第7話 三人衆の嫁。

「殿下、そろそろ、御公務のお時間か

と思われます。」


「ああ、また来るからな!」

それは誰に言ったのだろう?

殿下は重い腰を上げた。


馬は農道をゆっくりと降りていく。

先導するマークが、後のジンと

チャーリーに合図をおくる。


ウンウンと二人はレイの横に付く。

レイは馬の鬣を撫でながら、

揺れている。馬のしっぽと反対に

まるでメトロノームのように、

ニャニャしながら。


殿下

殿下 殿下

「大丈夫で 、あ、ら、れ、ますか?」


殿下 殿下

殿下

「あ、なんだ、大丈夫に決まっておる

何が言いたいのだ?」ニタニタ


三人衆はダメだこりゃー、

骨ぬきになっておられる。


と小声で話、レイの馬から離れ無い

様に進んだ。三人衆は、ここに来る

時は車を、お勧めしょうと

強い決心をしていた。



しかしレイが思うのは

リラの事ばかり。レイの中で、

リラと甘夏が重なっている。


あの日怪我をした娘が居ると聞き

焼き菓子店へとかけつけた。


しかし、人違いとしらされた。

ネックレスをしていなかった。


あの日は甘夏の割った鏡の修復を、

10年の歳月を重ね終えた日だった。


白魔術師を呼び儀式を行い、

道を開いた。

しかし飛んで来たのは1匹の

ラブラドール.レトリバーだった。


遠い10年前、甘夏の割った鏡の

一番大きなガラスから手を入れ、

一枚一枚拾い上げた。

一欠片も、残らないように。

全部拾い上げた時腕は傷だらけだった、そして二っの世界は閉じた。




「あら?奥様では?」

「まあー奥様?」

「あらららら?奥様」


三人の女性は示し合わせたように、

同じ、時間、黒いサングラスに、

黒のブラウス黒のスラックス。

三人は同じ目的、同じ悩み、

同じ決心をして城の庭に現れた。


「ううっ、ウチの旦那浮気して

いますの‼」


黒髪でガタイが良く、他所の女に

優しいマークは、モテていた。

そう嘆くのはマークの妻エレン


「実はお恥ずかしいのですが

ウチのチャーリーも如何わしい店に

お気に 入 りの娘さんがおりますの。

兄が見たそうで、確かめてほんとう

なら離 婚一 択ですわ。💢💢〃」


チヤーリーの妻マリアも強い決心を

していた。


「ウチも、土日仕事仕事、1ヶ月休

み無し って何?ですわ。もし裏切

られたのな ら 別れます。」

ジンの妻ニーナも実家に帰る準備を

して いた。


「私達、夫に蔑ろにされながらも

夫に尽くして いると言うのに、

オーイオイオ イオィ

ウッウッウッ、シクシクシク

許せません ゚皿゚キ─︎─︎ッ!!」


この三嫁は殿下付きの腕利き三人衆の嫁達だった。


そこいらの女性達より数段美人、三人衆もあの手この手を使い嫁に迎えた。

しかし


時間と慣れは過酷なもので、三人衆は釣った魚にエサをやらない男達だった。


女から母親へと変貌した妻に

一片の魅力を

感じなくなってしまっていた。


家に帰れば飛びついて子供が云々

姑が云々、近所付き合いが云々

首根っこを掴んだように赤い唇から

ああだ、こうだ、グチグチグチグチ


家にいるより、

甘い言葉を繰り返し囁き、

労い、甘い時間を与えてくれる

外の女に癒しを求めるのは

仕方がない事かも知れない。



まずマークが飛び出して来た。

真っ直ぐ自分の車に乗り城を後にした。

妻エレンが「おさきに」と慌てて

後を追って車で出て行った。


次は、チャーリーがバタバタバタと

出て来た。マリアも「では、お先に」

と待たせていた兄の車に飛び乗り猛スピードで追いかけた。


さてさて、最後に出て来たのはジン

ジンの妻ニーナも

今日こそ尻尾をつかんでやると

一大決心をして後を追った。


勇ましい妻たちは

流石に三人衆の嫁達だった。

誠に勇ましい‼


しかしマークもチャーリーもジンも

出かけた先は嫁家だった。

