう。


しばらくしてレイに胸打ちを喰らった

男がレイの前に引きずり出された。



「私を付け回して何をするつもり

だったのだ‼」


男はボッサボサの髪の毛をして髭を

生やしていて顔はよく分からない。

男のボサボサの髪から

覗く目は(✧"✧)ギラリと生きていて

その目はレイ一点を睨む様に

座っていた。



「フン、何もしてやしません。」



レイは男にも負けない眼力で、

「何もしてなかったと申すか?」


男はレイの問いかけにふてぶてしく

ニンマリと笑いながら

「そのとおりでごぜえますよ。


私は百姓で税金を収めるのも

ままならず仕方なく外の仕事も

せにゃーならんのです。」


「ほほう」

レイは男の話も良くきいた。


「この地方は貧しい。

北と南はあまりにも生活水準が

違い過ぎる。


普通の仕事をしてたって飯は

食えませんぜ‼

あんたらお偉いさんには

分からねーだろうがな‼」


レイはこの男の口から飛び出した

以外な言葉に軽いショックを受けていた。


民の生活には目をむけていたはず

それにサンイリアーナ地方の北地には

援助もしていた。


然しこの荒れようは、どうだ?

支援をしてきたはずなのに?


それ以外男の口は貝の様に閉じ

固く何も喋らない。


然し百姓と言うからには土地を持って

いるはずだ。

くまなく聞き込みをして、写真を

村中の物に聞いて回った。



身分はすぐ割れた。

彼はブラマダ国の出身だった。


三年前、クララと言う28歳の娘と

ネンゴロになりこの土地に住み着き

そのまま彼女の家で寝泊まりしていて

最近結婚したと言う。


そんな新婚なクララは帰らぬ

夫を心配していた。


その後の調べで男はブラマダ国の

密偵だと判明した。


再びレイの前に引きずり出された男は

スンナリと密偵である事を認めた。

処が昨日とは一変‼

男はあろう事かクララとその両親の

命乞いをしてきた。


「クララと両親を助けてほしい。

クララも両親も私の素性を知らず

結婚しました。

何も罪はありません。」



最初は利用目的で近づいた

一年二年経つうちに

クララに惚れ込んでしまった。

淡々と男は話し始め


「自分の身はどうなってもいい。

私は私の主から何らかの沙汰が

あります。

私はもう殺されるでしょう、然し

今囚われの身となり家族を守れませ

ん。妻と義両親を私の主の手から

守って 欲しい。」


捕まった密偵の成れの果ては

一晩経ち何も助けが来ない場合は

毒を飲んで死ぬか、殺されるかだ。


男は自分の命乞いより嫁とその両親

の命乞いをしてきた。


クララと両親はマノライ国の

民なのだからどうぞ一民として

守って欲しいと哀願してきた。

明らかに昨日とは違う態度に


「昨日のふてぶてしさは何処に

消えたのだ?」


彼は膝まづいき両腕を顔の前で掲げ

レイにひれ伏した。


「申し上げます。

わたくしは、生まれ出た日より

両親がおりませぬ。


盗みを覚え、ギリギリの生活を

幼少の時より過ごして参りました。

人買いに売られ、密偵の訓練を受け

今に至っております。


自分は何処の馬の骨やもしれませぬ。


然し妻はこの地で生まれ育ち

両親もおります。

ただ私に利用されただけなのです。


私の職務も何も聞かず

迎えてくれました。


どうか家族にはお咎めありませぬよう

お願い申し上げます。」


「お前の主は誰ぞ ‼申せ!」

レイはきつく鋭い目を向け男を睨ん だ!


「わ、私も密偵のはしくれ

契約を交わした以上

申し上げられません。」


その時ビューウーン➔➔➔➛ピシュッ

男の背中に刺さった。

弓の威力に衝撃を受け男は

前倒しに倒れた。


「口封じか、なんて卑怯な‼」

レイは拳をあげ立ち上がった。


護衛の兵がバッと方方に散らばり

犯人を探しに飛び出した。


「逃がしたか!」

残念そうな護衛隊長は、引き抜いた

西洋剣を腰に戻した。


レイは倒れた男に駆け寄り

「大丈夫か?」

と薄笑いを浮かべ聞いた。


男は目をあけ?・・・?あ💦


「この部屋に入る前にお前に着替え

させたのは臭いからではない‼」


そう・・・俺は

この部屋に入る前着替える

ように、言われた。

背中に妙に重さを感じ違和感があった

着替えは兵がしてくれていた。


それから言われるまま手綱を引かれ

個々に引き摺りだされた。


レイはニヤリと笑い

人払いをした。


「案ずるな‼

それは防弾チョッキだ‼

衝撃は強かったか?

ハハハハ

然し刺さってはおらぬ。」


ノソノソと起き上がった男は

ビックリしていた。


「な、何とした事‼」


玉座に座り大笑いをするレイを

マジマジと見つめ、

「策に強い殿下と

聞き及びましたが感服致しました。」


と頭をつけた。


「なぜ私がこの時、命を狙われると

分かったのでしょう?。」


その問いかけにレイは

「昨日のお前の態度がふてぶてしく

仲間が入り込んでいると悟ったのだ

然し一晩過ぎてもお前を助けようとは

しなかった。


ならば、残る選択は一つしかあるまい。


私はお前の家族の行く末を案じ

お前に陸軍が使用する防弾チョッキ

を着せた。


お前を密偵とは漏らしてはおらぬ

私の胸一つに納めてある

お前の家族も嫁も知らぬ事だ。

これから、どうする

お前は死んだ者なのだぞ‼

もう咎めはぬ」


男は俯いたままガクリと項垂れた。

「罰は、無いのよですか?

