第5話 名前は、リラ。

「ん!未だ目覚めませんな。

顔色が良くなって来てますから

大丈夫でしょうがまだ油断はできま

せんよ。」


「そうですよね。」

カワンさんの声がする。

あの優しい響き。


「多分盛られた薬が効いてるのでしょ

う。又夕方、看にきますよ。

お大事に。」


アレ、昨日目覚めたのが夕方だったのに?一晩ねていたの?

静かにドアをパタンと閉める音がした。



寝返りをうとうとすると、足と腰が

ズキズキ

手をあげようとすると手首が又ズキッ‼


「あ・・・ヤバイ

これはヤバイ」


下から階段を上がる音がする。


誰かいる?誰?誰?


「おや、殿下直々にお出ましです

か?」


「ああ、怪我した娘が居ると聞いてき

た。この娘か?」


「はい、昨日朝方見つけましたの!

ヤギにベッタリと血がついてまして

ね。

野犬にやられたかと思いましたが

ヤギには怪我が無く山を見に行っ

たら、この子を見つけましたの!」


「そうか、

この娘、これを付けていなかった

か?」


「いいえ、何も付けていませんでした

よ。」


なんの会話だろう。

頭も上がらないただキョロキョロするだけだ


「まあまあ、殿下夕食を食べて行って

下さい ませ。

今日は、殿下の好物を沢山

作りますよ。」



殿下?殿下、レイ?

喋ろうとしても口が

切れているみたいで開けられない。

唇がタラコのように膨らんでいる。

Www


パタン、静かにドアが閉まる音がした。



しばらくして又ウトウトしていたら


窓の外ガタゴトが、賑やかになる

殿下がお帰りになるようだった。


力を振り絞り痛みを堪え、

窓の外を見る。



長い三つ編みの髪が見えた

振り向いた切れ長の凛凛しい目が

昔抱き寄せて、本を読んでくれたり

紅茶を入れてくれた背の高い、

高いレイ


変わらない目元、迎えに来ると言った

懐かしいくちびる、レイは

変わらない。

そのまま大人になっていて、いや

イケメンにも磨きがかかっていた。



ああ、レイ

甘夏は嬉しくて嬉しくて

駆け寄れないのがもどかしい。

懐かしい、その人だった。


「あああ、レイ‼」


パタン。


「おや、目が覚めたのかい?」


その声に振り向きズキッ

イタッ

「どうしてこんな目にあったんだい。

無理しちゃダメダメ‼」

カワンさんと旦那さんが駆け寄ってくる。


「あ‼」

外を見るとレイはもう立ち去っていた。


「まあ、喋れないし、ゆっくり休みな

さいもう少ししたら先生が見えるか

ら 入道食たべれるからね。」



こくんと頷くのがやっとだった。

怪我は日増しに良くなって行った。

2週間もすると

ベッドから体を起こし、松葉杖で

部屋の中を歩ける様になり

顔の腫れも次第に引き始め

ベッドで食事も取れる程に

甘夏は回復していた。


それから1ヶ月がたった。


今日、カワンさんとヨンスン

さんと初めてテーブルを囲んだ。



「おー大丈夫かい?」

カワンさんの旦那さんヨンスンさんが

声をかけてくれる。


「すみません、お世話になってしまっ

て、ありがとうございました。」



今までちゃんと言えなかった御礼を

2人に頭を下げて言う事が出来た。


「な〜んもう、当たり前だよなぁ

何にも心配要らないよ。」


カワンさんがレモンティー

を入れてくれた暖かいレモンティーが

全身に回っていく。


甘夏は少しづつ味わいながら


「美味しい。」

と呟いた。


「ところで、なんであんな目に

あったの?アンタ

何処から来たんだい?

名前は?」


カワンさんもヨンスンさんも、

質問ぜめに聞いてくる。


〃平行世界の日本からきました。〃

なんていえない。

平行世界から来たと言えば誰が信じる?


まだレイが生命をねらわれている

としたら私は一番に疑われる。

知らない国、この世界の地図には

無い国、日本‼

どこの誰とも言えない、正体不明な

自分。



「き、記憶が無くて‼

答えられません、ごめんなさい。」


小さい声で呟いた。


こんないい人に嘘はつき慣れていない。



「あーああ、成程、あの怪我だ、

仕方ない話だよ。

しかし名前がないのは不便だよな、

カワン、付けてやりなよ。」


「え、えええ?

なんて付けるんだい?」


「それを聞いてるんじゃないか‼」

「 ハハハハハハ馬鹿だな。」


「そうだねえ、

ン?ーン


リラ、リラはどう?

可愛らしい名前だろ、

あんたにピッタリ

リラ、あんたは今日からリラって

名前だよ。」



「リラか!うん、いい名前だ

可愛らしいのが気に入った。」

ヨンスンさんも納得したように頷く。


「ありがとうございます。

凄く嬉しい。」







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