第6話 焼き菓子店の居候

リラはしばらくカワン、ヨンスン夫妻

の焼き菓子店で働く事にした。


この二人には良くして貰っている。

まるで本当の両親のように。


父親も母親も海外、

国内あっちこっち飛び回っていたから

本当の家庭を知らないリラに取って、

今は落ち着いた家庭に居るような、

ホンワカとした気分を味わっている。


リラは楽しく働いた。

栗色の髪に可愛らしい容姿は、

焼き菓子店に来る男達を魅了した。


この店は焼き菓子の他に軽い軽食をだしている、日本で言えばカフェに値するが専門はお菓子の販売。


お昼を食べに来る客も大勢いる。

リラの噂は噂を呼び皇帝の耳にまで

届いていた。


よく笑い明るくハッラツとして

まるで向日葵のような娘だと、

カラカラ笑うあどけなさは

好感を持つのは若者に限らず

沢山の人から愛されていた。


店は大繁盛した。当然リラに言いよる

男も後をたたない。


だからリラには婚約者が居ると

嘘の噂を流したが

焼石に水だった。


そんな時レイが、

3人の腕のたつ家臣を連れて

忍びでやって来た。


「いらっしゃいませーあ!!。」


厨房にいたヨンスンが飛び出て来た。

お忍びとは分かっていたので小声で

聞いた。


「殿下、今日は何か御用ですか?」



「用がないと来ては行かぬのか?」


「滅相もない。いっでもお待ち致して

おりま すが・・・。」


ヨンスンは引きながらも

殿下の顔を見ながら答えた。


「お前の菓子が食べたいだけだ。

ヨンスンが定年退職するまで

城にいた頃は毎日食べていたからな

急に無性に食べたくなるのだ。」


「な〜んか違うと思いますケド・・・

リラの噂を聞いたのではありません

か?」


ヨンスンの言っている事が

ドンピシャだった。


「ち、違うぞ、この3人の護衛三人衆

の妻や子供に焼き菓子を持たせたい

のだ。

いっも引っ張りだしているから感謝

の意を伝えたいのだ。」


と言うと三人衆は、突然の殿下の

お言葉に ポカーン…



?.?.?

