第11話 嘘から出た

ねえ……起きて……。

ある朝だった。夕が隣で青ざめている。

「もりさん……。」

瞳孔が固まっている。

嫌な顔をしているのはすぐわかった。喜んでいない。そしてそれは本来は喜ぶべきことなのに喜んでいない。

「ど、どうしよ……。」

すっきりした朝日を浴びているのにも関わらず顔が浮かなく、部屋は照らされたホコリがふらふらと浮かび上がって、宙ぶらりんになっている夕の気持ちを察するように静かに生活をしていた。

そして俺はただ地に……万年床になった布団に胡座をかいて夕の横顔をしっかりと見ていた。

「いつから。」

「最近……来ないなって思って。なんか体調も優れない日が多かったし。」

予感っていうか……と独り言を付け足す。

慣れ、というか、デジャブ。

そう言いたいのもわかっていた。

「気をつけてたのに……。」

俺に泣き顔を見られたくないらしく、ご飯の準備をしようと、覚束無い足を無理やりしゃんとさせるように台所へ向かう。

「夕。」

その後なんて言ったかは覚えていない。


そんなこともあった。とか、片付けられるわけもなく、俺は最近そのことしか思い出してなかった。きちんと避妊具をつけなかったことをいつも怒られていたのに、それで喧嘩にもなったこともあった。結局、夕は''罪"を繰り返す結果になり、もういい加減にしよう、となった。


そんなことがあればもうどうにもならない。正直コウジが話に行ったところでまとまらないだろう。


「夕ちゃん!久しぶり!」

「コウジさん……。」

神妙な面持ちでコウジさんを迎えてしまう。

「俺さ、……最近さ、夕ちゃんと話したいなーって思ってたんだよ。タバコも吸いすぎなんじゃない?」

「さあせん……、それは友達にも言われてて。」

「まあ俺も吸ってたしさ、全然人のこと言えないんだけど、夕ちゃんはなんで吸ってるの?ストレス発散?」

「……。なんというか、気分転換とかもそうっすけど、戒め。」

みたいなその…と。

「何があったかは知らんけどさ、リクも寂しがってるよ?あいつもさ、タバコ増えちゃってさ、俺止めるのに必死だよ、正直。」

薄暗い店内でコウジさんの表情がはっきり見えるわけじゃないけど、明らかにもういい加減にしてくれと思っていそうだ。お前らは何回別れたり心配をかければ気が済むんだ、とか。お前は何回"罪"を繰り返したら反省するんだ、とか。

「……うっ。」

「ええ!?ごめん、泣かせるつもりじゃなかったんだよお……夕ちゃあん……。」

もらい泣きをしながら肩をさするコウジさんに首を振る。

違うんです。コウジさんは何も関係なくて。

「あいつ……夕ちゃんと付き合う前、中途半端な気持ちで付き合って大事な存在になるのかな……とかやわいこと言ってたけど、なんだかんだ夕ちゃんのこと本気だったんだよな〜。俺、付き合う前から見ててわかったし!」

「もりさんが……?」

「真実になるもんだよな〜、大事なのかな、そうなのかなとか思ってても大事にしたいって思えればなっていくんだもん、すげえわ。」

そう言ってコウジさんは自分の奥さんの話をし出した。いまいち気持ちが入って無さそうな奥さんがあるときを境にすごく大事にしてくれるようになったこと、色々あったけど今はすごく良好な関係なこと。

「あれ、俺いつの間にか自分語りしてたわ、恥ずかしい〜。」

「いや、私は嫌じゃなかったす。あざした……。」

「お礼を言われることはしてないけどなあ。」

この人、確信犯じゃないでしょうね……。

大事にしてくれてた、か。そんなことは言われなくてもわかっていたのに。

「私は……"罪"を犯した人間なので。」

ほっぺたをむにゅっとされる。そこで空気が一旦和む。

「ふふっ……何するんすか。もう帰ってください!」

冗談交じりに言うと、まあ本当にそろそろ。と帰っていった。

軽快な音を響かせスマホが鳴る。


つっつっつっつっ……。


心を落ち着けて、ノックする。


もりさん、もりさん……。


「「もしもし……。」」


私たちはいつもこう。

大好きな人を傷つけ、後悔し、振り返ってはまた悩み。


「声……聞きたかった……。ずっとっ……。」

今夜も月は綺麗です。


[完]


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