死刑にされても文句は、

いえないのです

殿下のお命を狙ったのです。

家族を助けて頂くのなら

こんな贅沢はありません。

私は喜んで死罪になり

このまま消えます。」

レイは顔を顰め


「嫁はどうする?

このまま置いて行くのか?

お前の嫁は身ごもっておるそうだぞ‼」




「ああ、お前の子だろう?」


レイの言葉に男は涙をポロッと落とし


「こ、こんな・・・

父親はいない方が子供は

幸せです。」


レイは膝を扇子で叩き

「お前も、お前の父親と

・・・同じ事をするのか?

お前の両親も何か理由があったので

あろう。

乳飲み子を置き去りにするのは

苦渋の選択だったと思うぞ‼」




「今のお前なら両親の気持ちも

分かるのではないか?」


「は、はい、痛い程分かります。」

男はグスッグスッと、顔を手で拭きながら泣いていた。


「どうだ我が城へ来ぬか?

我が手の者としてはたらかぬか?

そうしたら嫁も安心して子が

産めるぞ、世話焼きの年寄りも

大勢おる。」


男は暫く考えていたが遂に重い口を

開いた。


「我が主は隣国ブラマダ国

防衛隊 隊長トーマス・マクリエル

既にこの国全体に密偵を

忍ばせてあります。

殿下のお命を常に狙っております。


城にも多分、例外なく紛れ混んで

いる事でしょう。


私が殿下の膝元で働くのは

無理があります。


妻と義両親だけでもお助けください

私は処刑台に登ります。」


レイは死を覚悟で家族を捨てる彼を

頭ご無しに叱り飛ばした。


「両親は年寄りで

嫁は身重なのだぞ!

逃げ切れるものでは無い‼

1番先に狙われるのは、私情を知る

と思われている身重の妻だぞ‼」


「うぅぅ!

私が死ねば・・」


「安心しろ、今は私の手の者が

お前の家の警備に付いている。


・・・

よし‼ 私もお前とのカケに出る‼

私の信頼する部下の元へお前を預けよう。

気持ちの良い公爵で跡取りがおらぬ

お前を養子に迎えさせる。


歳はお前の義両親より遥かに上だ

公爵は今病気で寝たり起きたりの

生活をしている。

自分の父親として孝行いたせ。」


「・・・は・・・い?。」

男は首部を垂れて泣いていた顔を

上げた。

「よろしいのですか?

私がそのような大事な事を・・

許されるのですか?」



「ああ、お前には侯爵の世話と

その地を守るように

命を持って私に償うのだ!!」



「はい、侯爵様にも父親と

敬い孝行致します。」


「お前は死んだ事になっている

怪しむ奴もおらぬ。


人の為に生きるのも良いが

自分の人生を家族と生きていけ。

なかなか、いいものらしいぞ‼」


男は密偵らしく片膝をつき深深と

頭を下げた。


「殿下、助けて頂いた命

殿下の為に働かせて頂きます。


本日より私の主は殿下でございます。

一度殺されれば契約は終わりです。



然し殿下には殺されても忠誠を誓います。必ずや必ずお役に立ちとう

ございます。

助けられたこの命、殿下の為に

使わせて頂きます。」



夜逃げ同然ではあったがレイ自身が

出向き義両親の前で



「我が国、南にあるリナアカに

移動を命ずる。

隣国メリディアン国との国境を

守り国に尽くせ‼」


レイは、命令書を高々に読み上げ


「ここと違って南は住みやすい。

子供もスクスク育つだろう。

アルフレッドに公爵の地位をあたえる。村人を思いメリディアンとの

争いも起きぬよう、シッカリ領土を

守ってくれ。

頼んだぞ養父公爵の事もよろしくな‼」



「はい、しかと承りました。

養父と義両親とシッカリ守って

参ります。


殿下の危機が訪れた時

この身を捧げ忠心より御守り

致します。」


義両親も嫁のクララも殿下の急な

来訪に腰を抜かす程驚き慌てふためいた。


うちの婿様はそんなに偉かったのかと

不思議な顔をする。

ゴロンゴロンしていたかと思うと

フラリと居なくなる。

 

それにいつも、

ダラダラダラダラしていたのに

キビキビした動作に人違いか?

と勘違いする程ビビってしまう。


髭を剃り、髪を整え、マノライ国の

正装をしたアルフレッドは

凛々しく見えて義両親もクララも

目を疑った。


アルフレッドは苦笑いを浮かべ

「クララ、よろしく頼む

家族も増える養父も、子供も・・・

苦労かける、すまない。」


と涙を浮かべた。

これからようやく一家の長として

又領地の主として責任を果たし

お前達を養える・・・な。」


穀潰しのアルフレッドはもういない。

クララは涙を浮かべ


「貴方は、なんとんつくれん男と

思っていたけど・・・

ヤッパリあんたは、普通の男と

違ってたね。


これで安心して子供が産める。」

(;´༎ຶٹ༎ຶ`)



その朝早くレイの用意した車で

老いた両親を連れて

アルフレッドは

南の地へと旅立って行った。


甘いと思われるかも知れないが

人を見る目は持っている。

アルフレッドは自分の命乞いは

せず妻、義両親の命乞いをした。


エドワードは苦笑いを浮かべ

「信用の線引きは難しい。

判断を誤ると国は滅びる・・・

しかし、その主の決断のまま

動くのが私達なのだ!」


アルフレッドが裏切る可能性も

ある、しかしレイのカケのまま

従うしかあるまい。


城から、急に駆け付けたエドワード

はレイを見ながらポンポンと

肩をたたいた。


振り返るレイは静かに笑い

「甘いと思うか?」

とエドワードに聞いてきた。


「決断は必須‼

我が主の、赴くままに。」

エドワードはニヤリと笑った。







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