「お前達、つ、妻や、子の好きな焼き

菓子を選べ 箱いっぱい用意するのだ

ぞ」


殿下はそう仰って店の中を

キョロキョロしていた。


「どうかなさいましたか?」


ヨンスンは殿下の様子が気になり

じーっと見ていたが、聞いて見た。


「ん?どうかとは?」


「いえ、今キョロキョロと・・・」


「な、な、何を言っておる・・・店の中

を見て いただけだ、失敬な‼。」


「エッ・・・と、リラは教会へでかけて

います よ。 カワンと、二人で神父様

の手伝いで焼き菓子を焼きに、

もう暫くすると帰ります。」


すると、菓子ケースの中を

覗いている三人衆に耳打ちした。


「お前達、大事な妻への贈り物だぞ

ゆっくりゆっくり〜と選べよ

決して早すぎてはならぬぞ‼」


え・・・、何でもサッサとかたずける

三人衆はゆっくり、ゆっく〜りの、

ペースが分からない。


三人衆は首を傾けながら適当に

選んでいた、ゆっくりゆっくり、

スローモーションの様に動く、

有酸素運動はどうも苦手なようだ。


ブランデー、ウイスキー、ワイン

が良く似合いそうな、背が高く、

イケメンでガタイが良く、

大柄な男性が、イチゴケーキ

モンブラン、クッキーにマドレーヌ

を睨み付けながらトレーに乗せている。


甘い物が大の苦手な三人衆・・・

甘ったるい匂いに鼻がムズムズ


三人衆は仕事オンリーで買い物等

全然しない。全部妻任せ、家の事、

子供の休みも重なる日、嘘を付き

遊びに行く、いかがわしい店にも

たまに行ってストレス解消


付き合いと言う便利な使い回しの

出来る言葉に守られながら遊び呆け

妻には殆ど構っていない。


男は稼ぎ、妻子を養い、不自由ない

生活をさせ、国を守る。


三人はいっも

レイと行動を共にしている護衛だ、

いつの間にか国の三人衆と

良ばれるようになった。


同世代より遥かに稼いでいる。

楽な暮らしをさせている

そう思っていた。


多少遊んでもバチは当たらない。

そんな過去を振り返り多少の

モラハラはやっていたかも知れない

と反省した。


妻子の好きな焼き菓子さえ

分からない。

三人はしみじみ反省をしながら

今度の休みは何処かに

旅行でもしょうかと考えていた。


菓子店の外から賑やかな笑い声が

聞こえて来る。


レイは読んでいた本を閉じて

窓の外に目をむけた。

ケラケラと笑いながら

歩いて来るリラとカワンがいた。


「おや、殿下の馬?」


お忍びで来る殿下の為に馬を繋ぐ、

つなぎ石を四つ用意してある。

そこに4頭の立派な馬が居た。


「うわぁー凄ーい。

こんなに綺麗な馬、。」


リラはふわふわしたワンピースを

翻しながら馬に駆け寄って

体を撫でた。

「リラ、殿下の馬だから殿下がいらし

ている失礼の無いようにね。」


リラはウンウンと頷いた。


カワンはまだリラが、遠いあの日の、

殿下か連れ回していた

娘では無いかと疑っていた。


殿下と仲の良かった女の子

何の為に殿下に近ずき、居なく

なったのか?

カワンの疑問はまだ解かれては

いなかった。


リラは平気に装っていたがレイが

居ると思うと心が弾んだ。


「陛下、選び終わりました。」


「早い、今度は嫁家への土産を選

べ。」


?.?.?

ギロりと睨まれては理由も聞けない。

三人衆はまたトレーを取り

ゆっくりゆっくり選び出した。


「ただいまぁー!」


三人衆もギョッとする明るい声。

静かな店が一転‼

パアアーッと賑やかになる。


噂の姫のお帰りにレイも目が止まる。

黄色い花をかかえ、

店内に飛び込んでくる娘は、

まさに妖精のような

可愛らしさ。


栗色の髪は緩やかなカール、

丸い目は愛らしく

口元は丸くツヤツヤしていた。


ドッキュュューン┣¨キ ッ

1本の矢がレイのハート🎯

目掛けて

飛んできてブチ抜いた。


ううううっレイはもう、気絶寸前。

「ありゃららら!殿下、殿下大丈夫で

す か?」


リラの後ろから入って来た

カワンが殿下を受け止めた。


「あああー噂以上であった。」


かろうじて椅子に座ったレイは

落ち着きを取り戻そうと

冷えてしまったブラック珈琲を

飲んだ。

┣¨‡┣¨‡は、止まらない。


カワンとヨンスンは直ぐ殿下の

様子に気がつき顔を見合わせ

お互い、困った事になったと呟いた。



ポカーンと呆気に取られたのは

リラだった。

幼い頃から、レイはいっも

自分を見る時♡を幾つも飛ばしていた。

甘夏、可愛い、可愛い。

そう呟いては髪や頬にキスをしていた。


昔と変わらぬ態度に、クスックスッ

安心するやら可笑しいやら。


レイはリラが甘夏と分からなくても、

魂は解っているようだった。


身体は凛々しく

勇ましい顔つきになっているが

中身は昔のレイだと嬉しかった。


甘夏もレイがただの青年なら

レイと分からなかったかもしれない。


しかし王太子として現れたから

レイだと直ぐ分かったのだ。


「お待たせしました。」


テーブルには香り高いオカワリの

珈琲が置かれついレイは嬉しそうに

「リラが持ってきたから凄く美味しそ

う だ。」

と本心が口を付いてでた。

リラもポッと赤くなる。


「リラ、お前はこのネックレスをして

はいな いのか?」


レイの胸の中から取り出されたのは、

トップを、鷹の羽で金の細い鎖と繋がったネックレスだった。


レイがあの夜リラの首に掛けて

くれた、ついこの間まで

愛用していた物と同じ・・・物。


何と返事をしていいのか?

無くした事を彼はどう思うの?

カワンさんヨンスンさんには

記憶が無いと言ってある。


嘘だとバレるし異世界から飛んで

来た事を話さなければいけない。


レイは、私を庇いきれるのか?


忍びで来ているからこそ、

この距離だが本当はリラが近ずける

存在では無い。雲の上のお人なのだ。


「エヘッエヘッ」

とりあえず愛嬌で誤魔化しとけ、

この笑顔が返事だ。


リラはそう思い、

レイがこの笑顔を見せると

メロメロ骨抜きになり、抱き締めて


「ん〜っ、甘夏可愛過ぎる!」

そう言ってキスの雨を降らしたことを

思い出した。


ん?

レイに変化は、見られない

やはり10年の歳月は2人に変化を

もたらせたのか?

大人になった甘夏の笑顔はもう

レイの心を掴めなくなってしまった?

んだろうか?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る