第9話 ディアブロ

「夕〜。」

月が手を振る。

あれから数年が経った。

「よう、月。」

タバコをもみ消す。

「夕、タバコやめてって言ったでしょう。」

「おう。」

知ってるよ。

「もう〜…どれだけ心配しても吸うんだから…どうして?」

「どうしてもこうしても…。」

ある意味自分への戒めだったりする。

タバコを吸っていれば辞められなくなるし、

そうすれば子供は作れないね〜

ってなるし、

一緒にいる人も子供を作ろうなんて言わないだろうっていう。

勝手な自負。


「…夕、ほんとにやめてったら。」

2本目を外で吸っていると、助手席から月が出てくる。涙目になっている。

「え、いや…あの。」

最近、感情という感情が出なくなっていた自分でも涙目になられるとさすがにちょっと動揺する。

「…そろそろ、新しい恋人を作って欲しい。結婚をして、子供を産んで欲しい。」

「わりい。それは…。」

どうしても許容できない。


もりさんと付き合っていた2年前。結婚するか否かとか、子供を作るか否かで揉めた。私がいつか作りたいと思うようになったら付き合ってくれるっていう話もした。

それから1年過ごして、もりさんからはかなりの回数プロポーズされた。

でも、夜を一緒に過ごすにつれ、愛情深い眼差しや、避妊具をしなくていいかっていう問いかけに、どうしようもない感情が顔を出す。

私はこの願いに答えてあげられない。どうしても、中絶したときの罪悪感や記憶が湧き起こる。


きっとこの人も、私のことを嫌になる。裏切る。


そういう思いがいつも湧いてくる。


「…別れて。」

避妊具をちゃんとするから。

そういうことじゃなくて。

ちゃんとお前のこと、見てるから。

そういうことじゃなくて。


むしろ。

こんな私、見て欲しくない。

いつも悪魔がささやく。

お前は幸せになれない。

お前を愛する人はもう現れない。


うん、わかってるよ。

煙の中で視界が半透明になる。

月が手を重ねる。

「夕…分かってよ…。」

泣かないでくれ。もう決めたことなんだ。

月は結婚をして、今妊娠をしている。

タバコを吸っている時は近寄るなと言っているのにやめさせようと何回ももみ消しに来る。

なんなら前ははりビンタをされたくらいだ。

「…。」

「月。もうやめてくれ。体に悪いよ。」

赤ちゃんにも月にも良くないよ。

「辞めるまで、辞めない。」

月は私を救う天使のようだった。

なのに、私に囁いてくる夢の中の悪魔には勝てなくて。

「頼む。吸わせてくれ…。」

そうやってまたライターに火を灯す。

泣きそうになる私を見ると月も黙りこくってしまった。


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