紙袋の菓子を渡すと直ぐ、愛する妻の待つ家へと帰ってきた。マークに少し遅れてエレンが帰ってきた。


「ど、どうしたの?早くない?」


エレンはマークを見て、嬉しかったが

平然と聞いてみた。

振り返ったマークはエレンを抱えあげ


「明日からは普通に帰れる、

今迄大変だった な‼

これからは俺も何でもやるよ。

近所トラブルは俺に任せろ

町内の役員も俺が引き受ける、

今から子供達を迎えに行って来

る。」




そう言うと三人は城で別れたのに

学校の校庭で、又顔をそろえた。


三人衆の子供達は

思わぬ父親の迎えに大喜び、

手を繋いで来る小さな手を

愛しく思い、抱き上げた。


僕も私もとせがむ子供達を

まとめて抱き上げる

三つの大きな影は校庭で別れ

それぞれの家路へと足をむけた。


「殿下、

上手く行ったようでございま すね。

本当に殿下には感服いたします。」


校庭の裏道で、

軽自動車に乗った、カワンが

微笑みながら申し上げる。


「三人衆は家族も同じ、

カワン、ヨンスンと

同じファミリーだと思っておる。


家族が上手く行って無いと聞けば

心配もするのは当然の事だ。」

助手席のレイが苦笑いをする。


カワン、

悪いがこれを三人衆の嫁殿達に

渡してくれ、頼んだぞ。

それは殿下のファミリーである

印の鷹の羽のブレスレット

と金一封だった。」


「確かに承りました。」

とカワンは答えた。

「これは三人衆には黙っておるように

申し添えよ。」


「え‼」と、カワンが驚いていると

「三人衆には渡しておらぬ‼」

と笑いながら校庭に入って来た車に

乗りかえ城へと向かって行った。


カワンは実は、ついこの前まで

レイに仕える密偵だった。

まだ若い側近のエドワードと

まだ若いレイを心配して、

ヨンスンの手伝いと称して城の中に 目を光らせ密偵として働いた。


ヨンスンはカワンが

密偵をしていた事を知らない、

そしてヨンスンの定年退職と同時に

カワンも城から離れた。


3嫁達もこんな事から仲良くなり、

連絡先を交換し

夫達の行いに目を光らせている。

子供は何でもよく喋る。

うっかり男同士で話した事を

妻には筒抜け、そんな事を

今更ながら知る。


三人衆が男より父親となったのは

矢張り殿下のお陰かもしれない。


「殿下、殿下、」

城に側近のエドワードの声が響く。

「最近、よく四人で居なくなる。」

と愚痴を零しながら

エドワードはレイを探している。






「リラ、リラ、何処だリラ。」

リラに夢中なレイは毎日、

焼き菓子店へと

エドワードの隙を狙ってやってくる。


カワンもヨンスンも頭を痛めていた。



「殿下、今ご婚約中であらせられます

お控え頂いた方がよろしくありませ

ん か?」


リラに殿下の婚約の話は酷だと

思った、リラも殿下を好きな様子は

カワンも、ヨンスンも直ぐわかった。


婚約の事実は何処からか

リラの耳に入る。

ならばリラがレイを諦めれる内に

事実を知らせたがいいと

ヨンスンは考えて

リラの目の前での発言だった。


リラは「エッ・・・‼」と驚いてはいたが

身分の差を理解していたのか、

最初から諦めていたのか、

夫妻にはわからないが、

それ程困惑はしていなかった。



「ああ、それなら大丈夫‼」

レイはなんだ、そんな事かと言う

様な顔をしていた。



「えッ!」

一同はその発言に驚いた。


「民のものは、一夫一婦制だが私は

第5夫人まで娶ることが出来る。

だからリラは安心して良い!」

悪い事をしている理由では無いと

主張しているようにもとれる。


(ん?待て待て、つまり、お妾さん

っ う 事?)


ニコニコしているレイは何を考えているのだ?甘夏は急にレイが、エロ親父に見えて来て少し気持ち悪くなって来た。






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